イオ、新宿に行く(イオ)
「友達に戻りましょう」
私、倉橋伊織がそう言うと、彼氏だった男は目に見えて狼狽した。
「なんで! 俺たちうまくやっていただろ!」
「そうね。でも、これからは自分のために自分の時間を使いたいから」
表向きの理由は、今回の期末テストの成績が上がっていたので志望校のランクを上げるため勉強するから。
本音を言うなら、ひと月ほどのコンクエストモードを経験したことで、彼が幼稚に思えてしまったのだ。
そこで一緒だった19歳のダイゴと18歳の一茶さんと、15歳の元彼を比べるのは酷なことだとは自覚しているが、一旦意識してしまうともうダメだった。
他にも細々(こまごま)とした理由はある。
例えば、彼の所属するサッカー部のマネージャーのようなことをやらされたり、善意とはいえ、部活の無い日はデート名目で束縛されたり……。
私は、下を向いて手を握り締めている元カレを一瞥すると、その場を去った。
「あ~あ、可哀想に。伊織、これで別れたの、中学通算何人目だよ」
「……見てたの?」
いきなり現れて隣を歩く赤髪のヒョロ男は皆川良助。いわゆる、私の幼馴染だ。
どこかのギャングチームに入っているのが自慢のどうしようもないやつ。
こいつが私に馴れ馴れしく話かけてくるせいで私の交友関係は良くも悪くも影響を受けている。
公立の中学までは同じだったので仕方なかったけど、さすがに高校は別になるからそれまでの付き合いだ。
「それで、何の用? ついてこないでくれる?」
「冷たいこと言うなよ、家、隣で帰り道一緒だろ?」
「お生憎様、私、これから駅に行くから」
「買い物か? 荷物持ち付き合ってやるよ」
私は駅の改札で良助を置き去りにして、電車に乗った。
まずは立川、それから中央線で新宿まで一本だ。
東京、といっても西部に住んでいる田舎者中学生の私には電車に乗るなんてイベントは年に数回、しかも都心にひとりで行くなんてのはちょっとした冒険だ。
新宿は祭りでもあるんじゃないかってくらい人が多かった。
案内板を確認しつつ目的の改札に行くと、そこには細見で長身の男が立っていた。
桐嶋大吾ことダイゴだ。
私とは4月に「ニューワールド」に転移した時からの仲で、「いわゆる初期メンバー」だ。
「イオ。迷わないで来れた?」
「バカにしないで。迷うわけないでしょ?」
「そう? 僕は降り口間違えると未だに迷うよ」
ダイゴは私が虚勢を張ったのを知ってか知らずか、そんなことを言って歩き出した。
私も隣に並んで歩く。
「今まで週に一回は会っているのに、なんかリアルで会うのって新鮮だね」
「そういえばそうね。それで、カブさんが?」
「そう。いきなりうちの専門学校に来てね。びっくりしたよ。例の土木作業姿で教室まで入ってくるんだもん」
今回の経緯はこうだ。
コンクエスト終了後、月曜日にカブさんがダイゴのところを訪れた。以前の身の上話で専門学校の名前は話したことがあったらしい。
それからダイゴ経由で私とケイに連絡があり、翌火曜日に新宿で集まることになったのだ。
「一茶さんとブリさんも来るの?」
「エトちゃんも。来れないのは連絡手段のないナギサだけ」
地下から地上に出ると肌に這うような暑さが纏わりついてきた。そこから少し歩いて靖国通り沿いのカラオケボックスに入る。今度は肌寒さを感じるような冷房だ。
案内されたのは、地元にはない50人くらいが入れそうなパーティールームだった。




