対黒山羊4
黒山羊はハイシールドを安々と砕く。。。が、少し、ほんの少しだけ勢いが落ちた。
その脇腹に、ブリの爪先がめり込んだ。
「りゅうせいき~っく!」
黒山羊は周囲の障害物を破壊しながら真横に吹っ飛ぶ。そして、なぜか大爆発。
ブリは勝利のポージング。
「バカ! 油断するな!」
爆発が収まると、そこには無傷の黒山羊。が、顔は怒りで満ち、目を血走らせている。
「……私、全人類はみんな友達になれると信じているの、あなたもそう思うでしょぎゃおん!」
錐揉みしながら吹っ飛ばされるブリ。
俺はバカ女を空中でキャッチした。
「いった~い! ぶん殴られた!」
……女ひとりを数百メートル吹っ飛ばす衝撃を受けて痛いで済ませられるおまえも大概だ。
『カブさん、用意できました、すぐに引いてください』
待ちに待ったエトの声。
「了解! 頼んだぞ」
俺はブリを抱えたまま高度を上げた。
見れば黒山羊の頭上には再びふたつの立体魔法陣が浮かんでいる。
だが、そのさらに上には、5つの立体魔法陣が浮かんでいた。
直後、世界を鷲掴みにして振り回すような激震が襲った。
エト、一茶、イオ、ケイ、ダイゴによる上級魔法5連発だ。
上がるきのこ雲、突風が辺りの物を軒並みなぎ倒す。
俺もバランスを必死で保ち、衝撃破に耐える。
……やがて揺れは収まり、世界はあるべき姿を取り戻す。
「これで駄目なら尻尾巻いて逃げるしかないな、エト、反応は?」
『ハアハア、まだ、あります』
息も切れ切れに答えるエト。
まだ土煙漂うグラウンドゼロ(爆心地)を上空から観察する。
周辺は綺麗な更地。
万を超すゴブリンの大軍の姿は形もなくなっていた。
だが、やつは、いた。
さすがに無傷とはいかなかったのか、身体中を血塗れにして四つん這いになっている。
「ブリ」
「あによ」
「行って来い」
俺はブリの肩に中村さんを置くと、そのまま手を離した。
なにをされたかわからないといった顔のブリ、それが遠ざかる。
高度1000メートルからの自由落下。
「てめえカブ、覚えてろよ!」
「おう、生きてたらな」
俺はグルカナイフを抜いた。
黒山羊は、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。
そこをブリが頭上から襲う。
「 流 星 き~っく、まきしまむ!」
黒山羊は再び吹き飛ばされた。
ブリも吹き飛ばされるが、地面に衝突する前に中村さんがクッションになって着地成功。
黒山羊は、ふらふらになりながらも立ち上がった、瞬間、俺は頭上からグルカナイフを振り下ろした。
ブリと同様に自由落下、さらに下級魔法で空気抵抗を抑えて落下速度を上げ、狙いすましての一撃だ。
指、手首、肘、肩に電流が走ったような痺れが襲う。
グルカナイフは衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散った。
同様に黒山羊の螺旋くれた右角も根本から砕けた。
俺は勢いのまま黒山羊にぶつかり、地面を陥没させて押し倒した、ところをなぜか抱き留められた。
助けてくれたわけではない。
なぜなら黒山羊の顔は、口角から泡を吹くほど怒りに震えていたからだ。
そのまま黒山羊は俺の頭を掴んで立ち上がり、宙吊りにした。
「……あ~、一茶。結構まずい。切り札を切れ」
『了解』
黒山羊は腕を振り上げ、唸り声を上げながら俺の胸を貫いた。
俺の身体が淡い光の粒に代わる。
俺は、笑みを浮かべた。
「残念だったな、山羊女。お別れだ」
俺は、殺されて光の粒子になったのではない。
俺たちの切り札は、『女神像破壊によるコンクエストモードの強制終了』による逃げ切りだ。
黒山羊は何度も俺の身体を攻撃するが、すべてすり抜けて効果がなかった。
黒山羊は歯を噛みしめると、理解できない言葉で言った。
なんとなく、その憤怒に塗れる顔を見ると、意味はわかった。
「殺す。探し出して殺す、死ぬまで殺す、死んでも殺す、生き返らせて何度も殺す……殺す、殺す、殺す」
「おう、そうか。頑張れよ」
こうして、俺たちのバカンスは終了した。




