痴漢はいかん
痴漢を疑われて警察に連行された時、もっとも簡単な解決方法は「認めてしまうこと」らしい。
やっていようがいまいが関係なく、そうすることが一番早く釈放されるとのこと。
有名な「午前に捕まり午後には釈放」ってやつだ。
初犯で従順なら書類送検止まりで済むし、調書だけなら1時間で終わる。下手に騒ぐと「反省の意思なし」として何日も拘留されるし、最悪裁判にまでなる。
極論として言うなら、いわゆる「前科」ってのは「罰金刑以上の実刑」らしいので、書類送検で不起訴止まりなら前科にならないから、傷口をもっとも浅く済ませるには「認めてしまうこと」が最適解ということになる。
そんなことを昔警察のおいちゃんから聞いたことがある。
「で、なにが言いたいの?」
一茶が冷めた目で俺を見る。
「つまり、痴漢やっても初めてでごめんなさいすれば許してもらえるんだよ。んで、俺、叩けば埃が出る身としては許してもらえない……」
「カブ、痴漢したことあるの? さすがに軽蔑するんだけど」
「痴漢はねえよ! けど……」
暴行傷害と器物損壊はある、そう言おうとした時、『お客様』が我慢できずに叫んだ。
「なにごちゃごちゃ言ってやがる!」
今の状況を簡単に説明。
週末、持ち帰った4キロの金を換金するために例の古物商のところに持ち込もうとしたところ。
人通りの少なくなったのを見計らって前後に2人づつの男に囲まれたのだ。
「で、どう? 勝てる?」
「勝てる、とは?」
「ぶちのめして靴を舐めさせられる?」
「おまえ、最近ブリが感染ってるぞ」
「おっと……」
俺は相手を見た。
身体を鍛えているのは2人、うちひとりはジムかなにかで筋トレだけしている感じ。
残る2人は、鍛えてすらいないヒョロガリ。全員が20代前半、ヤクザにもなれず街をふらついているだけのチンピラって感じだ。
「ま、これならなんとかなんだろ」
「じゃあよろしく」
「……おまえはやらんの?」
「僕の専門は知的労働だから」
なにか言い返してやろう、そう思った時、俺は胸倉を捕まれた。
ジムで身体を鍛えているやつだ。
「いいから黙ってゴールドを出せ!」
顔を近づけ、臭い息を吐きつけてくる。
俺は辟易としながらもバッグに入っているゴールド4キロを渡した。
それを男は、片手で、受けとった。
ゴールドは見た目より重い。比重というやつが高いかららしい。鉄1キロと比べると確実にゴールド1キロのほうが重い(なぜか一茶に鼻で笑われた)。
男はそれを意識せず、片手で受け取ってしまった。
肩が外れるんじゃないかという勢いで下がる腕、がら空きの顎に向かって俺は拳を突き上げた。
そのままバッグを奪還、ハンマー投げの勢いで思い切り振り回し、もうひとりの鍛えている男にぶつける。
嫌な音がした。
男は肘でバッグを受けたが防ぎきれず、そのまま壁に叩きつけられた。ま、4キロのハンマーでぶっ叩かれたと思えば当然の結果だ。
たぶん、肘、ぶっ壊れちまったな。
残った2人を見る。
ひとりは腰を抜かし、もう1人は背を見せて逃げ出そうとしたところを、一茶に足をかけられて転倒した。
「……で、誰の命令?」
一茶は屈んで転んだ男の顔を覗き込む。
「僕達がゴールドを持っていること、知っていたよね。誰に聞いたの?」
男は目を逸らして、答えた。
「……古物商の店主」
あのババアか。
一茶はそれだけ聞くと立ち上がり、俺に言った。
「カブ、行くよ」
「古物商に? 店ぶっ壊すか?」
「そんな無駄なことしないよ。今後も小蝿の如くうろちょろされるなら別だけど」
つまらん、あの糞ババアの泣き面拝んで高笑いしてやればいいのに。
「ま、いい時期ではあったけどね。取扱い金額も増えてきたし」
「じゃあこれからどうすんだよ、換金できないならゴールドなんて持ってても意味ないだろ?」
「そろそろ僕達も次のステップに進む段階かな?」
そう言って一茶は携帯で警察に電話した。




