上級魔法
俺の眼前に立体魔方陣が浮かんだ。
そこから浮かび上がるのは、氷塊。半径5メートルはある巨大な楕円だ。
一瞬の交差、後、その楕円は全方位に砕け散った。
氷雪系上級魔法、『アイシクルフレア』だ。
多方向に氷柱を飛ばす全体攻撃魔法で、対空中戦では猛威を振るう代物だ。
なぜ、空中戦で猛威を振るうのか。
この氷柱、自動追尾してくるのだ。
群れていたワニ共は追いかけてくる氷柱に身体を傷つけられ翼を破られ、落下していく。
前述の通り、飛行は高等技術だ。
バランスを失えば必然的に落下する。
見れば、下には待ち構えるようにブリがいる。少し離れてエトとイオ、一茶、それに元凶のケイだ。
俺は、氷柱から逃げた。そう、ターゲットはワニだけではない。俺もなのだ。
迫る氷柱、旋回して振り切ろうとしても当然のように追尾してくる。
「のりこ、来い!」
俺はのりこを呼ぶと胸に抱きかかえ、ダークネスで身体を覆った。
ダークネスを発動中はほぼ無防備になるから襲われたら一溜まりもないが、幸いワニはほぼ全滅している。
自動追尾は魔力感知で対象を追っているはずだ。これで、振り切れるはず。
氷柱は、俺を追い抜き、目標を失って砕け散った。
が、副産として、俺のシールドを傷つけていきやがった。
俺は、バランスを崩して落下した。
急ぎ新しいシールドを作成して翼を作り直す。イメージはハンググライダーではなく、パラグライダー。
風に乗り、ゆっくり地表に向かって落ちていく。
そのまま数度の方向転換をして落下したワニに止めを刺しているブリのところまで降り立つ。
「うを~、かぶ~☆」
ハイテンションのブリ。まあ、いつものことではある。
見るとエトたちもこちらに走ってきていた。
「見た見た!? 私のアイシクルフレア、格好良すぎじゃね?」
俺はそうのたまうケイの頭頂部を掴んでお辞儀をするような前傾姿勢にさせると、背中に乗り、両腕を逆に極めた。
「ぎーーーやぁ~~~!」
「おー、パロスペシャル」
俺は少し腕を緩めた。
「ごめんなさいは?」
「……なにぎーや~!」
再び上がる悲鳴。
「カブさん、ほんっとーにうちのがすいません」
そう言って頭を下げるのは鎧姿にソバージュの中学生、イオだ。
「おまえは、年下に頭を下げさせて恥ずかしくないのか!」
「だから、なにがよ、痛いって~」
「おまえは! 今! 俺を! 殺しかけただろおが! 魔法で巻き込みやがって」
「だって、カブ生きてるじゃん、ぎゃおん!」
俺はケイの両手を離すと思い切り尻を平手で叩いた。
尻を押さえて地面に伏しシクシクと泣くケイ。こいつはすぐ泣く。
「……私、現実だとモテルんだよ? なのにこの扱い、酷すぎね?」
「うッさい! おまえは馬鹿だ。ある意味ブリより馬鹿だ!」
「はいはい、その辺で。イオちゃん、今のうちにまだ生きてるワイバーン倒してポイント稼いできな」
「あ、はい!」
仲裁に入ったのは一茶だ。
「ったく、運が悪かったら本気で死んでたぞ」
「まあまあ、カブなら大丈夫だと僕も思ったけどね」
「おまえの大丈夫は即死じゃなければ、だろ?」
「まあね」
即死じゃなければ、回復魔法でなんとかなる。理屈じゃそうかもしれないが、死ぬほどの目に合わされるほうにしてみればふざけた話だ。ぶっちゃけ高度千メートルから墜落すれば即死の可能性のほうが高いだろうし。
「ダイゴは?」
「せっせとスクロール作ってるよ」
「あいつ、すげえな」
ダイゴは、俺とは真逆の称号を持っている。
「シングルタスク」だ。
今のご時勢、社会人は多くの仕事を同時にこなすことが求められる場合が多いが、他には脇目も振らずにひとつのことを集中してこなす職業というものもある。
それは高度な集中力を要する仕事、職人だったり研究者だったり、芸術家などがそうだ。
スクロール作りは、まさにそんな高度な集中を要する作業で、ダイゴは一度作業に入るとぶっ続けで6時間とかこなすのだ。
「今までは時間がなかったから諦めてたスクロールがいくつかあって、それに着手できるのはいいね」
そんなことを爽やかな目に隈を作ってダイゴはのたまうのだ。
そんな苦労して作ったスクロールをケイに無駄撃ちされたりするんだから悲劇なのだが。
「なあ一茶、そろそろ帰るか?」
「現実に? 帰りたい?」
「いや。逆に全員が帰りたがらないのが不安になる」
「意外と真面目だね」
「意外ってなんだよ」
一茶は光魔法『セイクレッドレイ』でまだ生きていたワニを焼き殺した。
「今はバカンスくらいに考えられないかな」
「……考えてみれば長期休みとかもバイト入れてたから手持ち無沙汰って慣れてないんだよな、俺」
「じゃあいい機会じゃない? それに、現実に帰ったら、休む暇、ないからね」
俺は苦笑する。今までも一茶と一緒に現実でそれなりの種を植えてきた。これからは、それが実ってくる頃ってことだろうが……。
「脅してんのか?」
「まさか。本音で話すとね、僕は君のことをバディ(仲間)だと思っている。僕が考えていることは僕だけじゃ実現できない。君と一緒で初めて実現できるんだ」
「エトやブリは?」
「もちろん大切な仲間だと思っている。でも、エトちゃんは無理してなにかを得る必要のない『持っている側』の人間だし、ブリちゃんは、ねえ」
「今回知り合った4人は?」
「まだ、かな。信用はしているけど、信頼するには」
「面倒くせえやつ」
いい機会だ。
俺は、今までに付き合わされた面倒くさいことを思い出した。




