新たな展開
「深化するよ」
一茶がそんなことを言い出したのは、期末テストをなんとか乗り切った最初のクールタイムでのことだった。
7月に入り梅雨も明け、夏の暑さが段々と忍び寄ってきている、そんな時期だ。
俺とブリがなにいってんだこいつ?的な目で一茶を睨んでいると、エトが代表するように聞いてくれた。
「一茶さん、深化ってなんですか?」
「階層深化。わかりやすく言うと、敵を強くするんだ」
「敵を」
「強くする?」
「そう。掲示板によると、新しい敵が出てくるらしい」
今、俺達の前に出てくる敵はゴブリンとジェネラルだけだからな。もっと強い敵が出てくるようにするってことか。
「それって、危険じゃないですか?」
「危険はもちろんあるよ。でも、メリットもある。敵の数と質が上がれば、より多くのポイントが稼げるようになるんだ」
「ま、いいたいことはわかるが。実際最近じゃジェネラルも物足りなくなってきたしな。けど、そんなポイント稼ぐ必要あるのか?」
一茶の目的のひとつは金稼ぎだ。
そのためにポイントを金塊と交換して現実に持ち帰るってことをしている。
が、現在の上限はひとり1キロの計4キロでそれを交換するには40000ポイントで足りる。
別に、ゴブリン狩ってても十分稼げる値だ。
さらに俺達は裏技的に現実から折り紙を持ち込んで毎週ひとり1万ポイントを稼いでいる。
余剰、とまでは言わないがそこそこ稼げているのが現状だ。
俺達は、エト以外はジェネラルの単独撃破ができる程度には育っている。
エトにしてももうしばらく鍛えればできるようになるだろうし、それからでも遅くないような気もする。
「今、『ニューワールド』では新機能が追加されて間もないでしょ。イニシアチブを握るには、早く動く必要があるんだ。そのためには活動資金は少しでも多いほうがいい」
「焦ってんのか?」
「少しね」
「私は反対!」
そう言ったのはブリだ。
「一応聞いておくけど、なんでだよ」
「なんでって、なんでもよ!」
「なんでですか?」
「なんでも!」
答えになってない。
この間のテスト勉強で一茶に下手な拷問みたいなスパルタ喰らったからお返しに反対しました、てなところだろう。
「ま、ブリのことは無視していいとしてエトはどうだ?」
「私は賛成です」
「あんた私のこと馬鹿にしてんでしょ! 私のピアスがマグネットピアスだからって馬鹿にしてるんでしょ!」
「うるせえ! テストが終わってはっちゃけようと思ったけど耳に穴を空けるのが怖いからとりあえずマグネットピアス付けましたなんて馬鹿にされて当然だ!」
そーだそーだ!
言葉を遮られてヒクついているエトの足元でのりこがブリに向かって吠え立てる。
「それじゃあ3対1で多数決、深化決定でいい?」
「いいですよ」「ああ、オッケーだ」
「反対、反対! いた、犬すけ、噛むな~!」
「よかった全員賛成で。実は、深化しないとできない機能がいくつかあって、さ」
「へえ、どんなの?」
「私賛成してない!」
「まず、メンバーの合併解散。僕達、今4人でしょ? これに仲間を加えたり、もしくは解散して他の人のところと合流したりできるようになるんだ」
「意見を無視されている点で私は仲間とみなされていない気がするのですが気のせいでしょうか!」
「気のせいだ」
きのせーだ。
「私達は幸い脱落者なしですけど、仲間を失ってひとりで女神像守るなんてことになったら詰みですものね」
「それじゃあこれから仲間増やすのか?」
「それ、なんだけど、気心の知れない人を入れるのは不安があるんだよね。取り分の問題もあるし」
「それじゃあ増やさない?」
「いや、最低4人は入れるよ」
一茶が言うには、深化した後にできるようになることのひとつに『クラン作成』というのがあるらしい。それの作成条件が8人以上とのこと。
「クランってなんだ?」
「あんたほんっとーに馬鹿ね! オンラインゲームとかでいうチームのことよ!」
久しぶりのブリのオタ知識。相変わらずむかつく。
ついでに言うとオタ知識で俺をやり込めたことで満足したのか以降ブリは反対を口にしなくなった。
この辺が鳥頭というか……。
「それ作るといいことあるのか?」
「クランを作ると通常のポイントの他にクラン独自のポイントが別に稼げるらしい。つまり、クランに所属していれば単純に稼げるポイントが2倍ってこと」
「そりゃお得だ」
と、言う訳で俺達は「深化」を行った。




