お寺で勉強会3(カブ)
その後、しばらく勉強して俺はエトを送っていくことにした。
「おい、一茶。ちょっとエトを送ってくる」
「了解。ついでに創生委員会にも顔を出しておいて」
「わかった」
「かーぶ~、たすけてよぉー。もう咽喉が痛いの、頭も痛いの~!」
「もう少し頑張れ、もうすぐ夕飯だから」
ちなみに、この後も終電まで音読させられたのはいくらブリでも同情したが。
俺は外に出ると、門の外で待っているエトのところまでバイクを持っていった。
「久しぶりに勉強しまくったなー。朝から始めて6時間以上か? 受験の時でもこんなやんなかったかも」
「でも、たぶん一茶さんはこれ、毎日やってるんですよ」
「すげえな。やりたいともうらやましいとも思わんけど」
エトはくすりと笑うと、俺の差し出すヘルメットを受け取った。
バイクがエトの体重を受け、ゆっくりと沈む。そして、腰に回した手が閉められ、背中にエトの体温を感じた。
「よっし、出発~」
「はーい」
ゆっくりと走り出すバイク。
エトの心音が俺の背中に響く。普段見慣れている景色でも、立ち位置が違えば見えるものも変わってくる。初めてのバイクでの景色に興奮しているのだろう。
幸か不幸か、道は空いていて目的地にはすぐに着いてしまった。
3メートルを超える重厚な塀。神社のように都内一等地に関わらず緑溢れる広大な敷地。中には数面のテニスコートに茶室、映画館に室内プール、プラネタリウムまであるという噂だ。
私立佃島女学院だ。
そこの門に、ひとりの女性が立っていた。
長い髪、切れ長の瞳、身長は170の後半はありそうだ。
格好はシックなメイド服。
歳こそ40絡みだが、未だに現役のキャリアウーマンのように格好いい、そんな印象の女性だった。
俺は、その女性の前にバイクを止めた。
「到着、と」
「お疲れ様でした~」
そう言っても、エトはバイクから降りなかった。
「エト、着いたぞ」
「そうですね~、ぐえ」
なにやら美少女にあるまじき声を上げて、バイクからエトの体重が消えた。
振り返ると、エトは女性にバイクから引きずり降ろされていた。
「生徒の送迎感謝する。が、他の生徒との影響からもこう堂々とされるのは控えてもらいたい」
「そんなこと考えてなかったな。以後気をつけるよ。で、あんたは?」
「これは失礼。私は、上代というものだ。ここの寮長をしているものだ」
「ああ、エトに射撃を教えてくれてる……」
言ってはいけなかったのか、上代はエトを睨みつけ、エトは慌てて目を逸らした。
「と、いうことは君がカブか。美夜くんからは色々と聞いている」
「そうらしいな。なにを聞いているかは気になるところだけど」
これが、俺と『魔女』上代貴美子との出会いだった。
後日譚、ブリは赤点を逃れた。それに伴う副作用はいくつか生じてしまったが、今は語るまい。




