お寺で勉強会1(カブ)
と、いうわけで、翌日、俺は住居である天上天下寺に仲間3人を招いた。
「すみませ~ん!」
呼び鈴代わりの鐘の音とエトの声が聞こえて、俺と同居の優婆塞4人は玄関に向かった。
「お、おんな!」
「おじょうさまだ!」
「ハアハア」
「ふーすっふふーすっふ」
「えっと、ほ、本日はお招きいただきありがとうございます」
ドン引きしつつもエトは頭を下げる。
「おう、よく来たな。こいつらは同居人だが気にするな」
ビシっと整列して紹介を待っている作務衣の坊主頭4人。が、俺は無視した。
「とりあえず上がれよ。ブリと一茶はもう来てるよ」
「はい、お邪魔します」
エトは靴を脱ぐと自然な動作で揃えた。こういうところで育ちが出るよな。ブリなんて脱ぎっぱなしだし。
「藤次さん! さすがに無視は酷くないっすか!?」
「ブリはともかくエトはおまえらとは格が違うんだよ! 頭が高い! 端で控えてろ!」
「なんだとこら! てめえ、調子に乗りすぎだろ!」
基本的にこいつら、悪いことして更正のためにここにいるような連中だから喧嘩っぱやいことこの上ない。
「おもしれえ、文句あんならかかってこ、ぐお!」
いきなり背後からタックルしてくる。そのままそいつは俺の下半身に抱き付き、残りの3人で俺をリンチしてきた。
「てめえら、卑怯だぞ! あとでわかってんだろうな!」
「うるせえ! これみよがしに美少女を見せびらかしやがって! ちくしょう、ちくしょう!」
「あ、あの~」
エトの声にクズどもの攻撃が止む。
「こ、これ、みなさんでどうぞ」
そう言った後のクズどもの反応は、エトの考えていた反応とは違うものだっただろう。
クズどもが、怯えだしたのだ。
俺はその隙に立ち上がり、4人をぶちのめした。
「エト、サンキューな」
「は、はあ」
俺はエトの差し出す土産を受け取った。どうやら駅地下の有名クッキーのようだ。
俺はそれを倒れ伏しているクズどもの前に置いた。
「後でお茶と一緒にもってこい」
俺はそう言って奥に歩いていった。エトも慌ててついてくる。
「いいんですか?」
「いいのいいの。宗教は階級社会。後輩はクズ虫みたいなもんだよ」
「はあ、そうなんですか。ところで、みなさん、なんでお土産に怯えた目を向けたんですか? ひょっとして、クッキー嫌いだったとか?」
「ああ、あれはエトのせいじゃない。うちの寺にはルールがあってな。もらい物は絶対に残さず消費しなくちゃいけないんだよ」
「??」
「一見なにが問題かわからないだろ? 実際檀家さんからの差し入れはありがたいことのほうが圧倒的に多いんだが……」
俺は溜めて言った。
「それが重なったりするともう地獄。うちは若い男5人もいるからって理由で生の食い物なんか貰うと、3食それだったり、酷いときは揚げ物ひとり数ダースなんてこともあるんだよ。ルールのために絶対に残せないから悪くなる前に泣きながら胃に流し込んでさ。そうなるともう拷問だよ。ちなみに先週そういう状況になった」
「それじゃあ食べ物じゃご迷惑でしたか?」
「いや、そんなことねえよ。むしろ消費期限の長い乾き物はベストチョイスだ」
長い渡り廊下を歩く。
「大きなお寺ですね」
「ああ。100人は余裕で入れる斎場とかもあるしお堂もあるからな。ちなみに、向かってる先はお堂な?」
「あの、親御さんは?」
「和尚は今、ハワイでサーフィンの大会に出てる。老師は……、たぶんニューヨーク」
「はあ、今はご兄弟さんだけですか?」
俺は足を止めた。
「いや、あいつらは兄弟じゃないから。えっと、ここは寮みたいなもんだ。俺も高校卒業したら出ることになってるし」
「そうなんですか? それじゃあご実家は?」
「さあな。どこか忘れちまったよ」




