のりこ登場!
忙しくなった。
俺、カブこと相田藤次が、ではない。
一茶こと工藤清士郎が、だ。
「ニューワールド」では、この間のレイドバトルと一緒にいくつかの機能が追加されたのだ。
具体的には、2週に1回のレイドバトル。階層深化、ポイントによるクールタイムの延長やスロット拡張なんかだ。
がり勉君は例のごとくシステム上の穴を探すのに余念がない。
「あいつ、家電買ったら説明書を最後まで読んでから電源入れるタイプだな」
あそんであそんで♪
「カブさんは違うんですか?」
俺は足元の子犬をけっぽりながらエトに答えた。
「俺はとりあえず電源入れるタイプかな。説明書はわからなくなってから」
エトは俺の靴に噛み付いている子犬を抱き上げた。
「ところで、その犬なんだ?」
「守護獣、ていうらしいです。ほら、この間もらった腕輪、王狼の腕輪っていうんですけど、持ち主を守ってくれるらしいですよ」
「こんな子犬が?」
俺は、エトの胸元に抱かれている犬ころに顔を近づけた。
よろしく!
子犬は尻尾を振りながら俺の鼻を舐めた。
「カブさん、この子の名前、決めましょうよ」
エトは足元に子犬を置いた。子犬は、なにが嬉しいのか俺とエトの周りを走り回っている。
「名前、ねえ。……のりこだな」
ぼく、のりこ?
「のりこって、どこから出てきた名前ですか?」
「あいつの本名」
俺は、珍しく沈んでいるブリを指差した。
「ブリさん、どうしたんですか?」
「テストが近いんだってよ」
「あんた、なんでそんな余裕あんのよ! あんただって馬鹿でしょ!?」
「馬鹿じゃねえよ。一緒にすんな!」
そーだそーだ!
「私、本気で余裕ないのよ。さすがに2留はできないのに……」
「すでに1年留年してんのかよ」
俺は膝に飛びついてきた子犬を抱き上げて肩に乗せた。こら、耳を舐めるな。
「ブリさん、勉強してるんですか?」
「……してるわよ?」
目が泳ぎまくってるし。
「それじゃあやり方が悪いのかもしれませんよ? 一茶さんに教えて貰うのはどうです? 確か一茶さんって、夢の島の学生なんですよね?」
エトが声をかけるも、一茶は女神像と壁に浮かぶ大量の文字と格闘中でこちらに気付かなかった。
俺は子犬を下ろした。
「ゴー!」
らじゃ!
子犬は、頭がいいのか俺の意を完全に汲み、一茶に飛び掛った。
「おお、びっくりした! のりちゃん、今忙しいから後でね」
そう言って一茶は子犬を足元に下ろした。ていうか、冗談で言ったのに犬の名前、のりこで確定か?
「おい、一茶。ちょっと話に混ざれよ」
「なに? 今忙しいのに」
「ブリが留年しそうだから勉強教えて欲しいんだってよ」
「いいの? 僕、相当スパルタだよ」
「おう、望むところだぜ」
その時、俺は一茶がサディスティックに口元を歪めるのを見逃さなかった。
「テストは月曜だっけ? それじゃあ土日で勉強会ってことになるけど、場所に心当たりは?」
「どっかの図書館じゃまずいん?」
「『声に出すこと』があるから図書館じゃないほうがいいかな。誰かの家がいいけど、僕んちは4人入ると少し手狭だからね」
「うちは女子寮なので無理です」
「じゃあうちかカブのうち?」
「もしくは、どこか会議室借りるかホテル予約するか?」
「金に余裕があるからってさすがにもったいないだろ。俺んとこでいいよ」
「行きます!」
「返事早すぎだろ」
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