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週末は、異世界行って金稼ぎ  作者: 浅野 
レイドバトル
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報告書 木梨紀子 相田藤次

胸糞注意。

 それから少し後のこと。


「守さま。例の方々の日本出国を確認しました」


「そうか」


 7月も下旬に差し掛かったある日、俺は家のメイドからそんな報告を受けた。


 俺はメイドにねぎらいの言葉をかけて下がらせると、来客用の椅子に座る男を見た。


 貧相な男だ。


 無精ひげによれよれのスーツ。髪もしばらく切っていないのか、ぼさぼさで整えられている様子もない。


 友澤が専属で雇っている情報屋だ。


 企業が求める情報というものは裁判で使用することを前提としていない。

 重視されるのは正確性であり、そのためならば非合法的手段を持って入手されたものであってもかまわない。


 この男は、そういったことに手を染める人種だ。


 俺はテーブルに投げ出された2通の封筒を手に取った。


「ご苦労。が、ただの身辺調査にしては時間がかかったな」


「ええ、中々楽しませてもらいましたよ」


「楽しむ? それなりの内容だと、期待していいということだな?」


 男は、周囲に灰皿がないにも関わらずタバコに火を付けた。

 俺は眉を顰めながらも、封筒を開封した。






 木梨紀子


 歳は俺と同じだが、学年はひとつ下の高校2年。理由は去年12月から発症した鬱のため、3学期をまるまる休学したための留年。

 鬱の理由は……、なるほど、これは鬱にもなるな。

 さらに読み進めると、面白い単語が目に付いた。


 拳王会。


 武道というものは、逆説的にではあるが、習得すれば習得するほど実戦では弱くなる、という説がある。

 試合にはルールがある。剣道では面や小手といった防具の上から叩かなければ有効打にならないし、柔道は背中から落とさなければならない。

 そうしなければ重篤な障害を引き起こす可能性があるほど危険な行為だからだ。

 これは、日常においては極めて正しい。

 が、非日常である実戦においては足かせになる。わざわざ効かない防具の上を叩くなど愚の骨頂というものだ。

 武道に精通しているほどその行為は徹底されることになるため、弱くなるという理屈だ。


 だが、拳王会にはこのカテゴリーは当てはまらない。


 実戦を前提としているこの組織の母体は、関東最大の暴力団だ。

 暴力団の武闘派が身体を鍛えるため、有事に備えて通う道場、それが拳王会だ。


 そこに、彼女は家から近いという理由から幼少より通っていたのだ。

 と、なれば、あの凄まじいまでのえげつなさも納得がいくというものだ。



 俺はざっと木梨紀子について書かれた書類に目を通すと、もう一通を開いた。



 相田藤次。カブと呼ばれる男のことだ。



 彼は、地域では有名な放置児だった。

 放置児の多くがそうであるように、問題は彼の家庭にあった。

 母親は性犯罪被害者で、彼を生んでしばらくした後自殺。

 母親の両親、彼の祖父母は揃って公立の教師をしており世間体から彼を施設送りにすることを拒否した。

 一方で仕事を優先し、託児は近所に押し付けるということをしていた。


 出会いは、彼が幼稚園に上がる少し前にあった。


 彼の託児を、ある女性が引き受けたのだ。

 彼女はその地域では有名な資産家の家庭に生まれ、当時はまだ10代だったが、学習障害を持っていて学校には通っていなかった。

 彼の祖父母はいい託児先ができたと喜び、地域の住民は厄介ごとから解放されたと2人の生活を黙認した。

 資産家は娘のためにアパートの一室と生活費を出し、こうして彼と彼女のおままごとのような生活は始まった。


 事件は、彼が小学4年の時に起こった。


 彼が、自室のアパートの2階から教師を叩き落したのだ。正確には一緒に落ちた、だが、結果その教師は半身不随の重症を負った。

 元々彼は『ふつうじゃない』生活をしており、そういった異常に敏感な周りの生徒からは孤立しがちの問題児だった。


 同僚である教師連はこぞって彼を責めた。が、その風向きはすぐに変わる。


 教師の落下時の格好が全裸であったこと、下半身にべっとりと性交の後が残っていたこと、それに彼自身に肋骨や頬骨の骨折などの暴行の痕があったこと。

 決定的だったのが、彼女が彼へのいじめを止めるために教師に懇願し、代償として教師が身体を要求している脅迫映像が複数見つかったことだ。


 結果は、その教師と脅迫に加担していた同僚、教師の大学時代の仲間など複数人が実刑を受ける事態となった。背景には文化省に勤務する隣人と警察省に勤務するその彼女の暗躍があったらしいがここでは省く。


 その後、彼と彼女の生活は終わりを告げた。


 彼女は実家に引き取られ、彼は彼女のいなくなった部屋で一人暮らしを始めた。


 生活には苦労はなかった。家賃、生活費は引き続き資産家が援助してくれていたし、もともと幼稚なおままごとのような状態から始まった共同生活であったため、小4のこの頃には彼は自分のことはひとりでなんでもできるようになっていた。


 ひとつだけ、加わったことがあった。


 警察の道場への強制参加だ。


 情状酌量の余地があるとはいえ、彼は人一人重篤の状態にしているのだ。このまま育てば再び同じことをするかもしれない。


 彼には、矯正の必要がある。


 こうして警察関係者からの「しごき」が始まった。


 現役の機動隊やオリンピック候補になるような第一線の人間。時代の最前線で実務として戦っている人たちから剣道、柔道、合気道、捕縛術にいたるまで彼は徹底的に叩き込まれた。


 こうして「狂鼠」の下地は作られていく……。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


このお話では現実と相違性を出すために、

文部科学省→文化省 警察庁→警察省

と変えております。


興が乗りましたら、評価、感想、ブックマークなどをいただけると嬉しいです。


今後もお付き合いよろしくお願いしますm(__)m。

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