レイドバトル7(守)
それは、女だった。
緩く染めた髪に色黒の肌の、所謂ギャルで、それと反するように着ているものはアニメプリントのシャツに黄色いスウェット。靴は……、履いていなかった。
女は、胸の前で手を合わせると、俺を上目遣いで見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「やだ……、どうしよう、胸がどきどきする! これって……、恋?」
「……だいじょうぶか、あたま「いいぇええええぇい!」はあ!?」
そして始まる踊り(ダンス)と下手糞なボイスパーカッション。
それを一通りやると満足したのか、それとも前奏が終わったからなのか、女は歌いながらクーシーの群れに突っ込んだ。
女は、強かった。否、えぐかった。鼻頭や眼球に拳を叩き込み、肋骨の間に指を突き入れ、足刀で内膝を破壊する。
ベースは空手のようだが、まともな指導者に師事したのなら間違いなく禁止されるような、危険な戦い方だ。
しかも、頭が緩いのか、歌いながらであるために息を乱している。
俺は慌てて援護に向かった。
「なぜ歌っている!?」
「そんなこともわからないの!? クライマックスには歌付きBGMが流れるもんなのよ。これ、アニメ映画の常識よ」
「それはなんだ。俺を騙そうとしているのか? なぜアニメ映画が出てくる??」
「ちなみに歌は六神合体ガイガーカウンターの主題歌よ、あ、前期のね。覚えておきなさい」
「……ガイガーカウンター???」
俺は大剣を振るった。その隙を攻めてくるクーシーに女は飛び膝蹴りを見舞う。
自然と俺と女は背中合わせで立った。
これが俺、友澤守と、俺と友澤グループは言うに及ばず、日本政財界はおろか世界を相手に跳梁跋扈する稀代のトリックスター。最強の名を欲しいままにするクラン「ヘブンズウルフ」の斬り込み隊長ブリこと「木梨紀子」との出会いだった。
流れが変わった。
この女はどうやら先遣隊だったようで、気付くとそこかしこで軽装のプレイヤーたちが戦いを始めていた。
ドライ隊が到着したのだ。
それに合わせるようにツヴァイ隊も正也によって態勢を立て直したのか、反攻を開始していた。
今まで劣勢だった戦況がようやく優勢に変わってきていた。
「ちょわ~~!」
そして、女は、本当に頭が緩いのか、胴廻し回転蹴りなどの大技を見舞っていた。
技の特性上威力のある技だろうが、集団戦で使えば倒れているところを狙われる。
事実、そうなりかけたところを俺は駆けつけて助け、女を立ち上がらせた。
「なにを考えている! 状況を考えて戦え!」
「うっさい! カブや一茶みたいなことゆーな、変眉!」
「へ、変眉……!」
まさか、そんな低俗な仇名をつけられるなど、ここ10年は記憶にないことだ。
女は俺を無視して無鉄砲に敵に突っ込んでいく。俺は女を無視することもできず、慌てて敵に突っ込む。先ほどの喧嘩といい、今日はどうなっている?
客観的に見るなら、俺達はいいコンビだった。
スピードの女とパワーの俺。
俺の隙は女が横からカバーし、女の隙は俺の防御力でカバーする。
お互いがお互いを補完し、それが完璧に機能するころには、優勢、などというレベルじゃなくクーシーを蹂躙していった。
おそらく女にはその気はないのだろうから、俺が女に合わせることになっているが、それが、小癪にも効率的展開に繋がっていた。
「そろそろ終わりね」
動き続けていた女はようやく足を止め、そんなことを嘯いた。
劣勢からの反攻、優勢になり数が逆転してからの掃討戦へと移行した戦況も、終局を迎えていた。
もはや数える程度の数に減ったクーシー。
そんな状況に油断してしまったのは、確かにミスだった。




