レイドバトル5(守)
身体中に走る痛みが緩やかに消えていく。
魔法、「ヒール」だ。
即効性や副作用のなさなどを考えれば、服薬による痛み止めより効果は高そうだ。
「痛みは消えた? 特に尻」
俺、友澤守は俺にヒールをかけてくれた長髪メガネの男を睨んだ。
俺の学友である金城正也だ。
この男は「タレイラン」のような男だ。
どのような荒波であっても『勝ち組』として一定以上の立場にいて、そして生き残る。
今は俺と友好関係にあるが、友澤が落ち目になればさっさと離れていくだろう。
もっとも、評価基準がはっきりしている手前信頼できるやつでもある、そんな男だ。
「まさか友澤守があそこまでボコられるとはね」
「ボコられてなどいない」
正也はたまらず吹き出した。
「当然気付いていたよね、彼の耳。あれは柔道やってる人の耳だよ。邪魔が入らなければやばかったんじゃないの?」
「……柔道なら俺も段持ちだ。柔道に限らず剣道、空手その他合わせて合計10段以上の段位は持っているしフェンシングやアーチェリー、乗馬等も嗜んでいる」
「へえ、すごいね」
小馬鹿にするように言う正也。
不愉快ではあるがそれで自分も冷静でないことに気付く。
トロフィーや賞状など使いもせず並べたてたところでインテリアの邪魔にしかならんというのに。
例えば160キロのジャイロボールを投げられる、が、パン屋をやっていると言うなら、その野球の才能はパン屋の役に立たないということになる。
どんな優れた才能だろうと、それが使われないのならば、それは無駄ということだ。
少なくとも、あの小僧をぶちのめすことに失敗した自分にとっては部屋のトロフィーは飾りでしかない。
それを知っていながら、肩書に驕る今の発言は恥ずべきものだ。
「それより、そろそろ来るよ」
前方を見ると、土煙と共に迫る敵。
犬の頭を持つ人間、クーシーというやつか。目を血走らせ涎を垂らす姿はさながら薬物中毒者のようだ。
「備えよ!」
俺はそう怒鳴ると、装備を開放した。
身体が光り、白銀の鎧が身を包み、長大な剣を手にする。
ポイントで購入した装備だ。
これらはレジストリ入りして普段は持ち運びしないで済むのがありがたい。なにしろ重厚な鎧に剣先から柄まで2メートルを超える大剣、両方合わせれば200キロ以上だ。
本来であれば身動き一つ取れない重量を身に纏い、かつ戦えるのは俺の『ジョブ』が所以だ。
『へビーナイト』
スキルのひとつは「装備重量軽減90パーセント」という破格のものだ。
もうひとつのスキル『シールド』と合わせれば防御面では不落になる上、巨大な鉄塊を叩きつければ小細工など必要としない破壊力になる。
手始め、とばかりに俺は大剣を振るい、迫るクーシーを3匹ほどまとめて吹き飛ばした。返しでさらに2匹を倒す。
そこで少しよろけてしまった。重量軽減のスキルがあるとはいえ、この大剣は10キロのハンマーを振り回しているようなものだ。スキル「筋力増加」の補正があるとはいえ、完全に制御するには残念ながら常識的な人間の筋力量では不可能だ。
その隙を突くようにクーシーは俺に攻撃をしかける、が、一瞬なにかにぶつかるように身体を止めた。そして、さらなる俺の返しで頭部を消失して光の粒になって消えた。
『シールド』だ。
魔力で作る見えない壁は敵の攻撃を防いでくれる、今のように隙を作りやすい俺には重宝するスキルだ。しかも、下級魔法に分類されるため、壊されても1秒以下で作り直すこともできるのだ。
周りの連中も俺に触発されるように前に出て戦闘を始めた。
個体差で勝っているツヴァイ隊は一応の優勢を維持しつつも戦闘を進めていく。
次々と倒れていくクーシーに調子付いて攻勢を強めていくツヴァイ隊。
気付いたときには、囲まれていた。




