レイドバトル4(一茶)
守は愉快そうにカブの頬を突いている瑞樹を見た。
瑞樹はゆっくりと立ち上がると、朗々とした声で、全員に聞こえるように話し出した。
「全体を4隊に分ける! アイン隊は遠距離に優れたもの! 弓、投槍、魔法攻撃、なんでもいい。我が元に集え! ツヴァイ隊、防御力に自信のあるもの! 兄様、指揮は任せても?」
「かまわん」
「ドライ隊はそれ以外の攻撃隊! フィーア隊は回復系や生産系の非戦闘職とする! 以上、分かれろ!」
瑞樹が声を張り上げると、大体8割程度が従って動き出した。
見ると、瑞樹は再びしゃがみこんでカブの顔を覗き込んでいた。
「うちのカブに御執心のようで」
瑞樹は子供のように目を輝かせて僕を見上げた。
「それはそうだ! 我が兄、友澤守の肛門に爪先を叩き込む人間など、今後現れるかどうか」
うん、友澤コンツェルン次期総帥として成功を約束されている守に面と向かって敵対するようなことは、本来デメリットしかない。そんなことを気に入らないからという理由でやる奴はそうそう現れないだろう。
「それに、自らのスタイルを崩してまで殴り合いに応じた兄の気持ちも、私には少しわかる。好悪感情は別にして、私も彼には惹かれるんだ」
「……興味深いね。どこがか聞いても?」
瑞樹は立ち上がり、肩を竦めた。
「さあ。答えがあるかもわからない。なにか本能的なものかも」
ふと見ると、カブに膝枕しているエトちゃんが頬を膨らませて瑞樹を睨んでいた。
僕は慌てて話題を変えた。
「ツヴァイ隊で一方を防いでいる間にもう一方をアイン隊の遠距離で敵を削ってドライ隊で撃破。返す刀でツヴァイ隊と逆に敵を挟撃ってところかな。ずいぶん大雑把だね」
「それは、仕方ない。時間も情報もない今の状況で念密な計画を立てたところでうまくはいかないだろうからね」
瑞樹はゆっくりと歩き出した。僕とブリちゃんは気絶したままのカブとエトちゃんを残して、なんとなく瑞樹の後を着いていった。
向かう先は最前線。
見れば、敵がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
あれは、ケットシー(猫人)か。身長は150センチ前後。ゴブリンよりは強そうだ。リアル指向なのか、猫の可愛らしさは欠片もなかった。
「アイン隊、前へ!」
その声に応じ、不揃いな連中が並ぶ。手には弓矢、杖、その他様々だ。
僕もスリングショットを持って前に出た。
向かって来るケットシーの群れ。
瑞樹はそれを見てにやりと笑うと、叫んだ。
「さあて勇者諸君! 見せ場だ、派手にいくぞ!」
瞬間、瑞樹の足元を中心に赤い円が広がった。その中に入ると、なぜか精神が高揚し出した。
そして、
「Feuer!」
瑞樹の号令一下アイン隊は一斉に攻撃を開始した。
轟音!
まるで榴弾の直撃を受けたようにケットシーの先頭集団は消し飛んだ。
着弾点にいたケットシーの半数以上は、沸き立つ湯気のような白い粒子となり消えていった。
問題は、残った半数だ。欠損した手足を抱え、腹からはみ出す腸を必死に押さえる。自らの作り出した血泥に塗れ、悲鳴とも成り得ない呻き声を上げる。
地獄絵図だ。
そんな連中に僕も容赦なくスリングショットを放つ。
放たれた弾はケットシーの頭部をコンクリートに叩き付けたトマトのように崩した。
いつもより、威力が高い。
「これは……、バフか」
「ただのバフではありませんよ」
声に振り返ると、そこには先ほどカブと守に水をかけたおかっぱの少女が立っていた。
「君は?」
「お初にお目にかかります。朝霧甲と言います。そこにいる偉そうな女の、同僚? 仲間? そういうものをしています」
大人しそうな外見とは裏腹に口は悪そうだ。
「それで、ただのバフではないとは?」
「彼女、友澤瑞樹のレアジョブ『指揮者』の専用スキル、『キリングフィールド』です。効果は、範囲内の敵味方全員の戦意高揚、攻撃力2倍、そして、防御力二分の一です」
「それはそれは……」
デメリットもある、が、なるほど、こういう運営をすれば正解だろう。
「ただ、魔力喰いで効果時間は10秒と短いのですが」
その言葉に従うように、赤い円は半径を収縮していき、やがて瑞樹の足元で消えた。
残った無傷の僕たち「プレイヤー」と前衛が壊滅して半数になったケットシーの群れ。
再び瑞樹の号令が飛ぶ。
「ドライ隊、敵は戦意を喪失している。一気に殲滅せよ!」
そして駆け出すドライ隊。あ、先頭はブリちゃんだ。さっきまで僕の横にいたのに。
それは、もはや戦闘と呼べるものではなかった。
本来であれば助走を付け一気に敵陣に突撃し、僕たちに打撃を与えるつもりだったのだろう。
が、前を走る仲間は敵の遠距離攻撃で全滅、足が止まったところを逆に突撃される。
数に勝るはずのケットシーはその優位性を発揮できず、一匹、また一匹と溶けるようにその数を減らしていき、全滅するまでに時間はかからなかった。
「ここまでは順調、あとはツヴァイ隊のほう、か」
だが、そちらは、予想外にも、というべきか、あるいは予想通りというべきか、こちらほど順調にはいっていなかった。




