レイドバトル1(一茶)
水曜午後11時59分、レイドバトルは開催された。
ステージは見渡す限りの草原、そこに100人近い人たちが佇んでる。
これが、いわゆる「プレイヤー」なんだろう。
「おう、一茶」
声に振り返ると、カブとエトちゃんがいた。
エトちゃんはカブに合わせて使うことにした電動ガンを持ち、カブの横半歩の位置に立っている。ほんの少し身体を傾ければぶつかるような距離だ。
うん、好き好きビーム出してる。対象のカブはまるっきりスルーで可愛い妹程度にしか見做してないけど。
エトちゃんみたいに世間ズレしてない子には、やっぱりカブみたいなのがいいのかな。不良が一部でもてるのとおんなじ感覚で。
正直に言うと、僕、一茶は恋愛に嫌悪感があるので組織内での恋愛はご遠慮願いたいところではある。関係が悪化して組織がぎくしゃくするなんて、馬鹿らしいでしょ?
まあ、僕にとっても可愛い妹であるところのエトちゃんが幸せそうにしているところを見ると突っ込むことができないでいるのが現状ではあるんだけど。
と、左腕になにかがぶつかった。
見ると、もうひとりの問題児であるブリちゃんがいた。
アニメ柄のシャツに黄色い原色のスウェットに裸足。
この子は、また寝てたね。ぶつかった腕によだれついたし。
だが、近場のコンビニに行くのにも躊躇われるようなブリちゃんの格好も、ここではあまり目立たなかった。
周りに、ブリちゃん以上に変な格好をした人たちが大勢いたからだ。
剣道の防具にアメフトのプロテクター。西洋風の甲冑におかしな仮面をしているような人もいる。
まるで、外国の仮装祭。
あるいは格好の派手さで自らの武威を示す中世傭兵団ってところか。
僕たちがそうであるように、他の連中も生存確率を上げるために色々試行錯誤を繰り返し、その結果生まれたコスプレなんだろう。
が、その中でも一層の異彩を放つ存在は、コスプレではなかった。
ひとりは男。
上下純白、わずかな汚れでも目立つだろうその制服は帝王高校のものだ。
それを完璧に着こなしている男は威風堂々たる体躯。ま、光源氏の時代から日本女性に好まれる線の細い優男とは対極という意味でケチはつけられるかもしれない。
彼は、友澤守。今をときめく友澤コンツェルンの御曹司だ。
去年、僕は全国模試で100番以内に入ったときに呼ばれたパーティーで彼に一度会っている。
対する少女は漆黒。
黒のベレーに黒の上下、それを銀の縁取りをした裏地が真紅の黒マントに包んでいる。
そしてそれほどの異装をすら圧倒してしまう表情。あれは、地上のあらゆる問題は自らの才能と努力のみで全て解決できると信じている、ある意味傲慢ともとれる表情だ。
「あれ、佃島の制服じゃね?」
「そうですよ。けど、あのマントは入学式とか卒業式でしか使わない正装ですけど」
「エトちゃん、知ってる人?」
「ええ。高等部の瑞樹先輩。ひとつ上だから今高等部一年です」
「なに、エト、普段あんな格好してるの?」
「だからいつもはマントしてないですってば~」
きゃっきゃとはしゃぐエトちゃんとカブを他所に白と黒の邂逅は進む。
「あれ、そこにおわすは兄様ではありませぬか? このような場でお会いするとは奇なことでありますね」
「戯れるな。が、貴様もこの茶番に巻き込まれていたとはな」
「ええ。茶番であるのはまったくの同意。ですが、楽しませて頂いておりますよ」
あの二人、兄妹か。てかブリちゃん、よっかかって寝るのやめてほしいんだけど。
「さて、それよりこのレイドバトルなるもの、白地に絵を描くような物。いかが仕上げますか?」
「才が問われる、か」
「腕の見せ所、かと」
そう言うと、瑞樹という少女はマントを翻して朗々と声を上げた。
「これよりカンファレンスを行う。まずはレヴェル20以上のもの、集え!」
一瞬の静寂の後、100人近くいたプレイヤーは、ゆっくりと流動を開始した。
少女の声には、100人の人間を従える「力」があった。
「レベル20ってことなら俺たちは関係ねえな」
僕たちの中で一番レベルが高いのはカブで18。次がブリちゃんで16、僕は14、エトちゃん11といったところだ。
20で限定されるなら確かに僕たちは用済みだろう。
ただし、なにも彼らに従う必要はないが。




