ゴブリンをやっつけろ!後編 6(エト)
「利いたね、毒」
見ると、一茶さんと、たぶん説教されて不貞腐れてるブリさんがいた。
「毒、ですか?」
「うん、日本で取れる毒のスペシャルブレンド。ネズミでは即死させられたけど、死ぬまで少しかかったね。ま、1分以内なら摂取量の誤差範囲ってことにしようか」
どこか嬉しそうな一茶さん。
「一茶、早くヒールかけろ」
「エトちゃん、周りは?」
私は索敵スキルを使った。周囲には、敵であることを示す赤い光点はひとつもなかった。
「ジェネラルをやられて逃げ散ったみたいです」
「一茶! はやく!」
「はいはい、って、これ、肩砕けてるんじゃない?」
一茶さんは慌ててカブさんにヒールをかける。
「ブリさんは大丈夫だったんですか?」
「……やけどした」
「それも軽度のね」
「こいつ、ひどくない!? 私にヒールかけた後、拳骨してきたのよ! 女殴ったのよ!」
「そもそもなんであんなことやったんですか?」
「ほら、漫画であるじゃん、敵のエネルギー弾をハァッて弾き飛ばすやつ、あれやってみたかったの」
ごめん、ブリさん。擁護できない。
「くそう、これはまたふぐでも食べないとやってられないわ」
「思い出させんなよ。俺も食べたくなってきただろ」
「からあげ、おいしかったよね~。あ,エトちゃん知ってる? ふぐの煮こごりって意外とおいしいのよ♪」
急に心が冷える。
「……なんですか、ふぐって」
「先週、俺とブリで下関行って来たんだよ」
「だって、一茶さんと行くって言ってたじゃないですか!」
声を荒げた私に全員が一歩引く。
「な、なにを怒ってるのかわからんがとりあえず落ち着け。一茶がやる気なくして「そこは急病とかでいいじゃん」うるせえ! とにかく、代わりにブリと行くことになったんだよ」
「ひょっとして、連絡先とかももう交換してたりするんですか?」
私とはしてないのに。
「ま、まあ一応……」
「私だけ仲間外れですか」
「そ、そんなつもりじゃ……、て、なんで俺が矢面なんだよ」
「ま、まあ、エトちゃん。ほら、これも遊びじゃなくて準備のための行動だから」
「エトちゃん、ふぐの白子ってあるでしょ。あれってふぐのきんたま、ギャン!」
「空気読め、馬鹿女!」
「カブさん」
「お、おう」
「私もふぐ、食べたいです」
「わ、わかった。さすがに下関までは行けないけど今度連れてってやる」
「今度っていつですか?」
カブさんは助けを求めるように一茶さんを見た。
「エトちゃんは、どこ住んでるの? ほら、僕たちは東京だけど、エトちゃんが北海道とか沖縄だと、さすがに簡単には会えないから」
「私、最寄り駅は月島です」
「お、月島。いいわね。もんじゃ焼き!」
「ああ、それならもんじゃ焼き行こうぜ。エトの地元ならおいしい店知ってんだろ?」
私は、首を傾げた。
「実は、知らないんですよね」
「なんで? 地元民は意外と行かないってやつ」
「いえ、私、女子寮に住んでいるので。基本寮から出ないんですよ」
「ふーん、私立の女子校?」
「はい、佃島女学院っていうんですけど」
途端、3人は大げさに仰け反った。
「つくだしま」「じょがくいん!」
「は、はい。そうですけど」
「親の年収が3000万以下は受験資格すらない」「皇室女子の進学先候補にいつも上がる」「イートン女子校バージョンとか言われる」「東洋のル・ロゼとか言われる」「ザ・お嬢様培養学校!」「ザ・レジェンド!」
……カブさんとブリさん、息ぴったりなんだけど。
「いやー、ほんとにいるのね。佃島女学院って都市伝説レベルで見つからないって話だし」
「まあ、基本学校の敷地から外に出ないし、出る時も制服厳禁ですし」
うちの制服には特徴がある。黒のブレザーにベレー帽、それに、女子校なのに、スカートではなく黒のスラックスなのだ。
物珍しさによるものか、以前、ストーカーとかパパラッチとかが沸いてネットでアップされたりしたので、外出は佃島の生徒とばれないように私服になったのだ。
「それじゃあ月島じゃ地元すぎてまずいかな。エトちゃん、電車、乗れる?」
「あ、大丈夫ですよ。時間も門限はありますけど、当日提出でも外出許可はもらえるので問題なしです」
「それじゃあ有楽町辺りで明日会う? 有楽町なら月島に近いし交通の便もいいしね。今後のことについて一回集まるのもありだと思うけど。カブ、大丈夫だよね」
「おう、オッケーだ」
「私も」
「ブリさんってどこ住んでるんですか?」
「大都会、成増だぜ」
……知らない。
「東武東上線だろ? 俺、池袋だから知ってる」
「あ、近いじゃん」
「近くねえよ、一緒にすんな!」
「あんだと! 急行止まるんだぞ、舐めんなよ!」
「確か成増なら有楽町線もあったよね。それなら便もいいし、明日有楽町で決まり?」
「せっかくならアキバ行こうよ。有楽町から近いよね」
「近いっちゃ近いけど」
「私のホーム、いや、マインドタウン! 秋葉原のB級グルメを案内してあげるわよ」
「秋葉原行くなら御徒町まで出てアメ横の海鮮丼のほうがいいかな」
「アメ横、嫌いじゃないけど休日混むからなあ」
「アキバだって混むわよ!」
「おまえはなにと戦ってるんだ?」
なんだろう、ただ駅の名前を挙げてるだけなのに、世界が広がるのを感じる。
有楽町だって秋葉原だって行ったことはある。
地図の上に定規で線を引くなら小指の距離だ。
でも、明日行く場所は、きっと初めて行く輝かしい場所、そんな予感が私にはあった。




