ふぐ、食べに行こう3(カブ)
やってきました下関!
空気の違いがわかるのって、なんか旅行してるって感じでいいな。
「ふぐふぐふぐ! どこで食べる、何食べる?
ふぐ刺し、てっちり、白子は外せないわよね~」
「用を済ませてからな」
「用ってなによ」
「おまえ、なにしに来たんだ!?」
「ふぐ食べににきまってるでしょ!」
一茶が頭痛抱えたの、よくわかるわ。
俺は駅を出るとタクシーを捕まえた。
「どっかふぐが釣れる港まで」
「まさか、釣るの? 釣って食べるの!?」
「釣らないよ。時間があるならやってみたいけど。釣りしてる人から買うの」
まだなにやらうるさいブリを無視して、タクシーは走り出した。
「お客さん、ふぐが欲しいなら扱ってる店に連れて行こうか? ちゃんと毒抜きした状態で売ってるから安心だよ」
「大丈夫。あ、それじゃあ後で寄ってもらおうかな。でも今は港に向かって」
「先がいい、先がい~いー!」
「あんまりうるさいとほっぽり出すぞ!」
んで、港に到着。休日ということもあり、釣り人はたくさんいた。ていうか、釣り人っていつ行っても誰かしらいるよな。普段なにやってんだろ。
とりあえずタクシーには待っててもらい、釣り人のひとりに声をかける。
「おいちゃん、釣れてる?」
「うん、まあ、ぼちぼちだね~」
「ふぐは?」
「ふぐはうるさいくらい釣れるよ」
「ふーん、それじゃあ何匹か売ってもらいたいんだけど、いい?」
「他県の人? いいけど毒あるよ?」
「うん、知ってる。とりあえず3匹」
そう言って1万円出したらおいちゃんは驚いていた。
「こんなにもらえないよ~」
「東京だとふぐ料理一人前1万円とか普通にするから。むしろ安いほうだよ」
そう言うとおいちゃんはホクホク顔でふぐをジップロックに入れて渡してくれた。おまけに1匹つけて4匹だ。
俺はおいちゃんにお礼を言ってその場を去った。
「意外と早く用が済んだな。それじゃあふぐ食いに行くか? って、ブリ?」
一陣の風が吹いた。
どこからか飛んで来たタンブルウィード(回転草)が2人の間を過ぎ去った。
対峙するのは2人の少女。
ひとりはショートカット、色黒で安っぽいギャルって印象。
ぶっちゃけブリだ。
そしてもうひとりは、金に近い茶髪をキャバ嬢がするような縦巻きロールにしている色白の少女。
……誰?
元々デートで来たのか、色白の少女の隣に立っている線の細い少年も頭の上に「?」を大量に浮かべていた。
そんな俺と少年を無視して、ブリと少女は火花が散りそうなくらい睨み合っていた。
少年がこっちを見た。
俺は肩を竦めた。だって、なにが起こってるかわからないんだから。
バチバチと2人の間でしか通用しない特殊言語での会話の後、ゆっくりと腰を落とした。
―もはや言葉は不要!
今にも少女に飛び掛らんとするブリの襟首を、俺は引っ張った。
「ぐえ!」
「なにしとんのだおまえは。なんか、うちのがすいません」
「いえ、こちらこそ」
見れば少女のほうも縦巻きロールを手綱のように掴まれて静止されている。
訳がわからぬまま頭を下げる俺と少年。
ペットの不始末は飼い主の責任なのだ。
「んで、知り合いか?」
「知り合い! そんなもんじゃないわよ! 奴こそが我が宿命のライバル、宮澤麗華よ!」
「なんだ、やっぱり知り合いじゃねえか。今から別行動するか? でも向こう、彼氏といるみたいだぞ」
「カレシ!」
ショックを受けたのか、ブリは俺に寄りかかる。そして、ショックを受けていたのはなぜか宮澤という少女もだった。
「木梨さん、まさかそちらの方は、まさか彼氏じゃ……」
「! そう! こいつ、カレ! インドカレーよ!」
「違うだろうが」
すぱこーんっと、頭に一発。こいつ、木梨っていうんだな。名前初めて知ったわ。
「タクシー待たせてるんだからこれ以上ぐずるなら置いてくぞ。もちろんふぐはなしな」
「っく! ふぐ……」
「すいませんね。俺たち、今日中に東京に帰りますんで、おかまいなく」
「東京から来たんですか?」
「ええ。日帰りで。ふぐを買いに来たんですよ」
「ふぐ? 東京からわざわざ?」
「まあね。片道6時間かかったよ。それじゃあこれで失礼しますね」
「えっと、間違ってたらすいません。ニューワールド?」
俺は足を止めた。
先ほど一茶とした会話を思い出す。
つまり、こいつが俺たちと同じことをやらされているやつ、なのか?
「なんでわかった?」
「あ、よかった。やっぱりそうだったんだ。半分は当てずっぽうだったんですけどね。でも、今時通販もあるのにわざわざ東京からふぐ買いに来るなんて。ひょっとして理由は俺たちと同じなんじゃないかって」
「……毒?」
「そう。毒」
俺たちが、ここ、下関まで来た理由はずばりふぐの毒目当てだ。毒を矢に付けてゴブリンジェネラルにぶち込もうという寸法だ。
ちなみに言うと、一茶は他にもトリカブトの毒とか農薬から抽出した毒とか、色々揃えるらしい。
「ひょっとして警戒させちゃいましたか?」
「いや、驚いているだけ。今のところ利害関係は絡まないし敵対する理由もないはずだしな」
少年は人懐こい笑顔で俺に手を差し出してきた。
「遠野士郎です」
俺はその手を払い、拳を突き出した。
「相田藤次。あっちの世界ではカブで通ってるからそれでいいよ」
遠野は俺の拳に自分の拳をぶつけた。
「偽名を使ってるんですか?」
「偽名っていうかペンネームというか、そういうのな。ちなみにあいつはブリ」
いつの間にか手四つで力比べをしているブリと宮澤なる少女。
「どうです、これからふぐ食べに行くなら店紹介しましょうか? 観光客向けの高いところじゃなくて地元民が行くところ。ぶっちゃけ情報交換したいし」
「……そうだな。それじゃあお願いしようかな」
こうして俺たちはタクシーに乗り込み、遠野に案内された店に向かった。
そこは、小さな赤提灯だった。10人も入れば店がいっぱいになるようなところ。幸いまだ飲むには早い時間のため、俺たち以外に客はいなかった。
「さ、木梨さん。これを召し上がれ」
「え~、から揚げなんておいしいの~? ……うんまー!」
「お~ほっほっほ! そうでしょうそうでしょう!」
なんか女2人盛り上がってる。いや、ふぐ、マジでうまいんだけど。
「電動ガン? それ、使えるのか?」
「いや、それがさあ。雑魚ゴブリンだと効果があったんだけど、ボスには効かなくてさ」
「へー、ゴブリンがいるんだ。俺たちの雑魚敵はホーンラビットっていう角のあるウサギなんだけど、ただ突進しかしてこないっていう」
「マジで? 俺たち今煙責めされてるぞ!?」
「ふーん、なんかそっちのほうが難易度高そうだね」
実は、男2人も意気投合していた。理不尽な目に合っている同士として気が合ったのだ。年齢も同じ高2だったし。
「それで、士郎はなに使ってんだ、武器」
「俺はジョブが剣士で武器が剣鉈っていうの? 50センチくらいのアウトドア用の鉈。けど、10匹も倒すと刃先が潰れて斬れなくなっちゃってさ。途中からは斬ってるんじゃなくて叩き殺してる感じ」
「ささ、木梨さん。次はこれを召し上がれ」
「え~、煮こごりなんておいしいの~? ……うんまー!」
「を~ほっほっほ! そうでしょうそうでしょう!」
「なんかお勧めジョブってある?」
「ああ、マッパーは意外と役に立つぞ。敵の位置とか攻めてくるタイミングとかわかるし。すっげー役に立ってる」
「実は、さ。俺たち4人の中にレアジョブ持ちがいて、さ」
「へえ、レアジョブなんてあるのか。強いのか?」
「……弱い。ものすごく。そいつにジョブ変えて戦力になって欲しいんだけど、本人やる気なくてさ。俺たち、実質そいつ省いた3人で戦ってる状態なんだ」
「なんてジョブ?」
「……自宅警備員」
……苦笑いしか浮かばない。
だが、そう考えると俺は仲間に恵まれてるなあ。ブリみたいなマイナスが強いやつもいるけど。
「さささ、木梨さん。どんと召し上がれ」
「え~、白子ってふぐの金玉でしょ? おいしいの~? ……うんまー!」
「ぅを~ほっほっほ! そうでしょうそうでしょう!」
と、携帯のアラームが鳴った。やばい、帰りの新幹線の時間だ。
「おい、ブリ。そろそろ帰るぞ」
「えーやだ~。今日は泊まる~、ここの子になるー!」
「なんだったら、宿、提供するけど? 俺も話し足りないし」
「さすがに昨日今日知り合った奴にそこまで甘えられねえよ。それに、うちの参謀に可能な限り日帰りしろって言われてるんだ」
なんでも、今日帰ったら駅で引き取ってその日のうちに毒の抽出するらしい。さすがに余裕なさすぎだと思うけどな。
こうして、俺とブリの日帰り下関旅行は終わった。
ま、新たな出会いに感謝だ。連絡先も交換したし、今後はふぐ(毒有り)をクール便で送ってくれる約束もしたしな。
書き上げた後、調べたのですが、フグの毒、テトロドトキシンは即効性はないらしいです。
異世界でゴブリンに使う時は、どうかお気を付けください。




