ここからがスタート
努力は人を裏切らない。
これはなんにだって言える事だと思う。
俺とひなは前回のテストから5教科で100点以上も上がっていた。結果を聞いたかなは嬉しそうに言う。
「まーちゃん、ひな! この調子やったら一緒の高校に行けそうやん!」
「かな〜本当にありがとう!」
「勉強会しなかったらヤバかったよね〜」
「ところでかなはどうだったの? まさか下がっちゃったりしてないよね?」
かなはちょっと複雑な顔をする。
まさか俺たちのせいで勉強出来なかったのか……。
「どうせいいんでしょ?」
ひなはかなの成績表を取り上げ開く。
5教科488点……学年3位
まじか、頭いいのは聞いていたけど、俺たちと100点近く差がある……。
「これ、良すぎない?」
「そうなるやろ? だから見せるの嫌やってんて……」
かな、今受けても受験受かりそうだな。
とりあえず俺たちも安全圏まで後ちょっとまで来ていた。
♦︎
中間テストが終わると、俺たちは残りのレコーディングをする。ひなやかなはテスト期間中も練習しなければならなかったのは、本当に大変だったと思う。
俺はその間はもちろんギターは弾いていたのだが、タキオと歌詞の校正をメールでやりとりしていたから俺もかなり忙しい日々だった。
♦︎
そんなこんなで、俺たちはリクソンさんのスタジオに来ている。 先週ひなは終わり、残りのかなのレコーディング。
早く終われば俺のギター録りに入る。
「お前ら上手くなったよなー。まぁ、という事は俺の采配次第になるわけか……」
リクソンさんはしみじみと言った。
そう、今回は時々のミス以外は表現の部分での別パターンしか録っていない。
今回は西田さんたちの意向もリクソンさんが聞いているのでそのイメージに合わせて録っている様だった。
「お前らさ、この先どう考えてる?」
「とりあえずメジャー……」
「それは知ってる。その先だよ」
「最高の名曲を残したい」
俺は迷わず言った。
「俺と同じだな。だけど、それはメジャーで出来るとおもうか? 俺は思わなかった。意見の合わない奴、お金だけ出して好き勝手言う奴、そんな環境で出来た曲が名曲になるとは思わなかった。だからVIPスタジオを辞めた」
「そしたらメジャー自体やめた方が……」
「そうは言ってない。俺に実力がなかっただけなんだ。 技術でそいつらをぶん殴れるような実力がな……」
そう言うとリクソンさんは俺の手を握った。
「お前らなら出来ると思うぜ?」
前に西田さんに聞いた事があった。
リクソンさんは約650分の1の倍率のスタジオに受かり、更にはその中でも最速でアシスタントを抜けた。
そんなレベルのエンジニアなのに、技術が無いと思っている。多分それだけの何かがあったんだろうな。
ただリクソンさんは"お前ら"と言った。
とっくにそんな気持ちは無かったのだけど、2人が認められた気がして嬉しくなった。
予定より早く、かなのベース録りが終わり、俺は"キラの助"を持って部屋を移動した。
いざ忠臣蔵! だと"キラの助"はやられる側なんだけどね……。
♦︎
こうして俺たちはインディーズ始めてのアルバムのレコーディングを全て終え、ミックスを終えた最終日。西田さんと山野さんも参加しミックスの最終確認とマスタリングを行う。
「西田さん、山野さんいい感じに出来ましたよ!」
「それは楽しみだね!」
「これ一応ジャケットのイメージ」
えっ? めちゃくちゃシンプル。
フラットデザインに落とし込まれたバンド名と背景が5色のライン。
「アルバム名"atmosphere"でしょ? それにちなんでタキオくんがデザインしたんだよ」
そう、テスト勉強中にアルバム名は決まった。響きがいいのと、入りやすい曲からディープな曲までがこの名前の意味と一致した様に感じたからだ。
少し薄めの配色で、小麦色、赤、緑、こげ茶、小麦色のラインは大気の層と、ハンバーガーをイメージしていて、更には可愛いさと音の綺麗さ、正確さを表現しているらしい。
「これは目を惹くかも……」
「ちょっと斬新過ぎる気もしたけど、一度聴いてもらう事が大事と言っていたのは、流石はタキオくんだと思ったよ」
よくわからないけど、タキオが自信満々に語っているのが容易に想像できる。
「彼が凄いのはホームページの白バックに写真、イラストのページに合わせた時まで考えられているんだ。更には写真や素材を使わないからローコスト」
確かに違和感が全く無く目立つ。
俺好みにして貰っても何かのパクリか、食いつくのはゴリゴリを求めるおっさん向けデザインになり、半数が声で拒否反応起こされるのがオチだろうな。
「これがうちらのCDになるんかー」
「ね、信じられないよね!」
「これから全国のCDショップで見ることができるようになるよ」
発売開始まで、あと1ヶ月ちょっと。
ついにインディーズとしての活動がスタートする。