誤解と嫉妬
ん?
目の前にパンツ?
ひな、これは流石にかなも怒るで……
「ってかなかよ!」
俺はかなの内腿を思いっきりつねった。
「イタタタ! な、何や!」
「かな、なんで逆さになってるの!」
「あたしも夜中に攻撃されたからベッド移動したよ」
ひなもちょっとぐったりした様子で怒っているようだった。
かな寝相が悪かったのか……というかどんな寝相だよ。
「ツアーの時はちゃんと動かんと寝れてんけどなー」
確かに、それだけリラックスして寝れてたのか?
「でもまーちゃんつねる事無いやんか! 絶対アザなるわー」
「流石に起きてパンツは怒るよ、しかも仰向け……よくそれで寝れてたね」
「えー、サービスやんか……」
かなは基本的にTシャツとパンツ。
本来なら楽しんでもいいシュチュエーションのはずなのだが、キャラのせいなのかなんとなく腹が立った。
「ん? なんか付いてる?」
「いや、かわいいはずなんだけどなぁ」
「なんやそれ、どうゆう事やねん」
「かなは今度から手錠だね!」
ひなはさりげなく危ないことを言った。
今日も洗濯と朝ごはんを済ませて、スタジオで朝練。
昼前に山野さんとリクソンさんが到着した。
「よぉ! 久しぶり、曲の調子はどう?」
「リクソンさんやん! 順調ですよ!」
「今日は期待しとくわ!」
俺たちは、西田さんと話している山野さんに挨拶しに行った。
「今日は、曲の確認とレコーディングの順番を決めてメディアに宣伝用の曲を選ぶから!」
なるほど、それで二人が来たのか……。
スタジオに入ると、三人が正面に座る。
なんかオーディションみたいだな。
曲を変える間毎に耳打ちし合ったりしている気になるけど気にしないでおこう。
曲が全て終わると、3人は少し話し、西田さんは俺たちに告げた。
「3曲目をメインで打ちだそう」
「一応、3人は一致した」
「技術もバランスもいいし、何より聴きやすい、打ち出すならこれだわ」
リクソンさんは真剣モードに入っていた。
「ちょっとボイスエフェクト試したいんだけどないよなぁ?」
「ボコーダー的なのでいいですか?」
「いいよ? あるの?」
「ちょっと借りれるか聞いてみます!」
俺は"ル・シエル"のスタジオに向かいミズキさんに聞いてみるとあっさり貸してくれた。
そして、リクソンさんに見せると。
「V256か……テストには充分だな」
マイクにつないで調整する。
さすがというか、セッティングが速い。
「ちょっと3曲目やってくれる?」
うっ、ちょっと歌いづらいな……
「西田さんどうです?」
「なるほど、すごく雰囲気に合っていいね!」
「これ意外と声に合うな。 まひるこれ買えよ?」
「お金が出来たらで……」
「可愛くくれって言ったらくれるんじゃないか? ははは!」
ミズキさんに言えば……いやいや無茶言うな!
「というかお前らどんな格好してんだよ? 中学生かよ!」
中学生だよ!
「ちょっとキラー借りていいか?」
「リクソンさん弾くんですか?」
「ちょっと5曲目のイントロさ、おれバッキングするからアレンジ変えてみて?」
そう言って5曲目のイントロを弾いてみる。
「ちょっとまって、お前この速さでフルコードの間にフレーズ挟んでんの?」
「いや、ハンマリングとプリングしてるだけなんで、ピッキングはかわらないですよ!」
「弦弾き分けてるんだろ? そっちの方がおかしいから!」
「この曲のギターはちょっと難しいですよ!」
「でも2本あった方がいいな」
「レコーディングはわけれますけど、ライブは元のアレンジじゃ無いと無理ですね……」
「まぁなぁ、このレベルのサポートはプロクラスじゃないと無理だろうしな……」
「リクソンさんも結構ひけはるんですね!」
「かな、皮肉かよ」
「ジュンくんなら……」
「西田さんそれだけはやめましょ!」
「まぁ、全体的に大分成長してるな、特にひなとかな。まひるはよくわからんけどだいぶ馴染むフレーズになったな」
「まぁ、リクソンくんも良さそうだし、あとは本番まで詰めるかんじにしようか!」
かなは嬉しそうに笑った。
やっぱりリクソンさんの事好きなんだな……。
♦︎
晩御飯の時もかなは上機嫌だった。
「今日もリクソンさんキレがあったなぁ」
「そうだねー、やっぱりしっかり考えているのが凄くわかったよね」
「あと、リクソンさんのギターかっこよかったわー」
いやいや、俺の方が上手いし。
「まーちゃんのフレーズもすぐ弾いてたしなぁ」
いやいや、あれ全然弾けてないよ?
いつも何きいてんだよ!
俺はかなのエビフライを食べた。
「ちょっとまーちゃん! なんでうちのんたべるんや!」
別に怒ってはいない。俺の方が上手いのをわかった上で言ってるんだろうけどなんかムカつく。
ご飯の後、ひなは魂さんに用があるらしく部屋を出て行った。ひな的にもドラムの完成系みたいな魂さんに色々聞けるのは大きいのだろう。
部屋でかなと2人、持ち物の整理をしているとかなが話しかけてくる。
「なぁ、まーちゃん?」
「ん?」
「なんか怒ってるん?」
かながニコニコしながら俺を覗き込む。
「別に怒ってないよ」
「いやいや、怒ってるやん! 寝相悪かったから?」
「そんなんで怒らないし」
「じゃあ、もしかしてリクソンさんに嫉妬した?」
俺は少しハッとした。
そうなのか? かなの事で? 正直かなを女の子として見てないと思っているけど。
この距離感が心地いいのかも知れないな。
「なんや、やっぱりそうなん?」
そう言うとかなは俺の膝の上に寝転がった。
「はい!」
「はい!ってなに?」
「うちを愛でてええんやで!」
そう言ったかながすごく可愛いい。
「ほれほれ、はよ愛でてや!」
パチン!「イッタ! DVや!」
とりあえずかなの頭をしばいた。
「わたしらいつ家族になったんや!」
気配を感じドアの方を見るとひなが立っていた。
◯用語補足
・V256
ボーカル用のエフェクター。いわゆるボコーダーと呼ばれるやつです。