富士山とスケルトン
「作詞の方法?」
「そう、これはわたしの入れ方にはなるんだけど、大事な事は変わらないと思う」
俺はそう言うと、ホワイトボードに"開く"と"開ける"と書いた。
「曲を作るときに、キーや歌う人のおいしい部分を生かすのは多分出来てるとおもうんだけど、作詞のときにはそれを生かすように調整してあげるのが大事!」
「なんや? いい歌詞の書き方ちゃうん?」
「勿論、いい歌詞の方がいいんだよ。ただ、そのいい歌詞を調整する事で曲とのシンクロ率が上がるイメージかな?」
「なるほどなぁ。結構難しいんやなぁ」
「多分思っているほどではないよ!」
そう言うと俺はホワイトボードを指差した。
「この"開く"と"開ける"だけど何が違うと思う?」
「うーん、ニュアンス?」
「そうだね、ただ曲にする時は結構違う」
「そんなに違うん?」
「まず、イントネーション。頭にアクセントが来ているのと2番目にアクセントがきてるよね?」
「そやなぁ、でも曲やったらあんまり関係ないんじゃないん?」
「そう、ポイントは"あんまり"関係ない!」
「ちょっとは関係あるってこと?」
「アクセントを合わせる部分にはやっぱり歌詞が伝わり易くなると思う」
「なるほど!サビだったり伝えたい部分は意識した方がいいんか!」
かなは少し驚いた風に言う。
「あとは口の開き方、イ行で始まる"開く"とア行で始まる"開ける"では、歌った時の声の通りが違うんだよ!」
俺は、アの口とイの口をして見せた。
「歌詞、アクセント、口でいい例としては、レミオロメンの"粉雪"とか良いかも……」
「こなーゆき」
「こなーゆき」
二人はそれぞれ口ずさむ。
「ほら、一番声をはるタイミングで開くでしょ? これが口が同じの"大雪"だったらはまらない」
「おおーゆき」
「えっ? でもこれ歌詞の問題じゃない?」
俺はニヤリと笑い、続けた。
「でも、全然意味のかわる穴雪だったらそこまで違和感ないんだよ! 穴雪よりは大雪の方が歌詞的には合うでしょ?」
「あなーゆき……」
「ほんまや!」
「ね? 意味的にも流して問題の無い部分と、ここは伝え無いといけない部分で、使い分ける必要があるんだよ!」
二人はゆっくり頷く。
「でも合わないときは?」
「そういう時は、さっきの"開く"と"開ける"みたいに似てる言葉に置き換えるの」
「それでも合わない時は?」
「それでも合わない時は……なるべくはしたくないけどメロディーを考える。でも長文にして意味を合わせられない時はほとんどないよ! 英語でも同じ!」
「そうか! 単語で考えんくてもいいんや!」
俺はサムズアップして笑った。
「だから今日の午前中は、作った曲の歌詞を調整してみて! 出来たら都度合わせて行こう!」
それから俺たちはスタジオの中それぞれ歌詞の修正を行った。出来た所を歌いながら確認をおこない、12時を過ぎた頃にはそれぞれの歌詞が出来上がった。
「でもほんまにいい感じになったわ!」
「ねー、やっぱりまーちゃん凄いね」
俺は少しニヤニヤした。
♦︎
お昼時、西田さんと一緒にランチをたべる。
俺は聞いておきたい事が色々とあった。
「西田さん、歌詞の修正が出来たので16時ぐらいに一度見てもらいたいんですけどいいですか?」
「おぉっ? いいよ、順調に進んでるみたいだね!」
「あと、わたしたちの何か気になる所はありますか?」
西田さんは少し考えると、
「それは音楽面でかな? だとしたら無い!」
「えっ?」
「音楽、音色に関してで言えば正直音楽プロデューサーが居るレベルだとおもうよ? 何でかよくわからないけど、君たちは音に関しての経験値がずば抜けている」
ま、まぁ。音作りと練習ばっかりしてましたからね……。
「こないだの"ル・シエル"へのアドバイスはまさにそれを表していたね。 彼らはメジャーバンドで音の作り方も全然違う。それでもレコーディングを考え的確なアドバイスしたのは正直驚いたよ」
確かにジャンル全然違うからね……とはいえ俺ヴィジュアル系全盛期通ってますし。
「でもね……それ以外の部分は普通のインディーズに成り立てとあんまり変わらない。 そこは僕や山野くんでサポートしていかないといけない部分だと思っているよ!」
「ごめんなさい……」
「謝ることはないよ! ある程度の知識は覚えていけばいいし音楽を商品化するのは一人でするものじゃない、それが出来るならお金がつかえるメジャーに行ってるか、独立を勧めてるよ!」
「ありがとうございます!」
「君たち順調に進んでいるみたいだから、気分転換にこの後少し散歩に行ってみたらいいんじゃ無いか?」
「行きたい!」
「フッジッサーン!」
ご飯の後、外に出ると富士山がみえる。
「あーここめっちゃ綺麗なとこやってんなー!」
「あたしもそれ思った!」
道路の向こうに大きな富士山が見える。
歩いていると、"ル・シエル"のサポートをしているドラムのスケルトンさんに会った。
「こんにちは! 魂スケルトンさんですよね?」
「あー、こないだの?」
(この人誰?)
("ル・シエル"のサポートメンバーだよ)
「若いドラムの子に知られてないのは俺もまだまだだなぁ」
「えっ? そんなに凄い人なんですか?」
「ちょっとひな! ドラマーなら知らない人は居ないって!」
ひなはポカーンとしている。
「君がドラマーで好きな人は?」
「えっと、雅人にクミさん、タカさんにフリー◯様かなぁ……」
「ごめん、動画のフリー◯様しか解らない……ちょっと聞いてみたいからバンド名とか教えてもらえないかな?」
ひなは真面目に答えた。いやいやこの人に教えるドラマーじゃないだろ……天才スーパードラマーだぞ!
「ひなちょっと魂さんに聴いてもらったら?」
「俺は今は暇だからいいよ? チラッとは聴いたけど、面白そうだからみてみたいな!」
「でもおじさ……」
「コラッ!」
少し早めに切り上げで魂さんにみてもらう事になった。
「あー緊張するー」
ひなはスタジオに入ると分かりやすく緊張していた。
ひながドラムを叩きだすと、魂さんの眼光が鋭くなる。
「リズムも音圧もしっかり出ていいプレイだね! 3点を複雑に作ってるからテクニック系が嫌いなわけじゃなさそうだけど……あんまり見せる技はしないのかな? それともアレンジを見せるからしなかった?」
「いつもこんな感じですね!」
「なるほど、俺が見た感じすごく器用そうだから色々な音の出し方を楽しんでもいいんじゃないかな?」
そう言うと魂さんはひなと変わる。
「ちょっ、おっちゃんめっちゃ上手いやん」
「かな! おっちゃんて!」
ひなの口が"3"になっている。
多分集中しているんだろう……。
「こんな感じでドラムって色々な音が出るんだ、ひなちゃんはシンバル以外は抜けない音を怖がってる感じがするけど、意図的に使い分けたらそれだけ表現の幅がひろがる」
「凄いですね……」
「スネアのプレイも言ってみたら音の違いの組み合わせだからね! こういうスティックを回したりが嫌いなら、ちゃんと音になるのをしていっても魅せられるよ?」
「ありがとうございます!」
ひなってあんまりスーパードラマーとか調べたりしなさそうだからいい機会になったんじゃないだろうか……。
「あ、あと君……」
お、俺?
「はいっ!」
「ちょっとギター弾いてくれる?」
そう言うと、ジャムセッションが始まる。
色んなパターンのリズム……弾けって事かな?
俺は合わせてギターを弾いていく……。
「うん、バンドのサポートとかしたくなったら言ってよ? 紹介するから」
魂さんは特に驚く事も無く、淡々とはなした。
30分程度だったけど、俺たちはかなり為になったと思う。
その後、アレンジをまとめて、西田さんに見せると笑顔でオッケーを出してくれた。
明日は山野さんとリクソンさんの来る日、今日は少し早めに寝ておこう。
お風呂に入るとひなとかなが同じベッドに……
「かなも一緒にねたいの?」
「ちゃうねん、ひながまーちゃんに変なことせんように間でねるねん……」
「ひな……昨日なにしたの……?」
◯用語補足
・3点
ドラムセットのスネア、ハイハット、バスドラの事
・ジャムセッション
全員アドリブでほかの楽器と合わせるセッション