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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
メジャーに向けて
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合宿所の人達

かなは目で合図をしてくる。

普通にバンドの人だと思うけどなぁ……


「はい、わたし達Cスタジオですけど、何かありました?」


お兄さん(と言っても俺よりは大分下だけど)は2人で顔を見合わせる。


「生音だったよね? もしよかったら少しだけでも演奏見せてくれないかな?」


パッと見た感じはビジュアル系バンドのオフなのだが、見ようによってはヤンキーに見えなくもない。しかし、フランクだけど丁寧だな……。


「ちょっと西田の許可が必要です……」


かなはヒソヒソと俺に囁く。

「まーちゃん、なんで社長を呼び捨てしてんの?」


「かな、他の人に自分の所の人を言うときは敬称や役職は付けたらだめだよ?」

「えっ? そうなん?」


お兄さん達は少し驚いて、

「君たちレーベルに所属してるの? どおりで……」

「ごめんごめん、自己紹介してなかったね、俺たちはポニーエンター所属の"ル・シエル"ってバンドなんだ」


ポニーエンター? メジャーバンドかよ? やっぱり、名前的にもビジュアル系の人達だったな……


「さっき凄い演奏が聞こえたと思ってたら出てきたのが君たちだったからちょっと機材とか見せて欲しいなって思ってね……」


すると、食器を片付けていた、西田さんが慌てて戻ってきた。


「うちの子達に何か用ですか?」

「あ、この人達ポニーエンターのバンドの人見たいで、機材を見せて欲しいらしくて」

「なるほど、そうゆう事? 機材くらいならいいですけど……」


「すいません、ありがとうございます!」


以外にも西田さんに深々と頭を下げた。

そして流れるように、"ル・シエル"の人を俺たちのスタジオに案内した。


「あれ? そんなに高い機材じゃないね」

「ベースがちょっといいくらいだね……ちょっとミズキ、あのギター弾かしてもらおうよ?」


"キラの助"がちょっとギョッとしたように見えた。


「君、ちょっとギター触らせてもらっていい?」

「いいですよ?」


そう言うとミズキさんがギターを構えた。

「カスタマイズされたキラーか……セッティングが声を避けてる感じか、バランスがいいね!」


ミズキさんが適当に弾く。

流石メジャー、普通に上手い……。


「ギターの子って君? だよね?」

「はい、そうですけど……」

「ちょっと適当に弾いてみてくれない?」


俺は渋々"キラの助"を手にとり鳴らした。


"ズクズクズクズクチャラリー"


「いや、この子ヤバいよ! 音がめちゃめちゃ綺麗だわ……このギター自分の弾き方に合わせてセッティングされてるわ」


そう言うと2人はかるく耳打ちしてから、

「時間大丈夫? ちょっと君、俺たちのスタジオ来てもらえない? 音作りにちょっと悩んでて、意見貰えないかな?」


「ごめんね、そしたら僕も行っていいかな?」

「社長さんも是非是非!」


こうして、俺と西田さんで"ル・シエル"のFスタジオに行く事になる。ちょっと気になるけど、悪い人ではなさそうだな……。


スタジオに着くとドラムとベースがいた事以外にも、俺は目を疑う。

ヴィンテージのジャズベにストラト、レスポール……。

ドラムってまさかスタジオミュージシャンの"魂スケルトン"さん?


「あの、ヴィジュアル系の人ってもっと変わった形状のを使うと思ってました。 この機材たちすごすぎますね……」


「うん、事務所で借りれるんだよ。そして、ステージ用とレコーディング用は違う。 ほら俺たち今はメイクもしてないし!」


「メジャーレーベル系はやっぱりすごいな……」西田さんも驚いた様子だった。


「いい機材は使えるんだけど、その分どう使おうか悩んでてね……」

「ちょっと聴かせて貰えますか?」


「うん、いいよ!」

そう言うと、曲をワンコーラス弾き始めた。

クオリティが高い、流石というかドラムの表現力はちょっとレベルが違う。


纏まりが凄くいいけど、なんとなく気になる部分は分からなくもない。


「まひるちゃんどう?」

「わたし的にはベースですね……」

「なるほど……」


ミズキさんはそのやりとりが気になった様子でこちらをみる。


「何か気になりました?」

「聞いた感じ的にもうちょっとスッキリ纏めたいのかなと思ったんですがどうです?」


「うん、ギターがちょっとモヤっとしてる気がするんだよね……」


「多分ベースのハイミッドをちょっと下げて倍音を減らすとスッキリするかもです! 機材があるのでパライコで探るのがいいかもしれないですね!」


「ギターじゃなくベースか……なるほどね」

「ちょっとそのヴィンテージのベースがありえないくらい倍音出てるので……」


「まぁ、そこまでのカット作業はレコーディングでする内容なのでライブで使わないなら試すくらいでいいと思いますよ!」


"ル・シエル"の人達は少し驚いた顔をした後、俺の方を見る。


「もしかしてこれ弾いてみたいの……」

「いいんですか?」


食い気味に言った、このストラトとレスポールはその辺の楽器屋さんの試奏じゃ弾けない!

俺はテンションが急上昇した。


多分うずうずしてるのに気づいたんだろう。

ヴィンテージ59年にしか見えないストラトなんだけど、いくらメジャーレーベルとはいえウンゼン万クラスの59年のわけはないよな……。


重心とか持った感じでわかるが、木がいい。

さらにアンプもフェンダーのヴィンテージアンプ。


少し弾き出すとドラムとベースもジャムで入ってくれた。


ブルーノートを響かせるには最高だ。


「めちゃくちゃいい音だけど、わたしの身の丈に合っていないかな。私は"マスたん"と"キラの助"が一番自分の曲を表現できるとおもうな……」


「そうなんですか? もっとテンション上がると思ったんですけどね……」

「あ、めちゃくちゃテンションは上がってますよ? あのチョーキングでの唸りとかご飯何杯でもいけそうです!」


「それなら良かったです! ギターやっぱり上手いですね! いや、ドラムも……それをつないでグルーヴをだすベースもなかなかいないレベルだとおもいますよ!」


「ありがとうございます!」

「まだ数日は居るので、気軽に声掛けてください!」


意外にも普通にいい人達だった。



♦︎



スタジオに戻るとひなとかなは心配そうにしていた。


「普通に音の相談だったよ! 高いギターも触ってきた!」

「そうだったんだ! 良かったよぉ」

「ほんまに、まあちゃんそのまま拉致られるかと思ったわ……」


「あはは! メジャーバンドがそんな事しないよ!」


時計の針は18時半を指していた。

俺は急いで、アレンジを纏める準備に入った。


かなの顔を見る、まだまだ元気そうで弦をミュートしながら音をだしている。


かなの準備は良さそうだな。

ひなのいるドラムセットに目をやるとひなと目が合って、ひなは少し微笑んだ。


とりあえず流れで通してみながらアレンジを少し変えた。


「今の感じどうだった? 結構流れとして違和感は無くなったと思うけど」


「いい感じなんちゃう?」

「うん、雰囲気もしっかり作れているよ!」


「そしたら全体はこんな感じにして、一旦新曲を作ろうかな」


「「はーい!」」


「西田さんが言っていた感じだと、軸となるリズムの変化が欲しいって話しなんだけどそこで、四つ打ちを軸にした曲はどうだろう?」


「はいはーい! ミュートガンガンのベースしたい!」

「いいかも、ダンスチューン風につくろっか!」


これは"マスたん"の方がよさそうだな。

「ひな! ちょっと四つ打ちで叩いてみて!」


ひながドラムを叩くとかなが入りだす。

真裏にだけベースを入れる……ディスコチューンになりすぎるな。


「かな、ディスコと言うよりロックよりにできる? 頭をふる取りやすいリズムよりはちょっと伸ばしたりしてグランジ感だす方が私たちらしいかも?」


「グランジ感……ちょっと暗そうな方がええんかな?」

「かな! それいいかも!」

そう言って、俺はギターを入れ始めた。


「なるべくループで、あんまりコードはかえずに弾き方を変えて進行させてみよっか!」

Bメロ以外はコード変化あまりない方が良さそう、このダークな怪しい感じのループが、曲の輪郭になっていく。


「あとはメロディに合わせて、アレンジしていこう!」


こうして、俺たちは二つの新曲の形を作った。


四つ打ちの曲とウォーキングベースの曲が形になった頃には時計は1時を過ぎていた。


「そろそろお風呂入って寝ないと死んじゃうね……明日の朝一で再開しよっか!」


俺たちはスタジオに鍵をかけて、ベッドの並ぶ部屋に向かう。

廊下を歩いていると微かな声が聞こえてきた。


「誰かいるのかな……」

「しーっ!」

かなは口に指をあて、こちらを向いた。

廊下を曲がった辺りくらいで話し声がする。


(ねぇ、かな? 誰かいるの?)

(多分な、学生さんちゃうかな?)


ヒソヒソ声で曲がり角に近づくかなとひな、なにやら楽しそうだな……。


(まーちゃん! 多分カップルかも?)


は?カップル?

ちょっとヤバい場面に出くわしたんじゃないのか??


俺たちは3人で、聞き耳を立てながら近づくと男女の声が結構はっきり聞こえてきた。


「でも、俺らって付き合ってるんだよな?」

「うん……」

「なんでタケルの隣にすわるの?」


かなは嬉しそうにこっちをみる。

やっぱり学生の軽音部の合宿っぽいな……。


(痴話喧嘩やんな? 彼氏嫉妬してるで!)

(かな、しーっ! 聞こえないよ!)


お、お前ら楽しそうだな……俺には修羅場に見えるんだけど……。


「だって、あんまりユウヤとばかりいたらメンバーだって気使うし……」

「それはそうだけど……」


(バンド内恋愛かな?)

(そうちゃう? やけど、絶対あの女メンバーと浮気してんで!)

(だねー!)


えっ? 今の感じそうなのか?


「私はユウヤが好きだよ?」

「ユミ……」


チュッ!


(あー! チュッって聞こえた! )

(チュウしたんかな? ドキドキするなぁ)


ヒヤヒヤするわ!

背中にへんな汗をかき出した所で更に声が聞こえる。


「……んっ……」


ちょっとまてー、18禁や18禁! この子らには見せられへんで!

その声に俺はかなり焦る。



「ユミ……スタジオの方行こう?」



(ヤバい! こっちくる! まーちゃん後ろに戻ってー)


◯用語補足さ


・パライコ

パラメトリックイコライザーの略。音域選択と音量調節が付いているのがデフォルト。音域が固定されているものをグラフィックイコライザーと言います。

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