初めての合宿
今回は俺たちと西田さんの4人。
合宿所は凄くお洒落な作りだった。
なんというか……味があるイギリスのお家風の建物だ。
そして、湖を挟んで富士山が見える。
「フッジッサーン! フッジッサーン!」
「なんやその変な歌!」
「かなちゃん、"電気グルーヴ"を知らないのかい??」
西田さんは驚いた様に言った。
「結構有名だったりしはります?」
「もちろん! 一世風靡したグループだよ! 世代をかんじちゃうなぁ〜」
たしかに2人はピエール瀧が、子供向けの番組に出ていたのを知ってる世代ですらないだろうな。
ひなは富士山や建物とかの写真を撮っている様だ。今回の合宿もSNSに載せてくれるのだろう……いつもありがとう!
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施設の受け付けを済ますと、西田さんは日程を話し始めた。
まず1時間は荷物の整理と機材出し。
スタジオはCスタジオを3泊4日使える。
アレンジを完成させる為でもあるのだが、目的としてはアルバム作り。24時間使えるスタジオで、レコーディングできるようにしなくてはいけない。
・初日は選曲とアレンジ、持ち寄った曲から今回のアルバムに入れる曲の候補を決め、アレンジと作詞を詰める。
・2日目は曲のアレンジと作詞の続き。実質2日でアレンジを完成させないといけない。
・3日目はアレンジの調整。この日は山野さんとリクソンさんも来る。
・4日目は順調に進めばステージングの練習から帰宅。
かなりスケジュール的に厳しい気がする。
もうちょっと学生ノリかと思いきやスケジュールだけは大人スケジュール。 中学生の体力で頑張って楽しもう。
「そしたら持ってきた新曲を今のバンドの音にして、プリプロを作ろうか! 目標は17時で、遅くても19時までには作っておいて!」
約7時間……頑張ろう。
こうして初の合宿がスタートした。
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この合宿所、結構いろんな人が来てるんだな。
おじさんバンドから、派手な髪色のお兄さん達、学生さんっぽいルックスの人まで……
壁のサインを見た感じ、インディーズやメジャーバンドも利用するらしいからもしかしたらすごいバンドも居るかも知れない。
「まーちゃん、ここすごいね!」
「凄く贅沢な環境だよね!」
「2人共時間ないで! 早よ着替えや!」
3人が考えていた事は同じだったらしい……全員中学の体操着のジャージを持って来ており、部活感が全力で出た。
「あはは! 合わせて来たみたいやな!」
着替えがおわると、とりあえずかなの曲以外は音源の共有をしているので、アレンジはある程度出来ている。
スタジオで演奏して録音するだけだ。
「かな? とりあえずかなのをしよっか!」
「そやな……ベースの弾き語りやからちょっと恥ずかしいねんけど……」
そう言うとかなは弾き語りを始めた。
疾走感に定番のコード展開、なるほど……トマトはBメロに……いいんじゃないかな?
2曲目……速っっ!
ゆっくりと速い例を出していたからね!
3曲目…………却下!
「これはダメ!」
「えーっ? なんでや?」
「めちゃめちゃ似てる曲があるからパクリになると思う……」
「ほんまに? 気づかないうちになぞってたんかなー?」
とりあえずかなの2曲をアレンジする。 ランチを済ませた後新曲の12曲を録音した。
「今回のまーちゃんの曲、3曲ほどかなり難しいよね!」
「うん、こういうのはわたしがつくっておかないとダメかなって思って……」
「まぁ、元々の宣言通りやし3曲くらいならええんちゃう? うちらが慣れなあかんだけやで!」
「そうだね! たしかにまーちゃんじゃないと難易度あげるのは難しいよね!」
俺たちは16時過ぎ位に、予定通り12曲を録り終え、西田さんに報告に向かった。
「おーっ! 合宿感出てるね! もう出来たのかい?」
「はい! とりあえず候補を撮り終えました!」
「そしたらスタジオで聞いてみようか!」
西田さんをスタジオに呼び、鑑賞会になった。
「うーん、一つ一つはなかなかいい感じだね……新しいギターも凄く馴染んでいい感じだ……」
俺たちは顔を見合わせて笑顔になる。
「だけど、ちょっと纏まりがないかな……オムニバスの様な感じがちょっとつよいね」
西田さんはちょっと悩んでいる様に目をつぶり、ノートを借りると何やら書き始めた。
「ちょっとこの2曲は外して、13曲で、ちょっと合宿中に2曲ここに書いたイメージで作ってくれないかな?」
曲を4つに分け、間に◯を入れた。
この◯に書いてる様な曲を足すイメージか……。
その二つはリズムを工夫した曲……
「聞いた感じだと色々なシングル曲がある感じだから、ちょっとアルバムならではの曲が欲しいね」
「なるほどですね……」
「あとはちょっと色が違い過ぎる曲、この辺りだね、前後の曲を考えてちょっとアレンジを組み直して欲しい」
たしかにツギハギ感が否めない。
ベストアルバムじゃないのだから流れは今のうちに修正が出来ると言う事だろう。
「それと、まひるちゃん。 多分君の作ってない曲の言葉合わせがかなり甘いからこの辺り2人と話しながら調整しよう!」
俺たちがメモを取ると。食堂に向かう、西田さんはこれが出来たらスタジオに西田さんも入ってくれるのだという。
レーベルによってこんなに違うんだな。
「かな、2曲ともOK出てよかったね!」
「あたしは1曲ダメだったよー」
「あぁ、今回外した曲もダメな訳じゃないよ、ただ近い曲があるからアルバムとしてまとめにくいのを外させてもらったかんじかな?」
似ている曲を外したのか……なんとなく理由がわかった気がした。
「メロディのいい曲が結構あったから、アレンジの詰め方次第でさらに化けると思うよ!」
西田さんがそう言ってくれたおかげで俺たちのやる気はさらにあがり、その後もご飯を食べながら曲の話で盛り上がっていた。
すると、赤い髪と金髪にマスクをしたセットアップのジャージとタンクトップにタトゥーの入ったお兄さんが2人近づいてくるのがみえる。
「まーちゃん、あの人の腕……」
「多分バンドの人だよ?」
ひなはちょっとタトゥーを怖がっている。
かなは……意外と普通だったが、2人のお兄さんはそのまま俺たちの所まで来ると話しかけてきた。
「ちょっとすいません、Cスタ使っていたのって君たち?」
そう言うとかなも少し緊張した様だった。
◯用語補足
・電気グルーヴ
日本のアーティスト。シャングリラなど大ヒットもあるが、結構ヤバ目なパフォーマンスする人なのに、何故か子供向けの番組や、ドラマや映画にも出てたりと多彩な人たち。