イベントの後に
マジかよ……雅人が入る時にはほぼ決まっていたのか。
もしくは雅人が入った事で決まったのかも知れないな……。
「所属レーベルは"チーズandクラッカーレコーズ"になります!」
嘘だろ? その名前だけで大御所確定じゃねーか……と思ったら
「マジでっ!? すげーじゃん!」
ジュンさんが反応した。と言う事はジュンさんも知らなかったのか……。
「なので、基本的には自由にさせて頂いてますが、新しい曲は横山源さんにアドバイスと言う形でプロデュースして頂いてます!」
会場がざわつく……。
クオリティ爆上がりはそのせいなのか? いや、ヒロタカさんのポテンシャルを発揮させたと言った方が正しいのか……。
ライバルどころじゃ無いな。
そして"スターリン"改め、"スターリン&バックドロップ"の最後の曲で幕を閉じた。
♦︎
「まひるさん、思い知りましたか?」
「タキオさん!? 来てたんですか?」
「もちろん! 担当してる仕事ですからね! 様子を見にきました」
「タキオさん、先にわかっていたとでも?」
「いや、企業とかだと当たり前ですよ! 新しいサービスのそれ以上を他社に出される事なんて……バンドでもそれは同じ事です」
「そんな……」
「仲良しなのはいいのですが、成長し合うライバルと言う事も頭に入れないと。それを含めて仲良しです。正直その意識があったのはまひるさんじゃなくかなちゃんでしたね」
「それはどういう意味ですか?」
「僕が行ったあと、客を呼ぶ為には? って連絡があったんです。 だから目を惹く、インパクトを出すと言った点でアドバイスしました」
「考えついた結論が、はっぴとコスプレだったのか……」
「まだ、仕方なかったとか思ってません? まひるさんは技能では今回誰にも負けてないんですよ? 中学生の女の子にここまで言うのは事情を知る僕しかいないんじゃないですか?」
「そうだね……」
「意識の面で本当の中学生のかなちゃんに負けてるのをもう一度考えてみてください」
タキオが言うことに俺は何も言えなくなった。
♦︎
そんな最中、かなはひなを連れてホールに残る人に声をかけていた。
俺も駆け寄り、一緒に声を掛けた。
(かな、本当に気づかなくてごめん)
ホールに人が居なくなった後、かなは放心したように立っていた。
俺はそっと近づいてかなに話しかけた。
「かな……ごめん」
「まーちゃん? 何が?」
かなは笑顔で振り向いた。
「かな、頑張ってくれてたのに、気づけなくてごめん」
「……うち、やれることはやったつもりやねんけどなぁ……」
「うん、分かってる……」
かなは俺の肩にかおを埋め泣いていた。
かなが泣くのを初めて見た気がした。
♦︎
機材をまとめ終わると俺たちは西田さんに呼ばれた。
だが、西田さんは優しく言った。
「凄くいいイベントだった。 君たちがどうおもってるかはわからないけど、こんなイベントはそうそう無いだろうね!」
俺たちはきょとんとした。
「もしかして負けたとでも思っていたかい? 僕はそうは思っていない。 まひるちゃんはジュン君に持ち上げられたし、ひなちゃんやかなちゃんの可能性も充分見れたよ」
「でも色々な意識面で……」
「君たちが持っていなかった物を他のバンドが持っていただけだろう? どんどん影響を受けていけばいい。 そんなライブはこれから幾らでもあるんだ」
どんどん影響を受けていけばいい……そうか、気づけた事が1番大事なんだ!
ひなとかなとお互い顔を見合わせ、笑顔になった。
帰り際に西田さんとタキオに挨拶をするとタキオから手紙を貰った。
♦︎
帰り道、雅人も一緒に帰る事になった。
「雅人凄いよね、こっそり契約してたなんて思わなかったよ……」
「俺が入ってすぐに決まったんだよ……」
「そうなの? てっきり決まってたからかと思ったよ」
「秘密だけど、ヒロタカさんお前らをめちゃくちゃ意識してるぜ?」
「そうなん? なんか独自の世界走ってるようにしか見えへんけどなぁ……」
「あの人普通に天才だと思うんだけど、まひるにザコキャラ扱いされたって言ってたぞ!」
「わたしそんな事して無いし!」
「スタジオで、ヒロタカさんでも弾けるって言ったんだろ?」
あ、スリップノットの時か……。
「あの人めちゃくちゃ気にしてたぞ! 今大学の軽音部でも1番弾ける位置らしいからな」
まぁ、軽音部とかなら普通に1番上手いだろうなぁ……。
「でも、ヒロタカさん歌上手いと言うかいい声してるよね!」
「ほら! また、それ頭にギターはそんなもんってついてるだろ?」
「あっ……気をつけないと……」
「でも、俺ら負けねーから!」
「うちらも負けへんよ?」
「うん! 雅人よりドラム上手くなるし!」
「いや、ひなはもう……いや、俺より上手くなれるならなってみろよ!」
「雅人のドラム粗すぎだし!」
「お前だってタムの使い方しょぼいし!」
うん、今はもうどっちが上手いとかよくわからない感じになってるよな……。
まだ雅人の方がギリギリ上手いか??
いつもの分かれ道で雅人とかなと別れた。
「ねぇ、まーちゃん? あたしって上手くなってる??」
「うん、びっくりするくらい成長したとおもうよ?」
「あたしはね、このままこうやって3人仲良くやって行けたらいいなって思うよ?」
「それはわたしも同じだよ!」
少し暖かくなってきた夜風がどこか心地よく感じた。
家に着いた俺は、タキオから貰った手紙を取り出した。




