アートディレクター①
週末、俺たちはタキオとの待ち合わせ場所に向かう。
タキオは今日、どんな話をする気なのだろうか? ひなやかなは広島の時ほとんどタキオとは会っていないため、どんな人が来るのか楽しみにしているようだ。
「なぁ、まーちゃん? タキオさんってどんな人なん?」
「タキオさん? うーん、雰囲気イケメンかなぁ、オシャレな感じのお兄さんだよ」
「ほんまに? ちょっと期待してしまうわー」
かな、リクソンさん一筋じゃないのか? まぁ、会ってみればわかるか……。
待ち合わせ場所のカフェに着くと、少し大きなトートバッグを持ったタキオが待っていた。
無地の淡い胸元の開いたカットソー、長めの薄いニットのカーディガンを着たタキオは、ぱっと見はオシャレな学生に見える。
「まひるさん、お久しぶりです。かなさん、ひなさんははじめましてですね……」
タキオはそういうと、二人に名刺を渡した。
清潔感のある雰囲気が前に会った時と少し違う様に感じた。
かなが俺の腰をツンツンして来る。振り向くとひなとこっちをみていた。
「ちょっとまーちゃん、めちゃめちゃイケメンやん……しかもいい人そうやし」
そうなのか? もしかしたらこのちょっと薄めの顔は女子受けがすごくいいのかも知れないな。
コソコソ話す俺たちを気にする様子も無く、席に座るとバッグからノートパソコンを取り出した。
「えーっとですね、西田さんにヒヤリングさせて貰った内容を元に午前中は、バンドの方向性についてすり合わせておきたいと思ってます」
そういうと、パソコンのキーボードを少し叩く。
「それで、午後は吉田さんと、ゆきさんに声かけてますので、媒体の相談させてもらいますね!」
タキオは進行に慣れた様子で話し始めた。
「まず、先日まひるさんに話したコンセプトとブランディングの事なんですけど……」
「えーっと、コンセプトが想いで、ブランディングが差別化でしたよね……」
「はい、大体あってます。要はH.B.Pはどんなバンドになりたいのか? というのと、他のバンドと何が違うのか? というのが売り出して行く中では大事になってきます」
どんなバンドになりたいか……一応考えては見たけどあってるのかは心配だ。
「わたしとしては、中学生とは思えない演奏力と、この3人での良さを出したいかな……」
「なるほど、それは言い換えれば、中学生と言う若さを押して行きたい感じですかね?」
なるほど、そうも言えるのか。
「うちは、どちらかと言うとクオリティを押したい。まーちゃんは中学生なのにのレベルじゃないと思うねんなぁ」
「あたしも、中学生だったの? っていわれる今のライブでの反応が全てかなぁ」
ひなは、思い返す様に話した。
「ふむふむ、みなさんの認識は大体理解しました、次なんですけどH.B.Pは他のインディーズやメジャーのバンドと何が違いますか?」
「今でいうと、エンタメ性を上げたステージング、演奏力かな?」
「ステージと、演奏力……わたしの客観的な目線では、中学生と言う事以外にも3人のルックスレベルが高いのも売りだとおもいます」
「えぇ? 可愛いって事なん?」
かなはなにやら嬉しそうな素振りをみせた。
「はい、3人はそれぞれジャンルが違う可愛さを持っていると思います! かなさんは、モデルさんみたいな感じで、ひなさんはアイドル、まひるさんはアーティスト的な雰囲気があります」
あっさり言い放つタキオは褒めてるというより仕事としての意見の様だ。だが、それを確認してなにをしようというのだろうか?
「ただ、そう言った、バンドの魅力、それぞれの個性が生かせるコンテンツがない。なので、私は"H.B.P"の売り方は不完全だと思いました」
「このままじゃダメってことですか?」
「いえ、正確にはポテンシャルに対して期待値より売れない。と言うのが適した表現だと思います」
俺たちはショックだった。一緒に考え、作りあげてきたものを否定された様な感じがした。しかし、タキオの言っている事はなんとなくわかる。
「そしたらどうすれば?」
タキオは少しニヤリとすると、
「私に、任せてもらえませんか? 生憎フリーランスなので、西田さんに頂いた予算で充分対応可能な範囲です」
なんか上手い事言いくるめられたような気もするが、ひなやかなも納得するならいいかもしれない。
素性を知っている俺は、タキオなら悪い様にはしないだろうと考えた。
「かなはどう思う?」
「うちはええとおもうよ? タキオさんはプロやし、嫌なものは拒否できるんやろ?」
「もちろん、進める施策内容を、承認するのは西田さんと貴方達になります」
「それならあたしも、いいと思うよ?」
「ひなも、いいかんじ?」
「だって、まーちゃんがたじたじで、言いくるめられてるの初めてじゃない?」
理由それかよ! まぁ、今までアートディレクター? って言うんだっけ? そういうのはいた事無いからな。
「みなさん、納得頂けたみたいで良かったです!」
タキオは満足そうに笑うと、
「そしたらまず、バンド名からテコ入れさせてもらいます」
俺たちは、そのいきなりの発言に、衝撃を隠せなかった。




