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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
第2章 バンド作り
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進化するステージ

スポットライトに照らされた俺はギターの感触を確かめる。


あれ? "マスたん"じゃない……え?"ポールくん"?めちゃめちゃ久しぶり! でもメンテはされてるみたいだな。


重いバスドラが鳴り響き、サンダーバードのパッシブとは思えない濃いベースが響いた。


ピックが弦に触れる瞬間俺は目が覚めた。


夢だったのか。

正直どっちが夢なのかよくわからないな……。


まだ午前4時だった。

隣で眠るひなの寝顔が、ちょっと新鮮だった。


俺は布団から出ると水を口に含んで、外を見る。都会とはいえ街は静かに、車の走り去る音が時折聞こえるくらいだった。


多分俺は今日のライブにワクワクしすぎて、目が覚めてしまったんだろう。


こんな事はいつぶりだろうか?

ふと、ギターケースの中の"マスたん"に呼ばれた気がして、窓際に座りギターを弾いた。



♦︎



ライブハウスに着くと、リハーサル前に俺はPAさんに書き込まれたセットリストを渡して今日の流れを説明する。


「OK! そしたらリハーサルでこの部分を中心に確認していきましょう!」


リハーサルはスムーズに確認が進み、俺たちは一安心すると、楽屋で西田さんが待っていた。


「リハーサル見たよ! 大分作り込んだみたいだね」


「はい、色々と考えました!」


「今日のライブ、楽しみにしてるよ!」


西田さんに笑顔でそう言われた俺たちはどこか自信に溢れた表情になっていた。



そして出番を待つ……。



ふと、ひなに目をやるとなにやらモジモジしている。


「ひな? トイレならまだいけるよ?」


「大丈夫……違うの……」


「緊張してる?」


「うん……」


「そんな時にいい方法があるよ?」

ひなは、こっちを見ると、聞きたそうにする。


「手を出して、今まで練習したり考えた事を指折り数えていくの。 そしたらこれだけやったんだから大丈夫ってなるから!」


ひなは指を折って行くと、俺の方を見て笑った。


「それじゃあ、行こう!」


暗闇の中、人の声がする。

ギターを手にとりボリュームを上げると、微かなノイズがアンプから聞こえた。


SEの音がフェードアウト。

今までとは違うけど、スタンダードな始まり方だ。


ひなのカウント……今っ!


曲が始まるのと一緒に照明が明るくなって、フロアの半分くらいまでの人の顔がはっきりと見えた。


今日もほぼ満員。

相変わらず"サカナ"の人気は凄い。


1曲目のAメロに入る、ブリッジミュートを展開させて行くリフ、気力で音程と声質を安定させて声を抑え込み張る。


お返しの調子も良く、このマイクにも大分なれ歌いやすくなった。


サビになるとお客さんの手が上がった。

うん、今日も届いた。


今日は、一曲目が終わっても音は止めない。

ひなのドラムがリズムを刻む。


「"サカナ"さんのオープニングアクトとして、名古屋から来ました、H.B.Pといいます! 」


歓声が聞こえる、入りは上々。


「今日はうちらを少しでも多くの人に知ってもらう為に、メンバー紹介しまーす! 是非是非名前だけでも覚えて帰ってなー!」


名古屋から来たと言いながらバリバリの関西弁、いいのかな? 主にかなが進行するのはひなの提案だ。 確かに向いている!


「毎朝欠かさず髪を編み込む、ドラムのひな!」


シンプルなドラムからの高速展開がいい感じに決まる!


「関西系スレンダー美女! かなでーす!」


練習の時とキャッチコピー違うじゃねーか!


練習したスラップ、バッチリだ! 俺は少し泣きそうになった。


この流れだとかな……まさか


「見た目は子供、頭脳は大人! 天才ギターまひるー!」


ちょっと、それコ◯ン!

もう、好き放題弾いてやる!


カッティングリフからの、ペンタトニックソロ……


歓声が沸き起こる!


まだまだ、チョーキングからビブラートを効かせハーモニクス。さらに、倍速に速度をあげタッピングからのノーピッキング、最後はスイープの往復でどうだ?


あれ? 歓声が止んだ……


少し間を置き倍の歓声が返ってきた!


ふと後ろの方を見ると西田さんの影が爆笑している様に見えた、ちょっとやり過ぎたか?


これは流石にこのクオリティで出来る奴は少ないだろう。光の速さと呼んでくれ!


調子に乗っていると次の曲の入りを逃しそうになった。 あぶねー、気をつけなきゃ。


曲が進み振り付けもいい感じ、

ついにボリュームを弄る展開。一人でアルペジオを弾き続けるのは少し緊張する。


かなはホールに向かい、ジェスチャーを繰り返し焦らす。


ちょっと、早くして!


ボリュームをゆっくり下げると客席から笑い声が聞こえ、上げた瞬間別の曲になっていた事で歓声に変わった。


ひな、おまえやっぱり天才だよ。


ライブは大成功、楽屋にもどると子供の様にはしゃぐおっさんが……西田さんだ。


いや、俺もおっさんだけど今はかわいい。


「いやー、最高だよ! 見てて凄く楽しめた。まひるちゃん、あのギターはやるべきだ! あれは誰も真似出来ないぞ!」


時子さんも笑顔で、

「頑張ったね! ちゃんとホールが一体となってライブが出来てた!」


というと、メンバーに向けて、

「負けない様にやるよー」

とテンションを上げた。


こうして、"サカナ"も盛り上がり、過去最高のライブになった。


この時俺はようやく、偉大なバンドの人達が言っていた"みんなに支えられ"と言っていた意味が分かった気がした。



♦︎



ライブが終わるとホールに静けさがもどる。

機材を片付ける話し声だけが微かにしていた。


俺は機材を纏めると、トイレに向かう。

座って用をたすとつい声に出た。


「はぁ〜今日は本当、いいライブだったなぁ〜」


トイレの個室から出るとひながいた。


「ひな、今日は楽しかったね!」


ひなは頷き、少しあたまを下げると俺に抱きついて来た。


俺はそのまま個室に押し込まれる。

「ひな? どうしたの?」


「まーちゃん、ドキドキが止まらないよ」


俺より少し背の低いひなは首元にフィットする。おれは軽く抱きしめひなの頭を撫でた。


ひなは腕に少し力を入れて顔を上げた。


い、いいんだよな?


ひなの唇に重ねて、しばらくそのままでいた。時間が止まればいい。


人生でそんなに多くは無い、幸せをリアルタイムで感じる時だった。

◯用語補足


・パッシブ

プリアンプの付いていないベース


・ブリッジミュート

ブリッジギリギリのところを手の側面で抑え主にズクズクさせる奏法。


・ペンタトニック

スケールの名前、主に5音で出来ている。

ギターと言えばコレコレ!となるソロは大体ペンタトニック。


・チョーキング

弦を押して音を変える奏法、ソロの途中でワウィーンってなるやつ。


・ビブラート

カラオケなんかでは有名だけど、ギターにもあります!文字で書くとレロレロレロレロ


・ハーモニクス

ピッキングハーモニクスとも言います。弾いた瞬間にチラッと触ると高い音だけが残る。ピーンって感じの音。難易度の割にギターしてる人以外には反応が薄いテクニック。


・タッピング

ライトバンドとも言います。右手を使ってハンマリング、プリング的な事をして広範囲弾けます!


・ノーピッキング

ハンマリングやプリングだけでひく。

話の流れでは、タッピングしてるところを右手を外した感じのイメージ。ちょっと煽ったかんじがする。






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