自分以外の
「まひるさん、転生者ですよね?」
意表を突いた一言に、俺は返す言葉が出なかった。
俺は一度黙り、頭をフル回転させ言った。
「な、なに言ってるの?」
タキオは少し笑って、
「その反応は、やっぱりそうだ……やっと見つけた」と言うと膝に手を添え、中腰の姿勢になった。
俺は返す言葉が見つからない。
「本当の僕の職業は人気のイラストレーター、今から約半年後に死ぬんです」
死ぬ?
俺の身体は少なくとも死んではいないと思うけど……多分……可能性としてはあるのか。
「でも、転生と言っても生まれたわけじゃなく、2年半前に14歳の横山多喜男に急に入ってしまった形でした、元は女性です」
ちょっとまて、俺と同じ?いや、今半年後って言ったよな?こいつの方が入れ替わりは先なのか?
俺はこいつに、内容を言ってもいいのか?
「まひるさんはいつです?」
タキオは、そういうと唇を噛み締めた。
「わたしは2019年から来た、多分元の身体は死んでない。」
意を決して言った。
タキオさんはその場にしゃがみ込んだ。
「死んでない? うそ? そうしたら入れ替わったっていうの?」
そういうと、タキオさんはしゃがみこみおちこんだ。
「タキオさん……」
俺はタキオさんが落ち着いた所で、状況を聞く。
それによると、タキオさんは入れ替わる前は売れっ子のイラストレーターで結婚も決まっていた彼氏がいたらしい。
今から約半年後に事故に遭い、病院だと思って目覚めたところが、14歳のタキオだった。
最初は状況も理解出来ず、精神的にも性的な部分でも適応出来なかったらしい。
適応出来ない状況が、学校でいじめられるきっかけとなり、引きこもり、そこで転生前の仕事を始めた。
そこでたまたまラジオで俺の事を知って、違和感を感じたタキオさんは、ブログなどから過去を調べ、急に技術を身につけた事を知り確信したのだという。
なるほどね、そう考えると元々絶望に近かった俺は適応し過ぎているのかもな。
でも、本人が死んだのなら本来のタキオは?どうなってるんだ?むしろ事故の後入れ替わって助かってるんじゃないのか?
まぁ、これは俺にも言える事なんだけど。
「それで、タキオさんはどうするんですか?」
「僕は、元の身体が事故の日に、車に乗らない様に促そうと思ってます」
俺は、少し違和感を感じつつ
「なるほど、助けて戻るつもりなんですね」
「はい……」
「よかったら、連絡先を交換しませんか? わたしも、今後どうなるか知りたいし、デザイナーとミュージシャンとしてもいい機会かなって」
タキオは頷き、ポートフォリオを手渡した。
「なるべくこの話は、電話のみでする様にしましょう! そしたらわたしは戻りますね!」
タキオと別れ、俺はライブハウスに戻ると、デザイナーだった事をみんなに話した。
西田さんはにっこりと、
「新しい才能のコラボ、イメージが合うなら話題としても面白いかもね!」
"サカナ"のライブも後半に差し掛かると、ホールは熱気に包まれていた。
俺はライブを見ながら、半年間を思いだす。
あの日入れ替わっていなければ……
周りが優しくなかったら……
ひなやかな、雅人。他にも沢山の人が俺を助けてくれて、今ここにいる。
タキオにはいなかったんだろうか?
もしかしたら、毎日苦痛を感じていたのかも知れないな。
俺は一緒に見ていたメンバーと西田さんに小さな声で「ありがとう」と言った。
その声は"サカナ"の音と一緒に、ホールの何処かに残った気がした。
その後俺は、今日の出来事が頭の中を回り、ひなに体調を心配された事くらいしか頭に入って来なかった。
♦︎
夜、思い悩んでいたのは俺だけではなかった。
「明日から、大阪でライブやんな?」
「かな? それ聞くのもう5回目だよ?」
「おばあちゃん元気かなー」
かなは小学校5年生迄は大阪で育っていた、きっとそわそわしてるのはそういった理由だろう。
明日は転校する前まで住んでいた、かなのおばあちゃんの家に泊まる事になっていた。
かなはベッドの中で俺の手を握り眠りについた。
◯用語補足
・ポートフォリオ
過去の自分の制作物などをまとめた資料、又はファイル。デザイナーさんなどの初めての依頼などではわかりやすい様に持って来てくれる方が多いです!