俺にはギターしかない!
家に帰った俺は状況を整理する事にした。
・3年前の中学生の女の子木下日向と入れ替わったらしい
・今の世界は元の世界と繋がっている(時間が違うだけの様だ)
・まひるちゃんの中身は今のところ行方不明
今分かる事はこの3つだ。
とりあえず現在は俺、一ノ瀬太郎としての意識は同時に2つ存在している事になる。
直接会いに行ってみるか、いや、いきなり行ってみたところで、当時の俺には意味不明な女子中学生が来ただけになってしまう。下手したらファンとか思う事もあるだろう……。
だがしかし、まひるちゃんの中身は一体何処へ行ってしまったんだろう。
現状を整理して、俺なりに仮説を立ててみることにした。
1.2019年になると元の身体に戻る
2.2019年の身体とまひるちゃんが入れ替わっている。
3.2019年に俺は死んでまひるちゃんは消滅してしまっている。
4.このまま平行で今いる俺は俺のまま新しい人生をすごす。
3以外なら能天気な俺としては問題無いきもするが、2のおっさんフリーターと入れ替わっているとしたらまひるちゃんが辛すぎる……俺も、このまま男と結婚とかは流石につらいな、まぁ結婚しなければいいんだけど……。
今の俺に出来る事はないだろうかと考えてみるが、今までバンドくらいしかまともにしてなかった俺には何も思い浮かばない。
そうこう考えていると、隣の兄の部屋からエルレガーデンの少し歪みの効いたリフが聞こえてきた。
まひるちゃんの兄はギターをしてるのか、それにしても下手くそだ、初めて1年以内と言ったところか、なんなら俺がギターを教えてやろうか??
下手くそなギターに耐えれなくなったおれは勢いよく兄の部屋に乗り込んでしまった。
ガチャ。
「ん? まひる? ギターうるさかった?」
いつもうるさいと言われてるのか慣れた様子でボリュームを下げた。エピフォンのレスポールだ、まぁ物は悪くは無い、ギターを始めたばかりにしてはそれなりのギターを使ってるなと思った。
つい、「そのリフ、エルレガーデンのミッシングだね」
と呟いてしまった。
「お!? まひる知ってるのか? これ結構弾けるようになっただろ?」
そんなことはない下手くそだ、ギリギリなんの曲かが分かる程度だ。
「ちょっとわたしに貸してみて?」とつい弾きたい衝動が止められなかった。
「なんだよ、まひるもギターしてみたいのか? けどな、弾くのは結構難しいぞ、俺が教えてやろうか?」
おまえに教えてもらうギターはねーよと思いながら、レスポールのギターを手にした。
慣れたはずのギターがでかい。それもそうか、今の身体はまひるちゃんの身体で本来の俺より10センチ以上背が低い上に手もふた回り以上小さくなっているのだ。
ちょっと小さいベースみたいなサイズ感だな……。
だが俺は色々なギターを弾き、中学生からギターをしていたから少しぐらい大きくても対して問題はない。
この兄が弾くクソギターよりは遥かに上手く弾く自信があった。
ついつい慣れた元の感覚でアンプの歪みを調節し、さっき兄が弾いていたミッシングをギター歴20年越えの脂の乗った技術で弾いてしまった……。
「ちょ、ヤバ、、お、おまえいつ練習したんだよ??」
兄は驚きを隠せない様子。
兄の反応をみて我に返った俺はとっさに「曲のフレーズが光って見えた」とか適当な事を言ってしまった。
「おまえマジでマジ、ギターの天才なんじゃないか?」
兄は何故かテンションが上がってちゃんと喋れなくなっている。
収まりが効かなくなった俺はギターが勝手に教えてくれるとか、わけわからない事を言ってごまかして、兄の前では天才キャラを演じる事にした。
すると、兄は
「おまえギターやれよ、プロになれるんじゃないか??」と言ってきた。
その時、俺の中で悩んでいた、元の時代の俺とまひるちゃんが入れ替わっていた時の対処について一つの答えが浮かんできた。
2019年の9月11日、俺の身体が入れ替わった日までに、このまひるちゃんで稼げるプロになろうと、、、そして9月11日の夜の俺と入れ替わっていたのなら中身がまひるちゃんの俺を養って、その時に元の身体に戻ったならデビューしたまひるちゃんのプロデューサーとして雇ってもらおうと……。
これは名案だ。というか今の俺に出来る最善の方法はこれしか無いと思った。
その日の夜は、テンションの上がった兄がまひるは天才だからギターを買ってやってくれと夜まで親を説得してくれていた。
(やれる事は決まった、後はどうやって中学生でデビューまで行くか。)
○用語補足
・エピフォン
ギブソン社傘下のギターブランド、初心者用にしてはちょっと高い楽器のブランド。
・レスポール
ギターの形の種類、レス・ポールというアーティストが使っていたことからこの名前になっている。
エレキギターと言えばこのレスポールか、ストラトキャスターがTOP2になると思う。