ライバルと協力者①
春休み、ライブツアーが決まると、時子さんから予定日程のメールが届いた。
全国7主要都市へのカ所ツアー。
約2週間かけて回るスケジュールだった。
春休みの予定がツアーでみっちり終わる。
ふと、スケジュールを見ると東京のライブが俺が昔よく出ていた"新宿レフト"という文字が。
懐かしいな、去年までは良く出てたな。
と少し感傷に浸る……あれ?もしかして。
俺は新宿レフトのホームページを見ると、サカナツアーの中ににH.B.Pと記載されていた。時子さん、もう既に連絡してくれてたんだ。
だが、俺が見たかったのはそれじゃない。
、、、ドクン。
俺の心臓が大きく脈を打つのがわかる。
気付くと俺は時子さんに電話をかけていた。
「もしもーし! あ、スケジュール届いた?」
「はい。今確認しました!」
「何か、気になる事でもあった?」
「あの、28日の"新宿レフト"の前の日にやるライブ見に行けたりできますか?」
「えっと……ちょっと待ってね? ……マイニング。元ミルレのベースの人のバンドね! でもこれ、ハードコア系のブッキングよ?」
「はい、見に行ってみたいんです」
「前日にレフトに紹介するつもりだったから、ライブ中に行けば見れるわよ?」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「そういえばまひるちゃん見かけに寄らずハードコア好きそうなフレーズかも?」
「あ、はい。好きなんです」
「いいわ! それもツアーの醍醐味! わたしも一緒にみるわ! 折角だから色々経験してね!」
「すいません、ありがとうございます!」
目的はマイニングじゃなかった。そのライブに出ている"ブリーズヘッド"元俺がしていたバンド、何か変わる事は無いと思うが、遂にこの時代の俺に会う事が出来る。
俺はワクワクして眠れなくなった。
♦︎
翌日俺たちはツアーの話で持ちきりだった。
だが、ご飯と買い物? おまえら女子か!
……女子だった。
「なぁなぁ、時子さんのタイムテーブルみた?」
「うんうん、服屋さんや、ご飯屋さんまで書いてあったよね?」
そういえば、サカナもガールズバンドだった。
「楽しみ〜!」
2人ともなんか違う事を楽しみにしている気がするが……まあいいだろう。
その後、販売用のCDとチラシの配分を決め、どうにか打ち合わせは間に合った。
その後、雑談していると雅人が話しかけてきた。
「おまえら、今日暇?」
「うん、空いてるけど、どうしたの?」
「俺、バンド始めたんだけど、昨日急にライブ入ったんだよ、良かったらみに来ないか? もちろんゲストで入れるよ」
「雅人バンド始めたんだ? いつのまに?」
雅人は少し笑って
「おまえらもよく知ってるバンドだよ」
「??なんだろう??」
「そしたら17時から新栄の"ロック"にきてくれ! 出番早いから遅くはならないと思う!」
「うん、行く行く! 雅人の新しいバンド見たいしね!」
雅人はどこか凄く自信があるようだった。
♦︎
学校が終わり、3人で、"ロック"に着いた。
出演バンドを見て驚いた。
「まさか、スターリン?」
スターリンは、まだドラムが雅人だった時に、初めて学生イベントに出た時の高校生のメインバンドだ。
中に入ると、スターリンのメンバーと雅人が話している。
「あー! お久しぶりです!」
ギターのヒロタカさんが話しかけてくれる。
「まひるちゃんに見られるとか緊張するっ!でも、俺たち雅人くんが入って進化したから楽しみにしててよ!」
ヒロタカさんは笑顔でそう言った。
「雅人、スターリンに入ってたんや」
「でも、高校生バンドでは一つ抜けてたバンドだよね!」
ヒロタカさんのギブソンレスポールスタジオ、もう1人は335、ベースはミュージックマン。雅人のパワードラムが入れば……結構いいかもしれない!
俺は色々考えながら1つ目のバンドを見て待っていた。
そして、スターリンのライブが始まる。
えっ? 雅人、ツインペダル?
丁寧で速いカッティングにツインペダルの手数にキレのある2ビート、めちゃめちゃレベルが上がってる!
会場は、ハイクオリティの新星バンドに空気を持って行かれたようだった。
ライブが終わり、俺たちは雅人に駆け寄った。
「雅人〜すっごく良かったよ! ツインペダルにしたんだね!」
「うん、雅人の良さが凄く出てた!」
「このまま、おまえらに負けないぜ?」
久しぶりに4人の笑い声が響いた。
雅人もかなり練習してレベルが上がっただけでなく、スターリンのメンバーもその影響を受けていたんだろう。ヒロタカさん自体、現状に満足せずに吸収して行くタイプだからスターリンはまだまだ進化する。
俺は、スターリンをライバル視する事にした。
「まひるさん、ちょっといいですか?」
ヒロタカさんが堅い表情で言った。
「どうしたんですか?」
「俺たちと、一緒にイベントやらないっすか?」
俺はその時の予想外の言葉にハッとさせられていた。