宣伝しよう②
バンドの宣伝、それは音楽を志した人なら誰でも通る1つの壁なのではないだろうか?
どんなにいい音楽を奏でていても、どんなにステキなルックスをしていても、知られない事にはファンにはなって貰えない。
今回もそんな宣伝の話。
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俺たちはいつもどおり、机にハンバーガーを並べてバンドの話をしている。
今回のディスカッションはかなり白熱した戦いを見せた。
「諸君! ホームページや音源が出来る予定の今、新しい宣伝を考えてみようじゃないか!」
俺はスタートダッシュに今回の会議のテーマを打ち出した。なぜか先生スタイルなのは中学生特有のノリである。
「はーい! まーちゃん先生!」
「はいっ! ひなくん!」
「あたしはバンドグッズを作りたいです!」
「あ、うちもTシャツ作りたい!」
「うーん、中々先立つ物が無いよね。ステッカーや缶バッジなら作れそうだけど、Tシャツは万単位で掛かっちゃうからなぁ」
「そうだね、今は前回のライブのバックで1万5千円くらいあるよ」
「フライヤーと、CD-Rでほとんどなくなっちゃうね」
「まーちゃん、CD-Rのジャケットをステッカーで作ったらえぇんちゃう?」
かなは自信満々にサムズアップした。
それがいいかもしれない。他のグッズはもう少しまとまったお金が出来てからだね。
「そしたら次はフライヤーの配布場所だよね、どうやって配っていこうか? お店なんかは置いてくれるとおもうけど、後はやっぱり手で配らないとダメかも」
「どのくらい刷れるの?」
「1万円以内で考えたら、ネット印刷とかで、4000枚とかかな。イラストはゆきちゃんにたのんでデータには吉田くんがしてくれるみたい」
「そしたらお店に2000、手配りで2000枚くらいライブハウスの前で配ろうよ!」
「それがいいかもしれない。
あとはサイトに載せるライブを押さえていきたいよね」
「サカナさんとツアー行きたいなぁ」
「ひなはやっぱり無理そう?」
「うん、パパがオッケーしてくれないんだよ」
ひなは困った顔で髪の毛を捻ってポテトの袋を折りたたんだ。
「まーちゃんも、ひなも大変やなぁ。こればっかりはうちもなんともできんからなぁ」
「そろそろ、返事しないと迷惑かかっちゃうよね」
「わたしもお兄ちゃんが説得してくれるって言ってたけど、勝算ないよ」
バンド会議は次のライブの話で行き詰まってしまった。
「へんな空気になってしまったなぁ、せや、気分転換に恋バナしよーや!」
かなは表情が明るくなった。
「まーちゃんは雅人とどないなん?」
「いやいや、何にもないよ?」
「そうなんか? いいかんじやと思っててんけどなぁ」
「そういうかなはどうなのよ?」
「うちは、最近気になる人できたで?」
「かな本当? だれだれ?」
ひなもニヤニヤしながら食いついた。
「でもな、付き合ったりは無理やとおもう」
「そうなの? わたしらの知ってる人?」
「ひなもまーちゃんも、知ってるで」
かなは少し赤くなった。
「わかった! 田中さんだ!」
「ちゃうわ! 年上すぎるやろってその人もまあまあ年上やけどなぁ」
「まさかかな……リクソンさん?」
かなは下を向き優しくうなづいた。
「「本当に??」」
俺とひなは前かがみになりかなに迫る。
「だってな、めちゃめちゃカッコええやん」
「かなドM?」
「Mは違うけど、仕事とかにも真剣やし、うちらの事も本気で考えてくれてるやん?」
「確かに、あの姿勢はカッコいいかも」
「あのTシャツとか帽子やメガネもストリート感あってオシャレだし」
「かな。恋だね!」
「そやから、うち、次のレコーディングは、まーちゃんみたいに『やるじゃん』って言われたいんよね」
「まぁ、リクソンさんに褒められるのはなかなか難易度が高そうだよね」
「ほんまに」
ちょっとかながしょんぼりしてしまった。
「かな、ひなには聞かないの?」
「だってひなはまーちゃんが好きやし」
「へ?」
俺ははてなが沢山湧いてきた。
「ちょ、ちょっとかな。なんでいうの?」
ひなの目が泳ぐ。
「ひなって……」
「違うよ!男の子が好きだよ!」
「なんかよくわからへんけど、まーちゃんを男の子として好きなんやて」
俺は取り乱しながらおろついた。
「まーちゃんを彼氏にしたい感じ?」
「よくわからないけどかわいいからOK!」
もしかしたらひなは俺の隠し切れないメンズ的な思考の事を言っているのかもしれないなと思った。
でも、ひなに好きって言われた事が俺的にすごく嬉しかった。ひなとまひるちゃんがイチャイチャしてるのとか目の保養過ぎてヤバいなと、俺の中のおっさんが笑った。
帰り道、いつものようにひなと2人で歩いて帰っていると、さっきの話を気にしているのか、ひながモジモジしていた。
「ねぇ、まーちゃん?」
「ん? どうしたの?」
「さっきの話、あんまり気にしないでね」
「あー、好きって話? ひなが言うなら嬉しいよ?」
「本当? 気持ち悪いとかなってない?」
「うん、ぜーんぜんだよ!」
「よかった、引かれたらどうしようかなって思ってたよ。あ、でも本当に男の子がすきなんだよ?」
俺は、その場にたちどまった。
「あれ? まーちゃん? どうしたの?」
俺はそのまま何も言わずにゴムを咬え、少し伸びてボブになった髪をゴムで後ろにまとめた。
その様子を不思議そうに見ていたひなを抱きしめてそっと唇を重ねた。
「俺も好きだよ。」
俺はこの時一瞬一ノ瀬太郎に戻った様な感覚になっていた。
すぐに我にかえり固まって驚いているひなに笑顔で囁いた。
「どう? ドキッとした?」
ひなの表情が柔らかくなり、ひなは小さく
「した……ありがと」
と漏らした。
ゴムを外して、
「なかなかイケメンだったでしょう?」
と言うとひなはそっと手を繋いでくれた。
不思議と甘い初恋の様な香りが、別れた後も喉の奥にいる様な気がして、幸せという言葉を思い出していた。