宣伝しよう①
「すいません!わ、笑って下さい」
俺たちは、晴天の空の下、公園でイメージ写真を撮っていた。
慣れない一眼レフを向けられ3人とも妙な緊張感で上手く笑えない。俺は出来ると思ってたんだけど、女の子が可愛いく映る微笑んだ感じがどうも出来ないでいた。
なんと言ってもまだ1月、見栄えのためとはいえ、春服は寒い。
「かなさんは大丈夫です!木下さん、小山さんなんか吉本の芸人みたいになってます! スタジオではいい感じだったのに……」
吉田君も緊張よりも撮る時間が無いのか、喋り方がフランクになって来ていた。
「自分は今日、人生で1番アイドルを見直しました。 ルックスはアイドルでもおかしくないんですけどね……もう、その辺りに座って喋ってて下さい」
少し怒ってそうな吉田くんをみて、俺たちは大人しく座った。
「吉田君怒ってるかな?」
「うん、申し訳無いけど怒られても仕方ない」
「なんでや、気軽に笑ったらえぇやん!」
「かなは凄いよねー」
「まぁ、基本的に笑てるからなぁ」
「あはは! たしかに!」
すると吉田君が機材を片付け始めた。
「ちょっと、吉田くん!諦めないで!」
「あ、大丈夫ですよ! みなさんが話している間にいいの撮れたので、これでいきます! もうちょっと早くこうすればよかったですね!」
吉田くんはカメラを向けたら緊張すると思って話してる時を望遠で撮影していた。
なるほど、それなら自然な笑顔かも……。
「あ、今回の材料でサイト来週には出来るんで、楽しみにしてて下さい!」
「吉田くん、ありがとう!」
俺はお礼を言った後、帰る準備をしていたら、吉田くんはまだこっちを見て何やらキョロキョロしている。彼はまだ何かあるのかな?
俺は吉田くんにもう一度挨拶するために近づいた。
「あ、あの……き、木下さん」
「どうしたの?」
「握手してもらって、い、いいですか?」
「ん? いいけど?」
握手をすると、吉田くんは顔を高揚させて、少し黙ってから、
「頑張って下さい」
と言った。
俺は「ありがとう」と言って少し離れてからも大きく手を振って別れた。
帰り道、かなと別れてからひなと話しながら帰っていた。
「今日寒かったねー」
「うん、おかげで表情が悲惨な事になってたよー」
「でも、まーちゃん可愛かったよ」
「いや、ひなの方が可愛いよ」
「まーちゃんってひなの事大好きだよね??」
俺はドキッとしたけど平然と返した、
「うん大好き!」
「ひなも、まーちゃん大好き」
これは百合なのかな?とか、恋愛なのか?とか色々と頭をよぎる。俺は恋愛として好きなんだけど、ひなはどうなんだろう?
俺はひなの頭を撫でた。
「もう〜!まーちゃんは!」
冬の冷たくて澄んだ空気の中、このひなとのやりとりが少しだけ特別に感じた。
後日、吉田くんが作ってくれたサイトのTOPのイメージ写真は、3人の自然な笑顔が凄く可愛く、とても仲が良さそうな凄く良い写真だった。そして、完成後をUPしたSNSでもいくつかメッセージを貰えた。
♦︎
バンドのブログとSNSを始めてから、ひながブロガーと化していた。
ひなは元々世話焼きのマメな性格だからか、毎日何かしらの更新や、投稿をしている。
基本的には日常プラス、練習やライブなどの告知・活動報告の投稿とひなの日記だった。
俺の中身のシビアなおっさん感覚でも俺たちはかなり可愛い。毎日鏡などで慣れてしまったからあんまり気付いてなかったが、俺も相当可愛い。
元の俺の時はイケメンなんて社交的なおばちゃんに一回言われたくらいだったが、まひるちゃんになってからは、ほぼ毎日誰かには可愛いと言われている。
そのせいもあってか、音源を一度も出していないのに気付いたらフォロアーが一万を超えているので、これらを提案してくれた吉田くんには本当に感謝したい。
「まーちゃん、こっちむいてー!」
カシャッ!
「えー! 今のUPするのっ?」
そんな俺は某ファーストフード店で、サンドイッチを食べるところを写真に撮られた。
「こういうナチュラルなまーちゃんが可愛いんだよー」
「うーん、そんなものなのかなー」
「正面で、サンドイッチ食べてるところなんて、デートでもしないと見れないよ?」
「それなら、わたしも!」
カシャッ!
「あーん、いまの無しー! もっかい撮って!」
かなは骨つきチキンにかぶりついている。
どうやら俺たちのやりとりを見て顔を作り出した。
「なぁ、なぁ。 うちもとってーな?」
「「かなはワイルドすぎっ!」」
「2人していわんでもえーやんか!」
その時撮ったかなのチキンにかぶりつく写真はなぜか"いいね!"が沢山ついた。




