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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
第2章 バンド作り
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リクソンさんのスタジオ

週末、俺たちはリクソンさんのスタジオに来ていた。

街の外れの倉庫を改装して作った様なスタジオだった。


「こんなところにスタジオがあるんだね!」


「ここやんな? スタジオって言うか、倉庫みたいなんやけど、、、」


ひなもかなもあまりにもスタジオらしくない外観に驚いていた。


スタジオに着き、中に入ると外見からは想像出来ないくらい綺麗で、カジュアルなご飯屋さんの様な内装にソファー、本棚には少し偏ったマンガが並んでいた。


意外な作りに圧倒されていると、扉からエンジニアのリクソンさんが自宅の様に出てきた。


「よー、お前らきたか!」


「おはようございます!」と三人で挨拶すると、

向かい合ったソファーに案内された。


「今回はさ、本来はレコーディング前には準備しとかなきゃいけない内容を伝えておこうと思って」


「事前の準備ですか?」


「そう、普通に依頼されて来る奴なら、調べてしとけ!って話なんだけど、今回は俺が録らしてくれって言ったわけで、更に言えば初心者なのも理解の上だ。 時間取らせちまってわりぃな」


「いえ、ありがとうございます」

(リクソンさんのスタイルなのかと思ったらそういうわけではないんだな。)


リクソンさんの、意外な対応に正直おどろいていた。


「簡単に言うと、撮り方を選べたり、音を増やしたり、加工出来たりするわけなんだ。まぁもしかしたらギターの子は分かってるかもだけど、一応な?」


「それで、今日は? わたし達はどうしたらいいですか?」


「レコーディングの構成、出来る事なんかを見せとくから、それを元に録る曲を考えて、ついでにプリプロだけ録っておこうかなと。まぁ、プリプロは最悪練習スタジオでも録れるから本来お前らが用意するんだぞ?」


「あ、はい」


確かに本来は、この曲を録りたいのでお願いしますと言ったかんじで、スタジオなどでの音源を持って行くのが普通だ。


「まずは構成、1人づつ録る方法と、全員でいっぺんに録る方法がある。メリットとしては1人づつならミスしたり何回か録った中からいいのを選ぶこともできる。 全員で録る場合は、上手ければ早いのと、空気感みたいなものが出しやすい。ただマイク毎に他の音が混ざるから大きな修正はできない。」


「うちらは別の方がええかもね」

かながそっと呟いた。


「あと、重ね録りはどのくらい理解してる?」


「ギターを1.2に振ったり、同一のギターを弾いて厚みを出したり、あとは、コーラスを自分で行けるとかですかね?」


「流石だね、ギターを重ねられるのは大きなポイント、ただほどほどにしないとライブとの差が酷くなるから、一本でしてるフレーズを1と2に分けて、パッと聞こえるのはある程度同じにしておくのがいいかもね」


「厚みを持たせるイメージでアレンジですね?」


「そう、そんな感じだね」


するとかなが立ち上がって、前のめりに尋ねた。


「べ、ベースはどうしたらいいんですか?」


「そうだね、ベースは……一言で言うなら打ち込みとの差別化だね」


「打ち込みとの差別化ですか?」

かなは少し困った顔をした。


「これは俺のエンジニアとしての持論にもなっちゃうんだけど、ベースはグルーヴやタッチをいかに考えているかが重要になる」


「グルーヴや、タッチ?」


「まぁ、ベースを聞いた感じではクリックでの練習をしっかりやって、アクセントを意識してるのかな? という音をしている」


「うちは、クリックに合わせられるように練習してます」


「それは、もちろん大事なんだけど、正確さで言うと機械である打ち込みには勝てない」


「そう、ですよね。1曲丸々ジャストで弾くのはまだ無理です」


「そう、無理だよね? でも本当はジャストより、曲の感情にあわせたノリが出ている方がいい。これがグルーヴ」


「ちょっと、難しいですね……」


「うーん、例えば曲の中でも疾走感のある曲があるよね?」


「西海岸系の曲とかはそうですね」


「そう、そういう曲っ走り気味な方がいいと思わない? クリックとずれたら話にならないから気味というのが大事なんだけど……」


「そうですよね! 走るほうが疾走感が出て盛り上がります!」


「そう、それが前ノリ、逆が後ノリそういったのはベースが1番出ると思う、あとは一音一音の伸びというか音量の山の形」


「音の山の形?」


「打ち込みのベースより生で弾いた方が滑らかに聴こえるだろ? それがタッチ。その滑らかな感じを自分で考えて作り込むんだよ」


かなは、目からウロコが落ちた様だった。

練習量での正確さ、アクセントなどはもうかなりしっかり出来ている、本当に次どうしたらいいのか?何が違うのかをなやんでいたのだろう。


リクソンさんはその後もひなに、ドラムのキレ、フィルの詰め方などを話した。


「そうしたらプリプロ録ってみるか!」


そういうと、リクソンさんは音量の調整後、俺たちにスタジオで持ち曲を通してやる様に言った。


各場所に建てられたマイクがある以外は普通のスタジオと同じ感じで、特に緊張する事無く曲を通す事ができた。


「ちょっとミックスルームに来てくれる?」


ミックスルームに入ると、楽器の音量のバランスのとれた俺たちの曲を聴かせてくれた。


「すごい、うちらの音源だ!」

かなはワクワクしながら言った。


「コレはプリプロ、君たちがライブで演奏しているのを聞ける様にしただけだ。ライブだと、その場の雰囲気なんかもあるからどちらかと言えばパフォーマンスの方が重要になる」


ちょっと悩んだ様にひなが口を開いた。

「パッと聞いたらいいけど、何度も聴くと細かい所が気になりそう……」


「そう、他のアーティストと、ボタンひとつで聴き比べられちゃうからね、散らばった音をクリアにしたり、細かい部分を修正するのがレコーディングなんだよ」


「全部修正できるんですか?」


「やろうと思えばね。ただ修正すればするほど別物になって行くのと、さっき言った様なグルーヴだったりは元の音源にかなり左右される。後は時間は有限だから音の質をあげる事に時間が取れる事が大事なんだ」


俺たちはリクソンさんの言葉に深く頷き、プリプロを最後まで聴いた。


「今日はコレで終わり! 後は多分それぞれ課題は見えたと思うから、まぁ、頑張って」


リクソンさんはそう言うと、プリプロのCD-Rを三枚くれた。


帰り道、俺たちは話しながら自転車で帰った。スタジオに向かう時の不安はなく、それぞれリクソンさんの言葉を受け止めていた。


「リクソンさん、意外とええ人やったなぁ」


かながボソっと呟いた。


「うん、あたしらをよく見てくれているよね。」


正直プレッシャーをかけてるだけにも見えるリクソンさんのスタイルは、今回を終えて、

音楽に対して真剣に向き合ってるからというのがすごく伝わったと思った。


あの人、本当はコレが目的だったんじゃ無いだろうか?


それからレコーディングまで、猛練習になった事は言うまでも無いと思う。

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