次のステップへ
この日1日だけで色々な変化が起きた。
無理だと思っていた、ホームページの作成、音源の作成、それと次のライブのきっかけが訪れた。
もう、俺は負けたくはないんだ。
このチャンスを元に後2年半以内にまひるちゃんを助けられるようにする。
だが、順調に行くと思っていた計画は思いがけない壁に阻まれる事になった。
木下家での夕飯時、俺はまひるママにライブの話をした。ギターを買う時にも理解を示してくれたママだ、そんなに問題はないだろうと思っていた……のだが。
「春休みに1週間? あなたはなにを考えてるの? そんなのいい訳ないじゃない」
まさかの返答だった。
「いや、でも……」
「でもじゃない! あなたが頑張ってる事はママもちろん知っているわ」
「なら、なんで? チャンスなの!」
「あなた中学生よ? それも女の子が3人だけで、東京や九州なんて、もう少し大きくなるまで近場でどうにかできないの? ママは名古屋以外は認めませんからね」
俺は何も言えなかった。
いや、俺だけじゃない、ひなや、かなも同じ問題があるのではないだろうか?
2人に話すと、案の定ひなは許可が降りなかったみたいだったが、かなは大阪はおばあちゃんの家に泊まれるなど、反対はされてはいない様だった。
その晩、部屋のドアがノックされた。
もしや? と思っていたが、兄だった。
「まひる? あ、起きてたか。」
「どうしたの兄ちゃん?」
「おまえ、ライブ凄かったんだってな?」
「でも、他のバンドが凄すぎたよ」
「俺にちょっとギター教えてくれよ?」
「え?でも、兄ちゃんの方が長いし」
「マッドと対バンするようなバンドのギターに習いたいんだよ」
「ふーん、いいけど」
兄は前に見た時より上手くなっていた。俺はキレの出し方、技なんかを一緒に弾きながら教えた。
2時間くらい経っただろうか?
兄は、何かを確かめた様に口を開いた。
「おまえ、天才なんだと思ってたけど、やっぱり色々考えて弾いてるんだな」
「そりゃあね、やっぱり意識しないといい演奏にはならないから……
「焦ってんだな?」
「うん、チャンスは今しかないと思ってるから」
「わかった。俺も説得してやるよ!」
えっ?
「本当いうとさ、俺も心配だ、母さんの意見に賛成なんだ。 今じゃなくていい、地元ベースで活動して、高校になってからでも遅くないと思ってる」
「うん」
「でも、おまえは今の音も、もっと多くの人に知ってもらいたいんだよな?」
「うん、そうだよ」
「だから俺からも説得するよ。最悪連れ出してやる!」
「本当に?」
「あぁ。死ぬほど怒られるだろうけどな!」
少しだけ希望が射した気がした。
根拠の無い、兄の自信がどこか気持ちを楽にしてくれた。
♦
次の日。
ひなにその事を告げると、"あたしもどうにか説得する!"と意気込んでいた。
でも俺たちはまだまだしなきゃならない事がある、とりあえず出来る事をして行くことにした。
その日は、吉田君を誘い、ホームページの打ち合わせをする事にした。
吉田君は思っている以上に色々考えてくれていた。
「そうですね、僕としては3人のルックスをしっかり見せて、音源や動画なんかをUP出来るようにしたいと思ってます。」
「うんうん」
「後は1つづつでも構わないので、SNS、ブログを作って欲しいです」
「なるほど!」
「そうだね!」
UPの方法や、ファンが知りたいで有ろう情報を纏めてくれ、早速俺たちは以前作っていたメアドを使い、ブログとツイッターを始める。そしてメールをくれていた人にメルマガとして知らせた。
そして、サイト用の素材として、吉田君とスタジオやカフェ、公園などで撮影して行く事になった。
ねぇ、まーちゃん?」
「どうしたのひな?」
「今、進んでる事が全部出来たら、何かすごい事になる気がするんだよね」
「ひな、なるんじゃ無いよ。私たちでしていくんだ。今はまだ、イメージ出来ないかも知れないけど、ホームページを作った事、撮影をした事、レコーディングをした事、すごいバンドとツアーに回った事それぞれが経験になる」
「うん、そうだよね。その経験は今後のあたしたちを成長させてくれてるのかも知れないね」
「うん、きっとそうだよ。ひな、ありがとうね」
そうやって、自分に言い聞かせるように、ひなに伝えるように、俺は呟いた。




