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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
エピローグ
185/185

太郎のその後

病院のベッドから起き上がると、違和感を覚える。


この感じ前にもあったな……


手を見た瞬間に俺はすべてを悟った。


「一ノ瀬さん? 目覚められましたか?」


病室に入る看護師さんが、声をかけてくれた。


「あ、はい。えーっとここは?」

「病院です!」


「あー、それは見ればわかるんですけど……」


俺はそういうと、看護師さんはクスリと笑った。俺は低い自分の声に違和感を感じた。


俺はあの日。

そう、入れ替わった時の翌日に戻っていた。


どこかほっとした様な、それでいて寂しくも思える不思議な気分だった。



翌日、おれは退院する事になり、病院の先生に俺はここに来た経緯を聞く。


「あのー、なんで俺病院で寝てたんですか?」


「全然覚えてないだろうね……」

「というと、やっぱり倒れてたりしたんですか? テレビを見て寝ていたはずなんですけど……」


「うーん、詳しいところまでは聞いていないのだけど、通報があったらしいよ?」

「通報?」


「そう、君の部屋で怪しい声がするからクスリでもしているのではないかって」


「いやいや、そんなはずは……」

「そうだと思うよ? アルコールは出たものの薬物検査も陰性、警察が来た時には君は倒れていただけだったからね……もしかしたら助けてくれたのかもしれないね……」


「結構危なかったんですか?」

「まぁ、無呼吸症候群持ちだと思うし、寝ていた体制が悪く呼吸が出来なくなっていたからあのままだと死んでいたとおもうよ?」


「そうだったんですか……」


俺は通報したという人に心あたりがある。

そっか……君が助けてくれたんだろうな。



それから3カ月の月日が経った。



正直"まひる"のままの方がいい生活を送れていたのかも知れない。


でも、俺はたった3年かもしれないけど、入れ替わる事が出来て良かったと思う。


俺は東京を離れ、"まひる"で活動していた名古屋に引っ越した。


理由は3つ。


1つは音楽の専門学校で非常勤講師として働く為。


2つ目は家賃が安いから。東京と比べると便利さを考慮しても半額以下で住める。


3つ目は……



新しいバンドを始める為だ。



正直35歳という年齢はバンドを1からやるには遅いし、大変だと思う。だけど、エルレガーデンの細美武士はプログラマーを辞めて似たような歳でエルレを駆け出している。


スネイルランプの竹村に至っては24歳でベースを始め、40歳でプロボクサーになるという快挙を成し遂げた。還暦で新人バンドをやっている打首獄門同好会なんてバンドもあるわけで……現役でしていた俺が辞める理由なんてなかった。


正直なにを絶望視していたのだろうとさえ思えてくる。


退院後俺はそんな事を考えながらギターのリハビリとランニングをこなした。ギターが小さく感じるのはもちろん体力も無くなって居たんだと実感する。


"ハンパテ★"のその後はネットなんかで調べたりと気にはしていたがもちろんあの場所に俺が帰る訳じゃない。


そして俺は先月からあるバンドに入る事になった。



「ヤッホー! うぉっ! 太郎さん早いっすねー!」

「いや、おまえがおせーんだよ。すいません、ジュンの奴遅刻しない事が無くて……」


「キャラが立ってていいと思うよ! 俺も負けない様にキャラ立てないとなー」


「おっ? 太郎さん、スキンヘッドとかどうすか? 元ブリーズヘッドだし、スレイヤー感でていかついかんじでいいとおもうなー」


「スキンヘッドかぁ……髭伸ばそうかな……」


そう、俺はドリッパーズに入る事になった。

3ピースだったのと、ジュンさんに恩を返したいだけでなく、まひるでのセッションの時実はこんなザ・バンドマンみたいな空気感に憧れていたのもあって声をかけた。


ナカノさんやタカさんもまたジュンが居なくなった時にも活動できるし、ギター2本は以前から欲しかったみたいだ。


「太郎さん、"ハンパテ★"って知ってます?」

「なんだよナカノー! 彼女自慢かー?」


「ちげーよ!」

「何度も言っでるけど、全然気楽にタメ語でいいよ? 同じメンバーだし! "ハンパテ★"ってあの女の子のバンドでしょ?」


「気悪くしないで欲しいんすけど、全盛期の"まひる"のギターに太郎は似てると思う……す」


俺はそりゃそうだろ! 中身俺なんだしと思ったけど口にはしなかった。


「えー? 俺に似てるって超上手いじゃん! なんてね……ハハ」


「現にまひまひは超上手かったよ……」

「体調不良だったよね?」


「あー、それ公式の話で……」

「そうそう、ナカノっちの彼女も居るしうち"ハンパテ★"と結構仲良くしてるんすよ」


知ってるけど……とは思ったが

「そうなんだ? ……で、そのまひるちゃんは……?」


「ギター弾けなくなったみたいで……」

「泣くなよジュン……あ、こいつそのギターに惚れてたんです……」


「えっ?」

「女の子としてじゃなく、ギタリストとしてですけどね……」


「なるほど……もしかしてそれで俺?」

「ジュンが賛成した理由はそれもあると思うけど……」


やっぱり元に戻ったのか。

タキオさんの時みたいに死んだりしてなくて良かった。でも大変だろうな……。


「でも……いまのまひまひの方がかわいいよねー!」

「完全にギタークイーン感出過ぎて女子力皆無だったからね……」


おいおい、そんな事思われてたのかよ。


「正直、まひまひって美少女だったんだ!って最近気づいたもんなー」


「ハハハ……」


その後俺たちは練習を終えた。


「ほらほら噂をすればー! ヤッホー!」

「あー、ジュンさんやん! その人が新しいギターの人なん?」


「そうそう、スーパーギタリスト太郎だぜ?」

「ジュンさんが言うくらいやからめっちゃ上手そうやなー! 30歳くらい?……でイケメン……ではないなぁ……」


「かな! ちょっとどういういみなん?」

俺はつい突っ込んでしまった。


「いきなり名前呼びで距離詰めてくる感じ……嫌いやないで?」


「ナカノこういうキャラ好きだよね〜」

「ちょっと太郎さん? どういう意味? ジュンとは違うよ!」


「自覚アリと……」


「なぁ、かな? 他は?」

「あー、タピオカ買ってる。うちはちょっとダイエットや」


なるほど……。




「こんにちはー!」



聞き覚えのある声に、俺は少し懐かしく思えた。


「えっ、なんで……」


「あ、初めまして太郎です……」

「あ、まひるです……」


初めて直接会うまひるに、俺は少し照れた。


「ちょっとぉー! まーちゃんにだけなんでそんな感じなん??」


ひなに、サヤ。

みんな元気そうでよかった。


またこうして会えるとは思っていなかっただけに、涙が出そうになり俺はトイレに向かった。


「ちょっと、トイレに……」

「太郎さん、うんこすか?」

「うるせージュン!」


俺はトイレで鏡を見ながら落ち着こうとした。


はぁ……ライブとはまた違う緊張感だな。


顔を洗い外に出るとまひるちゃんが待っていた。


「太郎さん……ですよね……?」

「うん……」

「なんか……恥ずかしいなぁ」


「あぁ、大体知ってるんだよね?」


「知ってますよ? 裸見た事もひなやかなとチューした事も……」


マジかよ……それはヤバいな……。


「でも……大切に思ってくれていた事も知ってます……」


「そっか……あ、あの日。助けてくれたんだろ? ありがとうな……」


そういうと、まひるは少し顔を赤らめ頷いた。


「わたしにはそれくらいしかできなかったから……」


「でもヤク中扱いは酷くね?」

「でもそれは!」


「わかってるよ! どうにかしようとしてくれたんだろ?」


そういうと、まひるはまた顔を赤くした。


「あの……太郎さん?」

「ん? どうした?」


「わたしにギターを教えてくれませんか?」


そういったまひるの目は真っ直ぐに俺を見ていた。


「いいけど、厳しいよ?」

「大丈夫です……早くみんなに追いつきたいから……」


「じゃあ、一緒にお風呂入るところからかなー」

「えーっと、もう一度通報しますね!」

「それはやめてください!」


こうして俺は、また新しい生活に馴染んで、また俺の音楽を奏でていく。


多分人生って思っているより自由なんじゃないだろうか? でも回りが見えなくなっていたり本当にやりたい事や考えたい事が知らず知らずのうちに出来なくて悩んでいる。


それを解決するきっかけは、もしかしたらすぐ近くにあるのかもしれないと思う。


あの日俺に起きた不思議な出来事は、こうして様々な人の人生を変えた。またこれからもたくさんの試練があるかもしれないけれど、考え方1つでこうも変わるのだと心に刻もうと思う。

エピローグです!

長い間ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 最高でした!
[良い点] 一気読みさせて頂きました。 読み終わった瞬間に背中の外側から後頭部にかけてこう、グワーッてなって震えるような名作に久々に出会うことができて幸せです。(語彙力皆無) 素晴らしい作品をあり…
[良い点] 一気読みさせて頂きました。 音楽については全くの無知でしたが、登場人物たちの成長していく姿は読んでいて面白かったです。リアリティ?のある話で、読解力のない私には読み取れないところもあったの…
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