いつも通り
"ブリーズヘッド"では俺が一番上手い。
正直その認識で間違いはないだろう。
"ブリーズヘッド"では……。
だけど、それはこのリハーサルを見て理解した。原田はこのバンドの話が出た時点で"ブリーズヘッド"に見切りをつけて居たんだ。
"新しい世代をサポートしていくべき"
あの日原田はそう言った。
インターは確かに比較的年齢は高いがそれでもまだまだ20代もいる様に見えた。
そういう事だったのか……。
「まひる! まひる?」
「えっ? サヤ?」
「どうした? さっきからボーっとしているのだが?」
「ごめん……インターが凄くて」
「あぁ、そうだな! 僕も正直びっくりしたよ」
「サヤ……あんまり気にしてなさそうだね……」
「何を気にする必要があるんだ?」
「いや、だって……」
「僕たちは出来る事はやって来たんじゃないのか? フラットやリクソン、西田さんも居て何が不安なんだ?」
俺はサヤの言葉に驚く。
「まひる、上手いのが成功するのが音楽シーンならもっと変な音楽ばかりかも? 実力も必要だがそれ以外の部分を僕は"ハンパテ★"に教えてもらったはずなんだけど?」
「ふふっ、そうだね」
「うん、まひるならわかると思う」
サヤが言うと説得力があるな。
正直、サヤが入った時は家を飛び出してまで来無ければ見つけられないほど俺たちは上手い訳ではなかった。
あの時、俺はサヤがむちゃくちゃなだけだと思って居たけど今ならわかる。サヤにとっては飛び出してでも行きたい何かを感じていたんだ。
「サヤ……ありがとう」
「??」
何がだ?と言わんばかりの表情はサヤらしく、積み上げた自信を取り戻すには充分だった。
俺はこの"夢の舞台"で今出来る音を出していく。目の前で見てくれている人に死ぬほど練習したパフォーマンスを見せる。正直それしか出来ない。
俺はバンドマンだから。
♦︎
前日の夜はフラットさんより、いつも以上の打ち合わせがあった。
海外という事もあり目立つ俺たちに配慮してのこともあるのだろう。
ステージまでの流れ、終わった後の移動などなかなか細かい。
ただ、最後にフラットさんは言った。
「終わったら最終日はロンドンで遊んで帰ろう!」
「時間あるんですか?」
「遊びたい盛りを纏める俺にスキは無いぜ?」
ひなとの約束も果たせそうだな。
そう考えるとひなと目が合って嬉しくなった。
次の日。
待機場所に着いた俺は目を疑った。
「ヤッホー!」
「なんで??」
ドリッパーズと、ヒロタカさん、雅人もいる。
「晴れの舞台じゃん? パイセンとしては見ておかないと!」
「金は俺が貸したけどな……」
ナカノさんが半ギレで呟く。
「俺も来たっすよー! 実費で!」
「まぁ、同級生だし?」
ヒロタカさんも雅人も少し照れながら言った。
かなは少し恥ずかしそうにしていた。
「まあまあ、とりあえずみんな"ハンパテ★"を見に来てバッチリ見てるから海外の音楽好きにかましちゃいな!」
「お前の金は俺が貸したけどな」
さてはジュンさんナカノさんにチケット代建て替えて貰ってそのままだな??
「みんなありがとう! 今日は人生で一番調子がいい気がしてる」
「まーちゃんがそんなこと言うの珍しくない?」
「たしかに……ただでさえキレッキレのまひるさんが調子いいとかヤバイっすね!」
みんなの応援を受け取ると、
「それじゃ、そろそろいくね!」
そう言って俺たちはステージに向かう。
「かなっ!」
そう叫んだナカノさんは大きく手を上げサムズアップしてるのがわかる。
かなは手を振ると軽く自分の頬を叩いた。
俺たちはステージに向かい歩き出す。
もう、頭の中はライブでいっぱいだった。
そんな中、だれかが言った。
「これが人生最後のライブだったらどうする?」
聞き覚えのある声に、俺は返した。
「いつも通りやるかな?」