飛び立つ飛行機
ついにノイジーフェスに向かう日が来た。
フェスはもちろんなのだけど、俺には心を踊らせる要素がもう一つある。
初めてのイギリス。
まぁ、音楽を志す者なら一度は行ってみたい場所のはず。
弾丸と聞いていた割には1週間予定を取っている。理由は移動と時差だった。
手配の都合もあり、フィンランド経由で向かう。10時間以上はかかるプランだ。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「おはよー」
「おはよー! 荷物がおおすぎるよー」
無理も無い。
ひなもツアーで荷造りに慣れたとはいえ、手持ちの機材だけでもかなりの量だ。
「これは中々大変だよねー」
そんな中サヤも合流する。
「おはよー、あれ? サヤそれだけ?」
「機材は西田さんたちに任せてる」
まさかの普通にスタジオに行くようなスタイルでサヤも来る。
「でも着替えとかは?」
「入っているよ?」
そういうとサヤは手持ちのバッグを開けて見せる。
ジップロックに密閉されみっちりと入っている。なんだこの収納術。
以前から荷物は少ないと思っていたがそういう事だったのか。てっきり俺はサヤのキャラ的に"ギターと身体一つあればいい"みたいなロックなスタイルかと思っていたが、ただただ収納が神がかっているだけ、むしろ収納術のおばちゃんレベルに細かい工夫がなされていた。
ぜ、全然ロックじゃねぇ……。
「サヤ……なんかイメージ変わったよ……」
「僕はどんなイメージなのか?」
そして、みんなと合流し、空港に向かう。
中部国際空港から飛び立つ予定だ。
よくある見送りみたいなものは無かった。
一大イベントだけど、正直1週間もすれば帰るので基本的にはメールなんかでのメッセージで終わる。
ただ、期間中事務所を守る山野さんは駅までは送りに来てくれた。
飛行機が飛び立つと日本が小さく見える。
家や車が小さくなっていくのをみていると、それぞれの生活がいつも通り流れているんだと感じる。俺はふと言葉を漏らした。
「今まで何をしてきたんだろう……」
それを聞いたのが隣の席に座る西田さんが優しく返事をする。
「どうしたんだい?」
「西田さん……こうやって小さく見える街を見ていると今までの事が小さく感じて……」
「なるほどね。 ただ、この街でそれぞれの生活を送る人の中に君のライブを見に来てくれる人が居るんだ。 それって凄い事だとおもわないか?」
そうか、いつもステージから見える一人一人にプライベートと言うオリジナルのストーリーがある。その中で何かを感じ、どこかで知ってライブに来てくれているんだ。
「僕は、君たちが音楽に費やしてきた時間や情熱は無駄じゃないと思う。現にこうしてその音楽に掛けた一人のおっさんの人生を動かしているじゃ無いか?」
俺は本当に恵まれて居たんだと感じた。
あの日この人が荒削りな俺たちに声をかけてくれなければきっとここには居なかったのだろうと。
そして、それぞれのメンバーやスタッフ。誰か欠けてもそれは同じ事なんだと思う。
これから始まるイベントはそういう線の上にあるものなのだと思った。




