復活のR
それからスタジオはもちろん、定期的に情報共有の場を作る型でノイジーフェスに向けて進みだす。
PAはリクソンさんが専属し、ライブを作る。
ほぼスタート時から見てくれているリクソンさんは引き出し方をよく知っている。
だが……
「おまえらはめちゃくちゃ上手くなったよ? それは認める。 だけどなぁ……」
まさに通常運転。いや前より厳しくなっているんじゃないか??
「照明やバミりで立ち位置探ってるとフェスだと厳しいぞ! ステージ意識しろ、ステージ! 目線も観客にはバレるぞ!」
「はい!」
もう、この当たりの強さで怯む様なメンバーは居ない。みんなリクソンさんがいいものを作ろうと必死なのが分かっている。
「なあ、水野。PAなんで俺にしたんだ? アレクのままの方が良かったんじゃないのか?」
「まぁ、テクリハもあるしアレクなら間違いないわな」
「それならなんで? 正直フェスでの経験は桁違いだぞ?」
「だろうな……だけどおまえ以上に"ハンパテ★"の音楽を知っている奴なんていないだろ?
アレクに背景を感じさせる音が作れるのか? ましてや通訳を通してだ」
「背景か……おまえ意外とその辺変わってないな」
「情景が浮かぶ音、人生そのものをぶつけた様な音。短いかもしれないけど、それがいい音楽というそこは譲る気はない」
「OK。それなら俺に任せておまえは他に専念しろよ。最高に仕上げてやるよ」
「リクソンの癖に言うじゃねーか……頼んだぞ……」
フラットさんはそう呟き肩を叩いた。
肝心のライブはと言うと、ブッキングではあるが500名は入る大きな箱を埋め、そこそこなの売れた大御所インディーズバンドより頭一つ抜けたライブを繰り広げている。
だが、まだまだ、対バンバンドから学ぶ事は沢山ある。テクニックや音作り、知名度、パフォーマンス、大枠で勝てだとしてもそれぞれが地位を築く為に費やしてきたものを全て勝つ事なんて出来ない。細かくダメな部分を見つけ直す、いい部分は取り入れていく。
まさに己のセンスとの戦いだ。
そんな中対バンのバンドが声をかけてくる。
「ちょっとなんなの? 俺たちより一回りくらい年下だよね?」
「そ、そうかもしれないですね……」
「ちょっと、どんな練習してんのさ!」
「いやいや、お兄さんのバンドもMCでの繋ぎからのキレのあるバッキング凄かったです!」
「お兄さん、かぁ。 ちょっと名前だけでも覚えてくれよな!」
「あ、もちろん知ってますよ! ただギターの音が印象的だったのと、なんて呼んだらいいのかわからなくて……」
「あ、ありがとう。まぁ、おじさんじゃなくて良かったよ! 多分そうやってどんどんいい物を取り入れていくからこのクオリティが出せるようになっているんだろうな……俺たちも頑張らないとな……」
謙遜じゃない。限られたライブで少しでも良くしていかないといけないんだ。
俺たちの音楽はこれで……。
「なぁ、まーちゃんスケジュールリストまたみてるん?」
「うん……」
「まぁ、あっという間に本番来るんやろなぁ」
「そうだね……」
かなはしみじみしたように俺に言った。
「でも、なんとかな……いやなんとかせないかんねんなぁ、うちら」
「うん、なんとかしよう!」
そうは言ったものの俺はノイジーフェスの後の一つのスケジュールが気になっていた。
"9月11日 ミュージックライブ出演"
そう、運命の日のライブスケジュールがこのスケジュールシートにはっきりと記載されている。
この日、俺は家で音楽番組を見ていて、気がついたらこのまひるになって居たんだ。
と言う事はつまりは、この日が俺のキーポイントになっていると言う事。あの日俺は音楽番組を見て、現役高校生のバンドが出演していた。
"あれは俺たち?"
いや、それなら入るまで期間が空いていたサヤはともかく、まひるやひな、かなにはどこか見覚えが無いとおかしい。それに"ハンパテ★"と言う名前ではなかった筈なんだ。
という事は、俺が"ハンパテ★"を作った世界とはちがうのか? もしそうなら"ハンパテ★"を作った事であの時とは何かしらの状況が変わっているんじゃないのか?
あの時聞いた音楽はクオリティは高かったが俺の感性に影響を与えるような音ではなかった。
そう、もし今の"ハンパテ★"をあの頃の俺が聞いていたなら……いや、俺の進化系のギターの音に確実に影響を受けているはずだ。
いくら腐っていたとしてもそのはずなんだ。
俺は少しもやもやしながら、ノイジーフェス直前の最後のライブを迎える事になった。




