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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
メジャーに向けて
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長谷先生

12月に入ると、俺たちは西田さんから集まる様に声を掛けられた。


文化祭を大成功を収めた俺たちの新曲3曲含め全6曲のミニアルバム発売の日程が本格的に進んだのだろう。


少し緊張しながらシーサイドの事務所に入ると、フラットさんと少し気まずい唯さんが居た。


「おはようございます!」

「おっ! 来たね」


「はい、アルバムの件ですよね?」

「そうだね。今回、このアルバムの結果次第で、あるメジャー系レーベルに話を聞いてもらえる事になった」


いつもの優しい顔ではなく真剣な西田さんに、自分の背筋が伸びるのを感じた。


「そしたら……次回、流通を受け持ってくれるんですか?」


「うーん、上手く行けばね……」

「何枚売らなければいけないんですか?」


「いや、正直CDの売り上げはあくまで知名度を測る程度でしか考えられては居ないんだ」


フラットさんが割込むように口をひらいた。

「そうでしょうね、メジャーはプロモーション力が違いますし、音源の利益は自分の所で出してから売れればいいと思っているでしょうし」


「そしたら何が?」

「正直、"ハンパテ"は意外な程簡単にレーベルはOKしてくれたんだが……」


「あー、むしろシーサイドの方の心配されたという訳ですか? 要はライブやメディアでお金作らないといけなくなるから。ですよね?」

フラットさんは西田さんに聞いた。


「ああ、現状ハンパテを打ち出しギャラがしっかり取れる仕組みやハンパテのブランディングを精査していく仕組みがあるのかを心配されたんだ」


「なるほど、それで広告屋がきてるわけね?」


「フラット君!」

「いいんです、広告屋ですから……」


フラットさんは代理店が嫌いなのかな?

少なくともあんまり良くは思って居なさそうだな。


「フラットさん、唯さんはデザイナーなんやで?」

「知ってる、こないだ請求書みて知ったけど、元白夜堂のササミんとこの奴だろ?」


「うちのササミと何か?」

「君に言っても仕方ないけど、個人的に日本のデザインとか以外の中抜きスタイルが嫌いなんだよね」


「わ、私は売り上げに繋げる正当な対価だと思っています」


「ただの大企業とのコネクションでしょ? 広報がアホだと思って、高いタレント見せてさ?」


フラットさんは悪態ついて闘争心をむき出しにしている。


「フラット君! ちょっと喧嘩はやめてくれないか? 唯君にはこれから必要だと思ってきて貰っているんだ」


「まぁ、日本でやる以上、現状彼女が必要なのは同意。ただそのせいで売り込み辛くなるのがめんどくさいだけですわ」


フラットさんはバツが悪そうにソファに深く座った。


状況的には最悪。

問題は、どうやってシーサイドに売り上げを作りメジャーになるか?なのだが……。


このままで、いいのだろうか?


俺たちは、何を言えばいいのかわからない気まずい空気に、ただただ耐えるだけだった。



♦︎



結局、喧嘩腰のフラットさんによって、この日は話が纏まらず、事務所を出る事となる。


「あーもうっ!うちらはどうしたらええんや!」


この日ばかりはかなも状況が上手く掴めていないせいもあってかなも何も言えなかった様だ。


「うちらは、みんなで売れたいだけやのに……」


俺たちはただ、お世話になった人達と売れたいだけで、こんな険悪な雰囲気になるなんて思ってはいなかった。


帰り道、4人でいつものハンバーガー屋さんに行き、席でなんとなく過ごすことにする。


別に話す事があるわけじゃない。

ただ、今は1人になるのが嫌なだけなのは、達観した様なサヤも同じだろう。


そのせいか、目の前のポテトが減るだけで特に核心に触れる話は出ない。


すると、

「部活をサボってハンバーガー屋さんとはいただけないねぇ」


少し低いダンディな声が後ろから聞こえる。


「長谷先生!?」


「なんだぁ? 驚いた様な顔して、今日は事務所の打ち合わせだと永田から聞いているのだが?」


長谷先生は特に怒るわけでもなく、至って普通のトーンで俺たちに問いかけた。


「あはは、いや、事務所の話は終わったっていうか……ねぇ、かな?」


「なんでうちに振るねん! 話が拗れて帰って来たって普通に言うたらええやん!」


「だって……」


「なんだ? 木下達は印税ででも事務所ともめているのかな?」


長谷先生は少し微笑んで言う。


すると、

「長谷孝典(たかのり)!……さん」

サヤは驚いた様に叫んだ。


「あー、君が木下のとこのギターの子?」


「あれ? サヤは知ってるの?」


サヤはコクリと頷くと、

「ファンク、フュージョンのベーシスト。専門学校やNHKのバックバンドとかしてる人」


「君、私を知っているとは、マニアックだねぇ」


マジかよ、俺も知らなかったという事は知る人ぞ知るといった所なのか?


「その子も知ってくれているなら話は早い。今日はバンドの先輩として話を聞こうかな?」


そう言うと長谷先生はフィッシュバーガーのセットを俺たちのテーブルに置くと、椅子を持って来て座った。


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