異変
それから怒涛の文化祭ライブがスタートした。
フラットさんが手配してくれたライブは6つ、文化祭シーズンのスケジュールとしてはかなりタイトなスケジュールになっている。
だが、今までに無いくらい"ハンパテ"のメンバーは落ち着いていた。
「なんか、やっとライブ出来るって感じやなぁ……」
「うん……この2週間、なんていうか地獄だったよねー」
そう、俺たちはフラットさんによって学校以外の時間はビデオを撮りながら打ち合わせと練習をノンストップで繰り返し、自分たちのイメージと、演奏とのギャップを埋めていた。
気の休まるタイミングがほぼなく、今までがどれだけ気楽にしていたかを思い知った。
「おーっ! 美少女達〜みんな集まってるな!」
いつもどおりテンションが高いのか低いのかよくわからない感じでフラットさんが現れた。
「あっ、おはようこざいます」
「あれ? これからライブなのにみんな落ち着いちゃってどうしたんだい?」
フラットさんは落ち着いた雰囲気の俺たちを見ると、不思議そうに笑う。
「あはは、フラットさんよう言うわ、あれだけ練習したらうちらもう失敗する気せぇへんで」
するとフラットさんはニヤリと笑うと、
「ふふん、プロの顔になってきたんじゃない??」と、あたかも当たり前の様に言った。
そして、俺たちは待合室から、 暗いバックステージを抜けると、明るいキャンバスに沢山の大学生たちが騒いでいる様にみえる。
俺はマイクの前に立つと冷たい、ギターの弦の感触がやけに生々しく感じた。
ドクン
歓声を前に俺は心臓の鼓動が鳴るのをかんじる。
「ハンパテだー!」
気付くと俺は叫けびギターをかき鳴らした。
今までにないバンドの完成度とクオリティ、ここまで視界が開けた事はあっただろうか?
ひなのドラムのリズム、かなのベース、相変わらず挑戦的なサヤのギター。
DTMの正確な音すらはっきりと聞こえる。
適度に歪んだ芯のある俺のギターと声が真っ直ぐに飛び出していくのを感じた。
これが、俺たちの音か……
なんだよこれ、世界中のどんなバンドよりもいいんじゃないのか??
ドクンッ
鼓動が大きくなる。
ライブが絶頂を迎え、俺の意識は真っ白になっていった。
♦︎
ホーホ、ホッホー。
気がつくと、俺は白いベッドの上にいた。
山鳩の鳴き声が窓の外から小さく聞こえる。
「えっと……ライブは?」
ガチャ。
「まーちゃん、起きたの?」
ひなは特に驚いた様子もなく、そう言った。
「あれ? ひな、ライブは?」
「ん? 終わったよ? これで全部の文化祭大成功だったよね!」
「あ、うん……」
「ライブ終わったら、まーちゃん急に眠いって言ってここで寝るんだもん。まぁ、珍しく疲れてたんだねー」
いつのまに?6本も終わったのか?
俺は記憶を辿るも、上手く思い出せないでいる。
「少し微熱があるみたいだから、もう少しやすんでいたら?」
「あ……うん」
「あたしは、またみんなのところにもどるね?」
「わかった……ありがと」
ひなはニコっと笑うと部屋を後にした。
そうか……途中から覚えていないが、ライブは上手く終わったんだな。
少しぼんやりしている俺はひなの言葉に甘える事にした。
あんまり実感が無いのが少し残念にかんじた。
♦︎
そして、夕方を過ぎもう一度ひなが呼びに来る。
何故かひなは少しニヤニヤしている。
「ひな? ごめんね、片付けとか……」
「うーん、たまにはいいんじゃない? みんな気にして無いから大丈夫だよ」
「うん、ごめん。おかげでゆっくり休めたよ……」
「ふふふ、寝てなかったんでしょ? 今から打ち上げだけど大丈夫?」
「うん、大丈夫!」
そう言うと、俺の手をとり打ち上げのお店に向かう。今日はどうやら小さいお店を貸切でするみたいだ。
入口の前で少し待つ様に言われ、ひながドアから中を覗いた。
「まーちゃん来たよ!」
打ち上げなのになんだか変な感じかするのだが……。
俺は扉から入ると全てを理解した。




