ミニアルバムに向けて
あの日を境に俺たちはフラットさんとのミニアルバム作りが始まった。
それから3週間近くが経ち、今日もスタジオに向かう。最近の俺たちはフラットさんの"なぜ?"をひたすら考え、曲を作り続け徐々に曲が完成し始めた。
「フラットさん具体的に言ってくれたらええのに……」
フラットさんは俺たちの音に口出しはせずに、尋ねるだけ。その都度確認と考察を行い曲にする。
正直かなりしんどい。
本当にこれで、今まで以上の曲になるんだろうか?
「かな、あたしはフラットさんのやり方でいいと思うよ?」
「えー、結局うちらが考えてるだけちゃう?」
「多分だけど……あたしらが考えるのが大事なんじゃかいかな? だって、みんな結構弾けるようになってスケールや手グセなんかですぐ纏まる様になったよね?」
「まぁ、フレーズは迷わへんくなったなぁ」
「でもそれって……」
「あっ! なんでそのフレーズなんかあんまり考えてへん!」
「うん、流れがいいとか変わった感じになるとか、纏まるとか……そんな感じで進めちゃってだと思う……」
たしかに、なぜこの音を入れるのか? という際理論やスケールは考えているけど感覚的な物がほとんどだ。
「でも、ジョニーは"感覚で自由"にって言ってたんやけどなぁ……」
そうかなが言うと、俺は口を挟んた。
「わたしが思うに、ジョニーの"感覚で自由"って言うのは理論に囚われるな!って意味じゃないかな? 現にフラットさんは理由を理論で返すと絶対"なぜ?その理論なのか?"って聞いてくる訳だし……」
「なるほどなぁ……」
俺たちはなんとなくフラットさんの意図がみんなの考えの中で一致した様に感じた。
「あれ〜? やっぱりみんな早いね〜」
スタジオの10分前にフラットさんは現れた。
"おはようございます!"
挨拶を交わすと、フラットさんは
「今日はいつもよりやる気マンマンなんじゃない? そんな君たちに朗報だよ!」
「何かあるんですか?」
フラットさんはニヤリと笑うと
「新曲3曲解禁しよう!」
"おぉ〜"
「でも、どこで解禁するんですか?」
「えっ? 決まってるじゃん! 文化祭だよ文化祭!」
もう10月も中旬に差し掛かる。
文化祭の準備はもう学校では始まっているけど……
「申請、軽音部でしかしてないですよ……?」
俺たちの学校では、部外者は出る事が出来ない。自動的にサヤ抜きでする事になってしまう。
だが、フラットさんは不思議そうに言った。
「ん? 何言ってんの? 大学の文化祭、色々オファーだしといたから結構あるよ?」
だ、大学?
確かにインディーズだし違和感はないけど、そんな話……。
「今回の狙いは、新曲の反応を見る! 今まで曲づくりで考えた事にどんな反応されるのか? 色々な趣味を持つ学生を使ってヒヤリングしよう!」
♦︎
こうして俺たちは大学の文化祭の準備に取り掛かった。
「かなぁ〜。大学の文化祭って大学生が沢山いるんだよね?」
ひなは少し、憂鬱な顔を浮かべた。
「そら大学やからなぁ、ほぼ大学生やとおもうで?」
今まで、普通にライブしてきていたからあまり気にはしていなかったが、ひなは不安な部分があるのかも知れないな。
俺はもちろん大学生と言われても今までと変わらないのだが……。
そんな中、スマホをいじっていたサヤが呟いた。
「心配はいらない。僕らはジョニーにだって認められたバンド……」
「そうかも知れないけど……」
「ひなは、何か不安な事でもあるの?」
俺は少し間を置いて聞いた。
「まーちゃんやサヤは大丈夫だと思うし、かなももうすごいベーシストだけど……」
「ひなもだよ?」
「えっ?」
「ひなは雅人のドラムどう思ってる?」
ひなは少し苦笑いを浮かべ
「雅人は昔からだけど、今はもう……凄すぎて……」
「今、雅人はひなを一番ライバルだと思っている……雅人に聞いてみてもいいよ?」
「そんな事……」
「ほんまやで? ついでにタカさんもやで?」
「かな、それ……」
「うん、今ドリッパーズは活動休止だけどね……」
「そっかぁ……タカさんがガッカリしないように頑張らないとだね」
ひなは、背中を押された様な、安堵の表情の中に自信が生まれた様な目をみせた。
ジュンさんは今何をしているのだろうか?
俺はアメリカに行ったと聞くジュンさんが気になる。
ジュンさん、今何をしているんだろう?




