新しいスタイル
「おはようございます!」
「おはよう。今日はやけに元気がいいね!」
「西田さん、うちらの最高傑作ができたんですよ〜」
「おっ? それは楽しみだねぇ」
簡単に挨拶をすませると、ひなはパソコンを用意する。もちろん先日出来たばかりのこの曲だ。
曲が始まると西田さんは驚いたような顔をし
た。
「重い……プリプロとは思えない重さだ」
メンバーの顔が緩む。
そして今回の曲の見せ場、ギターのサビからのピックタッピングのソロ……。
「なるほど……サヤちゃんが入った事を押し出したわけだ」
そう言うと、西田さんは電話を取り出し山野さんに連絡を入れた。
「山野、やっぱりこないだの打ち合わせ通り進めてくれないか?」
電話口では山野さんの声はするもよく聞こえなかった。
「あぁ、そうだ。 構わないからやってくれ」
一体何の事だろうか?
気になりながらも、俺たちはドキドキした。
電話を切ると、西田さんは呟いた。
「今回は、ミニアルバムで行こう」
「ミニアルバム? なんでまた?」
「申し訳ないのだが、予算の都合だ……」
成る程、だけど前よりは予算は取れるはずなんじゃないのか?
「今回はプロモーションに力を入れようと思う。もちろん、メジャーレーベルに認めさせる為だ」
そう言った西田さんはいつもの優しい顔ではなく、覚悟を決めた様だった。
「その為には、後6曲……こちらで用意した人達と作って欲しい」
どういう事だ?
こちらで用意した?
俺たちだけで作るのではないのか?
「正直、シーサイドはメジャーで出すには足りない物が多い。エンジニア、広告、企画は手配してきたが、音の面ではかなりアーティスト任せになっていた」
なるほど……。
「今回の曲。とてもいいとは思うのだが、曲の良さを引き出し、アルバムとして完成させる為に1つ賭けに出ようと思う」
西田さんの言ったプランは、俺たちを納得させた。
レコーディングに、リクソンさんのチームのメンバーを加え、音楽プロデューサーとして山野さんが交渉に行った人を加える。
リクソンさん一人でもあのクオリティなのに、チーム? そういえばリクソンはレコーディングチームを組んでいると言った。
そのチームを……。
俺たちは音源を渡し、返事を待つこととなった。
♦︎
次の週、俺たちが学校から帰ろうとしていると、校門で二人の男の影をみつける。
片方はリクソンさん。
もう片方はメンバーの人なのか?
「よう……」
「リクソンさん!」
「サヤはいないのか?」
「サヤは学校が違うから……」
「そうか……あ、こいつうちのチームのセッティングを担当する奴……俺の後輩だ」
彼はユージと言って、普段はレコーディングエンジニアをしている。
リクソンさん曰く、楽器のセッティングのエキスパートで、アシスタントとして入ってもらうらしい。
ただ、リクソンさんは複雑な顔をした。
「リクソンさん?」
「あぁ、西田さんからきいてる?」
「音楽プロデューサーの件ですか?」
「そう、そして俺の元相方だ……」
そう言ったリクソンさんは今までに無いくらいに苦い顔をした。
「そいつが今日、イギリスから帰ってくる」
イギリス……リクソンさんの元相方で音楽プロデューサー、西田さんは一体どんな人物を呼び寄せたんだろうか?