自分だけの葛藤
唯さんとの後の話は頭には入って来なかった。
俺だってある程度は理解していた。
だけど、
"消滅する"
この言葉の意味は死ぬと同じ意味だと思う。
俺は、一通り梓さんへの想いを言った唯さんには何も言えないまま、その場所をあとにした。
♦︎
帰りのハイエースの中、俺は運命を受け入れる為なのか、ただ現実逃避したいだけなのか、手紙の内容をもう一度考えた。
"その人物を超えなくてはいけない"
転生前の俺の事か?
それなら技術、知名度、バンドとしてもとっくに超えている。
タキオだって広告賞では梓さんを超え、大賞を取っている。
タキオは条件を満たしていたはずなのだけど、タキオは死んだ。
ただ、タキオは戻れない事に絶望し、自殺たのか、本当にたまたま事故だったったやのか……あの時の激務を考えると、後者としか考えられない。
となると俺は……まひるちゃんに身体をかえしてTHE END……というわけか?
元々バンドを始めた時はロックスターとして27歳で死んでる予定だったからそれを考えるといまで37……充分……だろ?
まひるちゃんに身体を返すところまでは最初から予想していたが俺だけ、もしくは両方死ぬ終わりは考えてなかった。
「なぁ、まーちゃんずっと外見てるけどなんかあったんか? ジョニーに恋したとか?」
「まひる、本当に?」
「それはないよ……」
「でも、めっちゃテンション低いやん?」
「ごめん、ちょっと疲れた……」
「なんや、珍しいなぁ。バンドガールは疲れ見せたらあかんで?」
「かな、ちょっと休ませてあげようよ。まーちゃんだってたまにはそういう日あるよ……」
「せやなぁ……まぁ、あとは帰るだけやからなぁ。ごめんなぁ」
「いいよ、かな。ありがと」
俺のなかで、心の中のモヤモヤと、ちゃんと終わるという想いが葛藤していた。
俺は何のためにやってきたんだろう?
正直聖人ではない。死ぬなら返しても意味ないよな……
なんとなく、俺の中の何かが崩れた気がした。
♦︎
その後の夏休みは"ハンパテ★"にとって変化が訪れる。
サヤはお父さんの力添えも有り名古屋に引っ越しすることになり、そして、正式に"ハンパテ★"のメンバーとなった。
サヤのお父さんは、元々スタジオミュージシャン。ギターでご飯を食べていくのなら高校さえ出れば引っ越しくらい問題ないとの事だった。
「西田さん! 僕、バンドがしたいです!」
「ぼ、僕は構わないけど……頑張ってね」
サヤは西田さんに直談判した。
どこかで聞いた事があるのは触れないでおこう。
フェスの時の事を考えると、いや、考えなくてもサヤが入ってくれるのはありがたい。
その後の夏休みのライブでも、音圧だけじゃなく、このキャラ自体も大きく貢献した。
ただ、この事は俺自身のモヤモヤを更に広げてしまう事にこの時は気づかなかった。
♦︎
だけど、サマーフェスティバルに出た事は俺たちを大きく変えた。
別に俺は、死ぬ事がわかり、やる気を無くしていたわけじゃない、どちらかといえば忘れようと必死に練習や活動に打ち込んでいた。
そのせいもあってか、ライブは軒並み成功を収め、CDやグッズも今まで以上にうれた。
そして、夏休みの終盤を迎えるころには、様々な音楽雑誌で、サマーフェスティバルのレポートが掲載され、
そしてサヤは……
"ハンパテ★"のギターヒーローとしてブレイクし始めた。
そう、俺ではなくサヤが。




