吹っ切れた
受け取った手紙はアルファベットが見えた。
「ノエル、ありがとう……」
手紙にはこう記されていた。
"兄貴は知っている"
単純に俺でも分かる英語だった。
『知っている』?なんのことだ?
俺たちはスタジオに着き、一度合わせた。
いつも通りの安定したクオリティ。アレンジもしっかりと詰められている。
「何が違うんだろう……」
ジョニーと演奏していたかなとサヤは明らかに雰囲気が違う。それどころか、ひなとかなのグルーヴが噛み合っていない様に感じた。
「やっぱり、まーちゃん居ると安心してまうなぁ……」
「やっぱりまーちゃんとしたく無いんじゃん」
ひなはかなを睨む。
「ひな、それはちゃうで。でも、うちら結構弾ける様になったやん? サヤさんは会った時から上手いけど……」
「だからジョニーみたいなトップアーティストとやりたかったんでしょ?」
「ごめん、正直絶対違うとは言われへん……」
「やっぱり……」
なんだなんだ? かなは何か思う所があるのか? それと、ひなはやっぱりかなに疑問を抱いている。
「かな、何か思う所があるんだよね?」
「うちもよくわからへんけど……ずっとまーちゃんの背中を追いかけてきたって言うんかな? それがやっぱりつよいんよな」
「どういう事? わたしに影響うけてる?」
「まーちゃんの完璧なイメージがうちも完璧って思うって言うか……」
少し空気が重くなって来た時、サヤはギターをならした。
「サヤ?」
「まひる、ノエルの手紙……」
「うん、ジョニーは分かってるみたいな内容だったよ……わたしは嫌いだけど、もしかしたら何かあるのかもね」
「そう……」
そう言うとサヤはクリーントーンで、ギターを鳴らした。
どこか懐かしいコードの進行。
なんだっけこの進行?
考えていた矢先、ひながドラムを叩きだした。
(初めてコピーした"ねごと"のカロンだ)
すかさず俺も入るとかなも入った。
以前コピーした時とは比べ物にならないクオリティ。サヤも合わせようとしたけど曲を知らない様だった。
かなも、ひなもそこまで覚えていないんだろう。だけど不思議とそれぞれがしたい事がわかる。
俺たちはこんなに成長していたんだ!
演奏が終わると、サヤは驚いた様に言った。
「この曲何??」
「"ハンパテ★"が初めてコピーした曲だよ」
「懐かしいなぁ! あの時のまーちゃん、なんでこんなに弾けるんやろ? って思ってたけど、こんな感覚やったんやなぁ〜」
「うんうん! かなの気持ちすごくわかる! あの時必死だったもん」
そっか。 もう、みんなここまできてるんだ。
ジョニーの言う"知っている"は俺が天才ではないと言う事なのかもしれない。
「ねぇ、今の感覚で私たちの曲もう一度アレンジしない? かなや、ひな。サヤの思う音。自由にだしてみてよ?」
「えっ? でもイメージが……」
「3人はもう自分の音、分かってるよ!」
それから俺たちはアレンジをし直した。
深夜を過ぎ、もう一度まとまった頃には朝日が顔を出していた。
♦︎
フェス当日。空は青く澄んでいて、絶好のライブ日和となった。
少し肌寒い中、湿度が心地いい。
若干寝不足の俺たちには丁度いいかも知れない。
テントに着くと色々なアーティストと挨拶を交わしたり、出店のご飯を持って来てくれたりして、お昼過ぎの出番が来るのを待った。
「ライブ……お客さんくるかなぁ……」
ひなが小さく呟いて不安な顔をみせる。
「きっと大丈夫……」
自信なんて微塵もなかったけど、俺はどこか清々しい気分でいる。
やれる事はやった。
ただ、それだけだったけど今までに無い自信が生まれていた。
ライブ直前ステージから覗く。
3000人くらいだろうか?2〜3割程度入っている。
「殆ど埋まってないよ……」
「何言うてんねん、過去最高やんか!」
そもそも埋まるなんて思ってなんかいない。
かなの言う通り、過去最高人数を誇りに思おう。
「さぁ、いくよ!」
俺たちはステージに向かった。
4000人近く、さっきよりは大分増えたかな? 充分! 最高のステージにしよう!
ひながSEを流し、ステージに立つ。
お昼過ぎの夏の熱気が火をつけた。