分裂
俺は初めてギターでメンタルをやられた。
今までも壁にあたり挫折しそうになった事は何度もあったけれども、俺1人だけ外されるなんて事は無かった。
ジョニーが物事をはっきり言うタイプなのは知っていた。弟との不仲説や他のアーティストへの暴言の数々。だけどその分、嘘はつかないタイプなだけに信頼度は高い。
"おまえのギターは要らない"
そんなジョニーがはっきりと言ったんだ。
「……なるほどね、それでまひるちゃんは落ち込んでるわけだ?」
ホテルで俺とひなは西田さんに事の内容を話した。
「でも……おかしいなぁ、ジョニーがそんな感じで言うかな?」
「それはどういう事なんですか?」
「いやぁね、僕の知ってるジョニーは、オブラートに包むタイプじゃないんだよね」
確かにそうだ。
ニュースやインタビューしか見たことはないけど、はっきり言って理由を言わないとは考えられない。
「酷すぎて通訳の人が敢えて言わなかったんじゃないかな?」
「なるほど……そうですね……」
となると、本当はしっかり理由を……。
通訳の人が伝えるのをためらう位の内容ってどんな感じなんだろうか?
「次会うとき、僕が聞いてあげようか?」
「……えっ? 西田さん英語話せたんですか?」
「あれれ? これでも海外で活動していた事もあるんだけどなぁ……」
西田さんがバンドしていたのは知っていたけど、まさか海外でライブする位だったとは思っていなかった。
俺はふと、時子さんの言葉を思い出す。
"周りに興味が無い"本当にそうだな……。
話していると、かなとサヤがホテルに着いた様だった。
「まーちゃん、ごめんな?」
「いいよ、ジョニーどうだった?」
「ギターもだけど、歌がほんまにヤバい! あれはほんまにコールドプランやで!」
興奮しているかなとは別に、サヤはいつも通りの雰囲気ではなす。
「ジョニー、色々考えてる。僕も負けないようにしないと……」
「そっか……サヤが言うならすごいんだろうね……」
ふと、ひなが口を開いた。
「かな、ほんとありえないんだけど」
ひなの目が、少し怖かった。
「なんや? なんでひなが怒るん?」
「まーちゃんを要らないって言った人とよくニコニコとスタジオにいけるよね?」
「ちょっと待って、コールドプランやで? うちらにもメリットはあるやん?」
かなの言う通り、正直バンドを考えたら、俺はその方がいいと思う。かなはそれに全力で答えているだけだ。
ただ、ひなの気持ちも嬉しいのだけど。
「ちょっと、ちょっと」
西田さんが間に入った。
「両方の気持ちはわかるが、お互いバンドを思っての事なんだ。君たちが本当にしないといけないのは何かな?」
「う、うちらのライブ……です……でもひなが……」
「ね、ひなちゃんもわかっているよね?」
「う、うぅ」
「わかっているよね?」
「はい……」
西田さんは、落ち着いて諭した。
「ジョニーには明日僕が話して訳をきいてみるから、2人はライブの事を考えてくれよ」
♦︎
ホテルでは部屋が分かれていた。
俺はひなと同じ部屋に入ると、ひなは言った。
「まーちゃん、あたし間違ってる?」
「……」
ひなは俺の事を考えて行動してくれた。
あの時、ひなまで行っていたら耐えられなかったかも知れない。
「間違ってない」
「だよね?」
「でも……かなも間違ってない」
「……うん……」
「今日はあれで良かったんだよ……」
そう言うとひなは黙った。
久しぶりにひなと一緒のベッドに入ると、俺はひなのてを握った。
「……まーちゃん?」
「ひな……ありがと……」
「うん……」
頭ではわかっているけど、ひなの行動は嬉しかった。バンドとしてではなく、個人として。
俺はひなを抱きしめてそっとキスをした。
「フフッ……サヤにはしたの?」
「なんでサヤ? してないよ?」
「なんでもない」
そう言うと、俺たちは眠った。
♦︎
次の朝、俺は西田さんとひなをつれノエルに会いに行った。
「ハロー! グッドモーニング!」
西田さんは流暢に英語で話し、通訳してくれた。
「来たね! 通訳たすかるよ!」
「ノエル、ところで何の用だったの?」
「君たちは、僕のスペシャルバンドに入ってくれないか? 糞兄貴より凄い所を見せてやろうぜ?」
どう考えても兄弟ゲンカに巻き込まれるフラグがたっていた。