まひるは要らない
リハーサルは普段ライブハウスでしているより長い。
だけど、それには理由があった。
組み立てたばかりのステージセットに、解放的な空間、音が外に逃げてしまい反響が無い。野外や、ストリートの経験が無い俺たちには未知のステージだった。
モニターも初めてのイヤホン。
かなは特に合わせ辛そうにしているな。
ステージもかなり広くアイコンタクトも取りづらい環境でいかにいつも通りにやるか……
やっと環境に慣れてきたくらいでリハーサルは終わった。
「ほんまごめん、いつもと全然違ってめちゃめちゃやりづらいわ……」
「大丈夫! かな! 最後の方は全然問題なかったよ!」
ひなは元からヘッドホンで問題はない。
サヤと俺は経験値が違う、事実上かなだけは完全未経験だから仕方ない。
リハーサルの後、ジョニーが声をかけてくれる。通訳は必須なのだけど……。
「お疲れ様! 小学生なのに凄いね、天才だよ! と言ってます」
「あ、あのーうちら高校生なんやけど……」
「oh!」
「すまない、日本人は若く見えるね! だそうです」
「なるほど……」
ジョニーが、通訳に囁くと、通訳は少し驚いてジョニーに返す。ジョニーはその問いに"YES"と答えた。
「ジョニーは1人だけ前夜祭から外れて欲しいと言ってます」
かなの表情が曇る。
「う、そんなん……うちやんか……」
「率直に言うと、キラーの彼女、要らないんだそうで……」
えっ? 俺?
なんで?
「ま、まーちゃん?」
「ちょっと待ってください! なんでですか?」
「彼女が入るならこの話は無かった事にして欲しいそうです」
そこまで?
「ちょ、ちょっと理由を教えて下さい!」
ジョニーはサヤの肩に手をおくと、
「この子とはやりたいから、抜けてくれと……」
ヤベぇ、マジで泣きそう。
理由も教えて貰えなかったが、俺は了承した。
ジョニーが3人に練習しないか? と声をかけ、かなとひなが俺に声をかける。
「まーちゃん、いいんか?」
「あたし、まーちゃん入らないなら抜ける」
「こんなチャンス二度と無いから行ってきて……」
少し話した後、サヤとかなを送りだした。
ひなは意地でも行かないといい、側に残った。
「ひな、いきなよ」
「嫌!」
「ごめん、ちょっと1人にして欲しい」
「無理! まーちゃんをほっとけないよ」
「バンドとしても、プレイヤーとしても価値があるんだ……」
「それは、わかってるけど……あたしはまーちゃんの側にいたい……」
俺は待合のテントで"マスたん"を抱え下を向いて泣いた。
ひなも側で何も言わなかった。
何がいけなかったんだろうか?
♦︎
数時間後、誰かが俺の肩を叩く。
「Hey girl?」
振り向くとジョニー?
雰囲気が違うな……ノエル?
コールドプランのノエル・マーティンだ。
ノエルは、ジョニーの弟のギター。
「コンニチワ!」
えっ、日本語しゃべれるのか?
「あ、こんにちは……」
「ワタシノクソアニキガスイマセン」
「あ、いいんです……」
「ニホンゴツウジテマスカ? アシタノmorning、マタココ二キテクダサイ」
「これ以上ダメージ受けたく無いんだけど……」
「damage? ダイジョーブ!」
なんなんだよ……マジでコールドプランが嫌いになりそうだわ……。
「オッケー、オッケー」
俺はそう言うと、ノエルは笑顔でてを振り、さって行った。
もう、マジでフェスから帰りたい。