サヤの変化
振り向いた女の子は、俺の顔を見て言った。
「や、ヤッホー……」
「…………ぷっ……あはは、それジュンさんの真似?」
そう言うと女の子は少し恥ずかしそうにする。
「……変?」
「いいんじゃない? ……サヤ……」
そう、この金髪の女の子はサヤだった。
いや、ちゃんと喋れるように……なった……のか?
ただ、どこかサヤには変わろうとしている意思が見えていた。
「や、やっぱり僕が必要なんだな!」
「おかえり……」
「……うん」
マンガの台詞を切り取った様な喋り方は、もしかしたらサヤなりの話す方法なのかもしれない。
レンタルの機材を見に、倉庫に着くと、ひなとかなはもう着いていた。
「まーちゃん、その子誰なん?」
「サヤだよ?」
「ほんまに?」
「かなひな、待たせたな!」
「……なんか、キャラ変わってへん?」
「……」
おいおい、あんまり突っ込むなよ。
「本当にサヤさん?」
「おう! ひな、よろしくな!」
一体何で勉強したんだよ。
物凄く間に違和感があるのは、まだ慣れていないんだろう。
「ふふ、サヤさん面白いね!」
だが、変なだけではなかった。
サヤは、プロミュージシャンに囲まれて育ったせいか、俺が苦手なドラムなんかもかなり詳しかった。
ひながドラムを選ぶと、
「僕が思うに、それじゃダメだ!」
「えっ、、」
「ひなは、ピッコロに近いスネアだから、こっちの方がいい……戦略的にね」
「あ、うん……」
ただ、なんか変だった。
サヤは……そんなフラットな音の出るキャビネットにするのか?
「サヤはそれなの?」
「うん……あ、そう! このアンプベッドだからね!」
そう言って持って来ていたアンプベッドは、"LINE6"アンプシュミレーター搭載のアンプだ。
要は色々なアンプの音を再現できる。
徹底的にサポートに回る気か?
「敵は強い、果たしてこの武器で勝てるのだろうか?」
もしかして、サヤってオタク気質?
まぁギターオタクではありそうだから……。
機材を選び終えると、俺たちは例のごとくハンバーガー屋さんに入る事にした。
「ほんま、サヤさんの変化には驚いたわー」
「うん、本当に……何があったの?」
そんな事を聞いても、コミュ症のサヤが答えられる訳ないだろ?
案の定、サヤは黙ってしまう。
「かな、ひな……」
と俺がフォローを入れようとした時、
「まひるに、いらないって言われた」
「ちょっとサヤ……」
「えっ、まーちゃん……」
「そ、それは、学校サボってまでって事でさー」
必死で弁解しようとすると、サヤは続けた。
「初めて、わたしのギターがいらないって……でも、一緒にやりたくて……」
サヤは涙をこぼした。
そんなに、思い悩んでいたのか……
「もうええで! サヤさん、一緒にできるやん!」
「そうだよー、だから泣かないで?」
「ほら、まーちゃんも謝る!」
「わ、わたし? ご、ごめんねサヤ……」
サヤはコクリと頷いた。
フェスまで後1週間。
サヤが戻り、久しぶりに、誰にも負ける気がしない最高の編成での"ハンパテ★"になった。
ただ、今のサヤは何処かで見た事ある気がするんだよな……。
♦︎
フェス3日前……
4人になった"ハンパテ★"は、西田さんと前日と当日の最終確認を行う。
「…………という流れで移動していく」
(はい!)
「気になってしまうとは思うけど、裏で演奏しているアーティストは気にしないようにしよう」
「気にしてもしゃーないですよね!」
「前夜祭は、自由にしてもらっていい。まぁ、時子達も楽しみにしてるみたいだから連絡しておいてもいいんじゃないか?」
フェスでは、アーティストの交流を考え前夜祭がある場合がある。
自由に動けるインディーズ主体のフェスの前夜祭とは少し違う見たいなのだが、元々交流のある"サカナ"が居るのは心強かった。
ミーティングの後、すぐに時子さんに連絡を取った。
「お久しぶりです!」
「お久しぶり! 西田さんに聞いたよ! 今回サヤちゃん入れて4人なんだって?」
「はい、そうなんです! 西田さんと連絡取ってるんですね!」
「そりゃ、第2のお父さんみたいなものだからとるわよ? "ハンパテ★"はかなちゃんがアキに連絡してるくらい? 全然連絡くれないのよ!」
「ごめんなさい……」
「いつでも連絡してよね? あなた達は妹みたいなものなんだから!」
「ありがとうございます!」
俺は少しホッとした。
「そういえば、Cステージでの前夜祭の事でしょ?」
「はい、西田さんからきいてました?」
「私が西田パパに言ったのよ! まひるちゃんの好きそうなアーティストも来るし!」
「まさか……アンダー……」
「そう! やっぱり好きでしょ?」
「本当ですか?」
時子さんは少しため息をつくと、
「まひるちゃん、少しは出るイベントにも興味を持ちなさい?」
「ご、ごめんなさい……」
「イベントはチャンスの塊みたいなものなのよ?」
時子さんの雰囲気が、少し懐かしく感じた。
「まぁ、そっちはかなちゃんが得意そうだけどね! あなたは職人過ぎるのよ……」
「はい……かなは色々知り合いも増えてるみたいですね……」
「色々話したい事はあるけど、今からミーティングなの、また前夜祭でね!」
そう言うと、時子さんは電話を切った。
イベントへの興味……か。
俺は前夜祭でその事を思い知る事になった。




