これから
街中で流れる俺のギターの音。
その時俺は初めて自分がアーティストと感じた瞬間だった。
足を止める人、止めないひと色々いる中でリフが始まった瞬間には誰もが画面にふりむいた様な気がした。
"どうも〜"ハンパテ★です! わたし達は今回サマーフェスティバルにださせて……"
唯さんがディレクションした、たった15秒のメッセージ入りの動画は俺たちを知ってもらうには充分だと思う。
これが主要都市で流れていると思うと心が踊らずにはいられなかった。
「うちらも凄い感じになってきたなぁ……サマーフェスってやっぱり凄いやん?」
「そだねー、大きなフェスだからねー」
「あのさ、まーちゃん……」
かなは少し落ち着いた口調になる。
「どうしたの?」
「フェスの時、またサヤさんにサポートしてもらわへん?」
正直、その方がいいと思っていた。
だけど……
「えっ? サヤさん……」
俺は薄々感じていたのだけど、多分ひなはサヤが苦手だと思う。
「わたしはいいけど……」
俺はひなを見ると、眉が下がっている。
「ひなもそうおもわへん?」
「う、うん……」
「うち、昨日去年のサマーフェスの動画見てたんやけど正直厳しそうなんよな」
それぞれのジャンルのトップクラス、さらには海外の世界トップクラスのアーティストも出演する。
「でも、いまはDTMが有るし……」
「ひな……でも分かってるやろ?」
「うん……」
DTMの同期演奏で音の厚みは大分変わった。
それでもサヤを入れた時はにはまだまだ遠く及ばないと思う。
ひなは了承したものの明らかに口数は減った。
♦︎
帰り道、ひなと2人になると俺は聞いてみた。
「ひなはさぁ、やっぱりサヤの事苦手?」
「……うん」
少し下を向き頷く。
「でもね、分かってるよ。凄いギタリストなのも、悪い人じゃないのも……」
「そっか……。ひなはさぁ、サヤのどんなところが苦手? まぁ、変わった人だからわからなくも無いけどね」
「なんか、何考えてるかわからない所?」
「サヤが? 本当に?」
「うん……まーちゃんは?」
「わたしは、サヤはわかりやすいと思うけどなぁ」
「そうなの?」
「あの子、凄い事考えるのはギターだけで、多分人への接し方や感情の出し方がわからないだけなんだよ」
「そんな、ちょっとダメな子じゃん……」
「ギター持って無いとヤバいかも?」
「ふふふ、なにそれ?」
「でも、凄く素直だから今度来る時はなしてみたら? 意外と好きになるかも」
「ま、まーちゃんがいうなら?」
ひなは、少し笑うと嫌悪感が薄れている様だった。
俺はひなと別れて家に帰る。サヤの事を西田さんに電話で話すと快く了承してくれた。
次はサヤか……意外と連絡しないからなぁ。
電話をかけると直ぐにでた。
「まひる。どうしたの?」
「サヤ? 久しぶり〜」
「連絡ないから……」
連絡ないから何なんだ!?
「あのね、7月末にサマーフェスティバルに出るんだけど、サヤあいてる?」
「うん。行こうと思ってた」
「見に?」
「毎年行ってる」
相変わらず片言の日本語だなぁ。
「うーん、またサポートしてくれない?」
「"ハンパテ★"の?」
「うん、もちろんだよ?」
「わかった、行く」
「よかった、それじゃまた連絡するね」
「うん、待ってて」
待ってて? ちょっとまて。
「サヤ、今から来る気じゃないよね?」
「違うの? 練習した方が……」
「まだ1カ月以上あるから!」
「でも練習……」
「まだ、大丈夫!」
「わかった」
サヤを説得し、了承してくれた旨をラインで2人に伝えた。
次の日、久しぶりに部活に顔を出し、家に帰る。時間はもう夕ご飯の時間になっていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おかえりー」
!?
やっぱりサヤは規格外だった。
「サヤ、なんでいるの?」
「待ってたら入れてくれた」
「サヤちゃん、玄関の前でギター抱えて座ってたのよ〜」
座ってたのよ〜じゃねーよ!
「サヤ、学校は?」
「連絡した」
連絡したじゃなくて……。
俺は前回の事を思い出し、サヤに近づき匂いを嗅ぐ……そういえば意外と無臭なんだった。
「サヤ、いつお風呂に入った?」
「……まだ3日しか経ってない」
3日前じゃねーか。
「いや、お風呂に入ろう……」
俺はそう言ってサヤを風呂に押し込んだ。
いきなりの出来事に戸惑ってしまったが、俺は一つの機会と思ってサヤに色々聞いてみようと思った。




