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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
メジャーに向けて
140/185

裏の世界

サマーフェスティバル。

国内ではトップクラスの音楽系フェスティバル。


邦楽でな有名どころのアーティストから、海外のアーティストまで出てくるフェス。


この日俺たちは西田さんと、サマーフェスティバルの打ち合わせに来ていた。


「打診で来ていた話だと、2ndステージという事と、物販の場所やギャラの交渉をさせていただきたいというものなんだけど……」


「ギャラもらえるんですか?」

「基本的には、交通宿泊費プラス相場になるかな? まぁ、うちの場合交通宿泊費の方が高くなりそうだけどね……ただ、フェスの場合はギャラを貰えても……」


「今のところ交通費か5万でしてますからね……」

「うちの場合は出る事のメリットの方が大きいからね!」


インディーズバンドのギャラは基本的には交通費のみ〜30万程度。イベントをするならまぁ15万出せば大体有名なインディーズは呼べる。


フェスとなるとまた違うと西田さんは言った。


「まぁ、大手の主催だからギャラを少額貰って、協賛金を払わされるのがオチだろうなぁ」


「協賛金? なんですかそれ?」

「まぁ、広告なんかでガッツリ推すから広告費を負担しろ! というやつだ」


なるほど、ベースとして協賛金が発生するわけか……人気のあるアーティストは気にならないくらいのギャラをもらい、下火のアーティストはさらに広告費をつんでゴリ押しする……。


俺たちみたいなアーティストは、協賛金の方が高くなってしまうという事らしい。


「広告の件だけど、山野から聞いたよ。タキオくんの後継者になれそうな方だね! フェスに間に合って良かった……」


唯さんは西田さんにも受けは良かったようだ。



♦︎



しばらくして、サマーフェスティバルの運営の方が2名着いた。


貸し会議室を抑えての打ち合わせ。

社会人の経験というか、こういった交渉とか打ち合わせに慣れていない俺は内心ドキドキしている。


「こんにちは、サマーフェスティバルでオーガナイザーをしています萩野(はぎの)です」


「同じく、広報の藤本(ふじもと)です」


俺たちも挨拶を交わすと、椅子にすわる。

早速萩野さんは話しはじめた。


「早速なんですけど、西田社長はある程度流れはご存知ですよね?」


「大型フェスに出るアーティストはうちにも何組か居ますので……ただ……」


「何か気になる点でもございますか?」

「なんでまたサマーフェスさんが"ハンパテ★"に?」


「理由は単純です、総合的に話題性の枠で声を掛けさせて頂きました」


「話題性……この子らには申し訳ないが、現状そこまで話題になっているとは……」


「いえ、まだまだ知名度は弱いですが各大手レーベルや事務所、メディアが注目しているのは間違いないです」


「えーっ! そんな注目してはるん?」

「はい。ルックス、演奏力、ブランディング。今はまだ認知度が低いですが……」


「宣伝力……ですか……」

「失礼とは思いますが、足りないのはそこだけというのがメジャーの見解です」


「ちょっと待って! 西田さんはしっかり宣伝してくれてはるよ?」


「そうですね、シーサイドも有名なレーベルですからアマチュアと比べたら驚かれると思います」


「そんな……」


萩野さんは、少し息を飲んだ。

「簡潔に言うと、"ハンパテ★"の出演にお金を出す企業がいるんです……」


「お金……それはどんな企業でしょうか?」

「白夜堂です。なので、アーティストの移籍とかにはならないと思いますけど」


西田さんはため息をつくと

「なるほど、宣伝に協力しろと……」

「はい」

「ルックスしか見てないわけだ?」


「……」


西田さんの問いに萩野さんは黙った。


「あんまりよくわからなかったんですけどー、ちょっといいですか?」

ひなが小さく声をだした。


「はい……」

「ひな、どうしたの?」

「なんで、西田さんはちょっと怒ったの?」


俺も今のやりとりで、俺たちのデメリットがよくわからなかった。ただ、西田さんの言った『ルックスしかみてない』という言葉に引っかかりを覚えた。


「その事だけど、こいつが話してくれるよ」

「……」

「なぁ? 萩野さん?」


西田さんは珍しく怒っている様子で感情が抑えられない様子だった。


「はい……簡単に言うと、白夜堂は"ハンパテ★"を世間的に売り出すインフルエンサーにしたいわけなんですけど」


「うちは風邪ひきたくはないで?」


おい、かな。今はボケなくていい。


「いえ、インフルエンサーは流行りを生み出す人です」


「それってええ事なんちゃうん?」

「かなちゃん、"ハンパテ★"でしていきたい事はなにかな?」


「自分たちのええ音楽を作って、みんな楽しめるようにしたい……」

「そうやって今まで頑張ってきただろう? 萩野さんが言ってるのは、流行らせたいブランドや商品を売る広告塔にしたいってことだよ、"ハンパテ★"をバンドとしてみていない……ただ……」


西田さんは何かいいかけると、

「西田社長、運営方針と違うのはわかります、ただチャンスなのもご理解頂いているとは思っています」


「わーってるよ。あー!!」

西田さんは頭をかき乱した。


「要は協賛金もいらねぇんだろ? 広告もメジャーに負けないくらいでる。"ハンパテ★"は知名度があがるし、版権はうちだから別にすぐには損はない。わかってんだよ……俺のエゴだ」


俺は少しだけ、西田さんが葛藤している理由が分かった。


一つは、アングラタレントとして利用される事。これは正直メジャーを目指していれば結局は近い形になるとは思う。


もう一つは、シーサイドの力では守りきれない規模になってしまう事。


事務所としての機能はあるもののイメージ面で完全にマウントを取られてしまう……。


それだけ額が違うのだろう。

だけど、音楽を売り出すチャンスではないだろうか?


「西田社長、ただ1つだけ訂正させてください。白夜堂にとっては先行投資的な感じだと思います」


「先行投資? そしたら数千万規模の金を優先的に使える様にするだけのために?」


「はい、"ハンパテ★"だけという訳ではないので……」


「マジかよ……」

「使いたい企業や媒体が出ればすぐ利益になりますからね。ただ、他にも目的はあるかもしれないですけど……」


「まぁ、とりあえずはでるしかないって事だろ?」


まぁ、白夜堂ならササミさんの事務所も提携しているみたいだし、問題ないだろう。

それにしても最後の一言が気になるけど。


その後、ステージや販促物などの期日などを打ち合わせし纏めた。


帰り際に西田さんは「取り乱してすまない」どだけ言った。


この時俺たちは、サマーフェスティバルの凄さをまだ、たいして理解してはいなかった。

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