後継者さがし
ササミさんの言葉に、俺はドキッとした。
彼はデザイナーで、もちろん広告大賞を取ったタキオのデザインは見た事が有るだろう。
だけど、"似ている"とはっきり言った。
「タキオさんと似ているんですか?」
「好きなフォントや、レイアウトの仕方なんかも……彼女もデザイナーなら知っている方も多いとは思いますが……」
ササミさんは少し悲しい顔になる。
「なるほど……でも予算面的に難しいんですよね?」
「はい……事務所の相場としてもあのクオリティでは2倍にはなります」
すると、かなが口を開いた。
「ササミさん! 弟子みたいな人はおらへんのですか?」
「弟子? ですか?」
「そう、同じクオリティはもちろん欲しいんですけど、うちらはいまは近い事出来る人もおらへんのです」
「……」
ササミさんは少し黙ると言った。
「いま、以前、梓のアシスタントしていた人がうちに居ます、デザイナーとしてはまだ3年くらいでアートディレクターは未経験なのですが……」
山野さんは
「それはちょっと……」
と言いかけ止める。
「彼女なら、近い事は出来るかも知れません、うちとしても安全に実績を積ませたいので……」
「費用感はどうなりますか?」
「事務所構えているので、同じは流石に難しいですが……1.2倍くらいを目安にでしたら協力出来ると思います」
「なるほど……」
「今、居ますのでちょっと呼びましょうか?」
アシスタントとはいえ、タキオの前世のアシスタント。費用的にもこれ以上は居ないんじゃないか?
ササミさんが呼んだ女性は若くかわいい感じの人だった。少し照れながら名刺を渡すと、ササミさんが説明した。
彼女は唯さん。ポートフォリオを片手に、25歳のモノトーンにコーディネートされた彼女は見た目とは裏腹にはっきり言った。
「天才とはいえ17歳です、しっかり引き継がせていただきますので、私にお任せ頂けないでしょうか?」
自信満々な彼女はどこかタキオの匂いを感じる雰囲気で、初仕事とは思えない雰囲気だった。
「山野さん、どうですか?」
「ポートフォリオを見ても、充分だと思う、予算面はどうにかしよう……」
「ありがとうございます! きっとご満足頂けると思います!」
簡単に契約の話をして、俺たちは事務所を後にした。
帰りの新幹線で、山野さんは言った。
「まひるさん、あんなにタキオくんに近い人、どうやって見つけたんだ?」
「あ、なんとなくタキオさんのデザインに似てると思ったので……」
「なるほど……やっぱりまひるちゃんもアーティストだねぇ」
実際デザインなんてほとんどわからない。
ただ、タキオの裏を知っていただけなんだけど……世の中に出ているマルチな人は実はみんな転生したんじゃないか?と思った。
♦︎
それから俺たちはコンスタントにライブを重ね、フェスも近づいてくる。
タキオが亡くなった時、シーサイドに送って貰ったタキオのデータと資料を唯さんに送ってもらいフェスに向けての準備に踏み出した。
あれからもう、9カ月。
印税やイベントでもある程度の収入が出来ている俺は少し安心していた。
だからこそ、しっかりイベントに対応していきたいと思った……。