次の一歩
Gマガや掲示板を見た後、俺は今までに無い不安を抱えていた。
正直ギターで誰にも負けない自信と自負はある。これは自信を持って言える、練習は転生前も含め色々な物を犠牲にしてしてきている。
だけど、いざ日本最高クラスと並んで戦えるかと言われたら飲みの席くらいでしか「勝てる」とは謳えなかった。
誰よりも知っている自信がある分、明確な基準がある物以外が存在している事も知っていた。
源さんがいい例だよな、源さんより綺麗に正確に弾けるか?と言われたらもちろんYESだ。だけど源さんよりいいギターかと言われたら口が裂けてもYESとは言えない。
いいフレーズで言えばジュンさんや時子さんにですら自信なんてないんだ。
数日後、俺の心配とは裏腹に西田さんから連絡がくる。
「まひるちゃん、Gマガから特集の取材が来てるみたいだけどどうする?」
「やっぱりランキングのせいですか?」
「そうだね、僕はまひるちゃんのギターを世に出すチャンスだと思うけど?」
「そうですね、ギターならなんでも答えますよ!」
「了解、わかった。僕はどこに出しても恥ずかしく無いと思っているから」
今まで、シーサイドにはここまでギター推しのバンドは居なかったと思う。それでも、俺を信じてくれている西田さんの言葉は俺を勇気づけた。
数日後、Gマガよりメールが届く。
スタジオの日程と、あらかじめ用意された質問リスト。ほとんどはアドリブじゃないのか……。
俺は、"ハンパテ★"の代表曲とも言えるファストファッションのフレーズを楽譜とタブ譜に起こした。
♦︎
取材当日、取材には山野さんが付いて来てくれる。
「今日は山野さんなんですね……」
「まひるさん、今日は西田は予定が入っていてね、不安かい?」
「大丈夫です!」
少し心細くはなったが、山野さんはメディアのエキスパート、ついてきてくれただけでも俺は少し安心した。
スタジオに入ると機材をセッティングしておく様に言われ、俺はケトナーと、エフェクターを繋げて待った。
しばらくして、編集の人がくる。
「今日はお時間頂きありがとうございます!」
「あ、はい! 大丈夫です!」
「えっとねー、楽譜見たんだけど……ギターキッズ弾けるかな……」
「ま、まぁ練習すれば……手がデカくないと弾けないフレーズとかはないので頑張れば大丈夫かなと……」
「あはは、物理的に無理はGマガあるあるだよね! まひるちゃんと言えば正確な早弾きとタッピングだと思うけど、何か特殊な練習方法とかはあるのかな?」
「えっとクリックに合わせてひたすら綺麗になる様に意識して弾く! ですかね? ピッキング速くなりたいなら1弦トレーニングからだと思いますけど……」
「意外と基本に忠実な練習法?」
「ベースアップするにはそれ以外無いと思いますよ!」
そのあとも音のこだわりやギターについて等、担当の人はあらかじめの質問に対しての答えにフォローする形で質問を重ねた。
「いやー、思っていたより上手いです! 次号特集になると思いますので、楽しみにしていて下さい!」
Gマガの担当者はそういうと、また編集での細かな部分はメールでやり取りする旨を伝え帰った。
帰り道少し山野さんと話す。
「今日はどうだった?」
「緊張しましたけど、山野さん来てくれたので助かりました」
「良かった、ところでなんだけど……」
山野さんは少し声が小さくなる。
「フェス……の件ですか?」
「いや、今言うのもなんだけどタキオくんの引き継ぎの件なんだけど……」
山野さんはすごく気を使いながら俺の方に視線を向ける。
「あ……そろそろ必要ですよね」
「あぁ、今は外注して修正しているだけだからね……なんだかんだでデザインを統括してくれる人が必要だと思うんだ」
以前は山野さんが外注を回してしてくれていたみたいだけど、タキオが入っていた時に、ブランディングの必要性を感じた様だった。
「そうですよね、フェスも近くなると次の見せ方なんかも必要になってきますね」
「まぁ、"サカナ"の時は外注で対応していたから僕と進めてもいいのだけど、"ハンパテ★"はうちのレーベルのカラーじゃないから担当を付けたほうがいいと思ってる」
「タキオさんを継げる人かぁ……なかなか居ないですよね……」
俺はふと、タキオの後を継げそうな人を思いつく。
「山野さん、ちょっと声かけてみてもいいですか?」
「心あたりがあるのかい?」
「費用面で都合つくかわからないですけど」
「まぁ、一度会ってみるくらいなら問題無いから打ち合わせ出来そうなら話してみてよ」
確かに話すだけなら問題ないだろう。
家に帰ったおれは早速パソコンを開くとすぐに目星はついた。
タキオのノウハウと限りなく近い物を持っていそうな人……それは……
◯用語補足
・TAB譜
五線譜を弦楽器用に落とし込んだもの。
主にギター、ベース用。