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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
メジャーに向けて
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ツアー最終決戦

映像が終わり一度ブラックアウトする。

今回は俺のギターリフのみからのスタート!


暗闇の中、うっすら見える手元を確認するとタッピングのフレーズを弾く。1フレーズ終わる頃に3人も同時に入った。


音圧が会場に響く。

モニターの音とは別に少し遅れた反響音が微かに聞こえ、その音も歓声で消えていくのがわかる。


「初めての皆さん! "ハンパテ★"です!」

「今日はいつもより沢山おるなぁ、どんどんいくでー!」


初めの2曲は重さを生かした曲、続いてレスポンスを求める2曲をしてホールを煽る!


盛り上がった所で、メンバー紹介を始めた。

かなと、ひなの紹介が終わり俺がソロを弾く。


「今日は、ギターが1人サポートにきてくれてます!」

「ガンウィズの猫ちゃんに噛み付く四人目のネズミ! サヤー!」


味のあるブルーズ風のソロからのバッキングリフ。サヤは弾きながら俺を見た。


その瞬間意図を理解する。

サヤがピックスクラッチをしたあと俺はギターではいる。


交互にリフを弾き、その変わるスパンが短くなるとユニゾン。


そのまま次の曲のイントロへ移行し繋げた。

こうして俺たちは最後に、あの仙台で作った曲弾く。


サヤが入り、完成したと言っていいだろう。

過去最高のクオリティとパフォーマンスで俺たちのステージは幕を閉じた。


前回とは違い俺たちがはけた後も、歓声がなりやまない事が俺たちに自信をつけた。


さぁ、次は"にこにこジョン"、先輩の番です。



♦︎



後ろに抜けてホール内に向かう。

会場はすでに熱気で包まれていた。


DJの音楽と共に映像と曲が始まる。

デジタルとハードコア、メタルの融合。海外ではエンターシカリなど、すでにデジタルと融合しているバンドはいるかもしれない。


だがガンウィズの音楽は日本のサウンドにしっかりと落とし込まれつつその良さをも持っている。


この完成度はヤバい。


音楽には勝ち負けはないけど、演奏力で言えば総合的に互角、速さやテク、コードの入れ方は俺やサヤが勝っていると思う。


ひなとかなはなんだかんだで好みの問題だとは思う。


ただ、一番違うのは圧倒的な知名度。

誰もが知ってる曲、ルックス、空気感。

こればかりはどうしようもない。



だけど……その事を一番感じて来たのは他でもないガンウィズの方だろう。

俺たちなんかよりずっと前から感じて来た筈だ。



その時、俺はタキオの言葉を思い出した。


"ブランディング"


クオリティじゃない、他のバンドの個性との差別化が必要。これはタキオが一緒にやる様になってずっと言ってる事だ。


あいつは既にこの場所を意識していたんだ。


「まひるさん、安心して下さい」

「タキオ?」


俺の考えが読めたのか?


「もう、8割位はブランディング出来てます、後はこれをメンバーがどれだけ理解して、意識出来るか? です」


そういったタキオは、どこか寂しそうな表情を浮かべた。


「8割出来ているって……?」

「"ハンパテ★"の売りは何ですか?」


「ハイクオリティなサウンドかな?」

「いえ、"女子中学生"強いて言うならアイドルクラスの子がハイクオリティなところです」


「そんな事は最初から分かっているよ」

「なんとなくじゃダメなんです」


タキオは強く言う。

「ガンウィズが、ハードコアブーム世代なのはご存知ですよね?」


「もちろん、知ってるけど」

「当時下手でしたか? 個性が無かったですか?」


「そんな事はな……」

「そうゆう事なんです……だから彼らはその世代を隠し、猫を被り、新しい音楽を取り入れ印象に残るキャラ作りをした」


タキオは更に悲しい顔をする。

「まひるさんが思っている程、"女子中学生というだけ"はメリットじゃない。それに合わせて女子中学生感をアピールし、それぞれキャラを印象付けなければならないんです」


そういった目線の先には、猫のマークの垂れ幕のとなりに可愛く子供っぽい"ハンパテ★"の垂れ幕があった。


タキオが進めようとしていたのは、そこだったのか。ゆきちゃんにイラストを描かせたのも、吉田くんにオフ写真をとらせたのも、別に2人に気を使っての事じゃない。


中学生らしさや雰囲気を出すために"利用"してたんだ。


「"ハンパテ★"のグッズは中学生が考えた感のある作り、だけど本当の中学生では出来ないカラーバランスや制作を調整しています」


それは……俺たちがメリットを失わず、活かすため。タキオは一緒にやると決めた時からここまで既に考えていたんだ。




それぞれの作業を済まし、ライブが終わると俺はタキオの元に走ってお礼を言う。


「タキオ、ありがと」


すると、タキオは少しニッと笑うと

「昔から、この瞬間のために仕事をしてます!」


と、今までに無いくらいの笑顔で言った。




ただ、この時が最後に見たタキオの笑顔になるとは俺は思っていなかった。

◯用語補足


・エンターシカリ

イギリスのエレクトロニコアバンド。

ハードコアと、トランスなどのエレクトロニカのミュージックを融合させたようなバンド

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