決戦直前
ライブ前日、タキオが来ていて、近所のカフェで待ち合わせをする。ネズミの衣装の件やステージの装飾を持ってきてくれた様だった。
実はかなが、西田さんとこの件を進めてくれていたらしい。
「期間が短くてきつかったけど、懐かしく仕事させてもらったよ!」
興味深く見ているひなは、構成などは合わせて話してくれていたらしい。ひなと打ち合わせていて入り方が変わっていたのはそのせいだったらしい……。
それぞれが成長し、1つのステージ。俺は気軽に任せていたつもりだった。だけど、それぞれ考え、着実に成長していた。
一応全体は知ってはいたが、ここまでちゃんと話しているとは思わなかった。
「どうや? 生で見たら結構すごない?」
「凄い! メールではよくわからなかったけど……スクリーンとかも話してたんだ??」
「"ガンウィズ"が使うらしいから西田さんが使わしてくれるように話してくれたんや」
「入りたい」
サヤはボソっと呟いた。
「4人で出来たらいいよね!」
そう言うと、サヤは笑顔を見せた。
しばらく話すとタキオは「ちょっと、今日はハコに用があるから」と言って出かけた。
こうやってカフェで話している4人を見ていると、まさか次の日そんなライブをするなんて誰も思わないだろうな。
世の中のスターバンドも人間だ。イメージが作りあげられ出るだけで、意外と普段はこんなものなのかも知れないな。
♦︎
ライブ当日になり、俺たちは朝早くからエメラルドホールに来ていた。事実上2回目、初めて出た時は色々な差があり俺は酷く落ち込んだ思い出の場所。
「おー、まひる! 今回4人なんだってな!」
フランクな喋り方に、少し低めの声。リクソンさんだった。
「リクソンさん? なんで?」
「なんでって、俺ここのPAだしな?」
ツアーやサヤとのアレンジで俺はすっかり忘れていた。初めて出会ったのもここのホールだった。
「サポート入れてるって事は結構勝算あるんだろ?」
「いや、自信はありますけど。相手が相手なんでね……」
「ははは、胸を借りるつもりでがっつりやれよ! これも経験、お前らは挑戦者だ」
「今日はお願いしますね?」
「もちろん、お前らの音はどのPAよりも知ってる自信あるぜ? ただ……」
「ただ?」
「サポートのギターお前らとそんなに年変わらない気がするけど大丈夫か?」
「サヤの事ですか? バッキングはわたしより上手いですよ!」
「嘘だろ……?」
「ただ、人見知りヤバイので優しくしてあげてください」
「あ、あぁ……」
リハーサルに入るといつものリクソン節が炸裂する……はずだったが。
「リズムギター、返事してくれる?」
「はい」
「中音の希望とかないの?」
「はい」
「……」
「人見知りってレベルじゃねーだろ……」
サヤは勝手にギターを弾く。
「やべぇな。本気の天才タイプかよ……」
リハーサルが終わると、リクソンさんがまた話しかけてくる。
「あいつ何者なんだ?」
「何者っていわれても……」
「ギターのセンスすげーけど、色々苦労しそうだな」
「彼女、不器用ですからね……」
「ただ、ガンウィズもリハしたけど、遜色ないレベルの音だったぞ」
「リクソンさんが言うなら自信つきます!」
「まぁ、頑張れよ! あとかなは何かあったのか?」
リクソンさんは少し眉をひそめた。
「いえ、いつも通り元気ですけど……」
「今日はなんかあいつに避けられてる気がするんだよな……」
ああ、そういうことか……
「まぁ、気にしなくていいと思いますよ!」
「それならいいんだけど」
多分、同棲してるのを知ってなんとなく避けているんだろう。意外とかなは乙女だよな。
俺はそれから、かなが準備している物販に向かうと、見たことのある人に声を掛けられる。
「君が、"ハンパテ★"のギターだよね?」
「そうですけど」
今は、ガンウィズの"にこにこジョン"という名前だが、俺の先輩でもある安藤さんだった。
「すごく上手いんだけど、聴いたことある気がするんだよね。誰かに習ったりしてるのかい?」
「ギターは、独学ですね……」
「そっか、知り合いのギターに凄く似てる気がしたから、今回の対バンもその音が気になっててね……」
安藤さんは少し寂しそうな顔になった。
「あと、サポートギターもヤバイよね? みんなレベル高くてびっくりしたよ」
「ありがとうございます! 今日は胸を借りるつもりでさせていただきます!」
オープンすると今日のお客さんは凄い数だ。
実際2回目の風景だけど慣れることが出来ない。
ドキドキしているうちに、ネズミのメイクがはじまり俺たちの出番はきてしまう。
始まりの合図、タキオさんの動画が効果音と共に流れ出した。
照明も相まって、演出がすごい。
相手の集客力5倍以上、ついに俺たちのライブが始まった。