ジャンルを考える!
ツアー後半は東側をまわり、最後は名古屋で最終決戦を迎える。
ある程度ライブの経験が出来たからなのか、最近のひなとかなはトラブルでも落ち付いて対処している。
特になにかを言うことが無くなった。
「まーちゃん、いつもリハでステージ降りてバランス聞いてるけどうちにもできる?」
「大丈夫だとは思うけど、音を安定させるためにも私がしておきたいね……」
「そっか、うちにもなんかできひんかな?」
「かなには物販なにか考えて欲しいかも! わたしあんまりその辺は得意じゃないし……」
「物販かぁ〜」
「多分売ったり、インパクト出したりは得意なんじゃないかな?」
「たしかにもうちょっと売れそうやしなぁ……ええよ! なんかかんがえてみるわ!」
「グッズとか、売れたら売れるだけ知名度も上がっていくしね!」
西田さんも、「かなが物販仕切るのは売れそうだな」と言った。
「新しいグッズなんかも、いいのがあれば西田さんも作らせてくれるよ!」
俺はそう言って西田さんをチラ見する。
「ん? あぁ、今回も結構売れたからね! 何かあれば山野に話してみるよ?」
「ほんまに? 何か考えてみよ!」
グッズの種類なども含め、ライブは順調に進化している。ただ、俺は一つだけ気になる事があった。
「西田さん、私たちのジャンルは何だと思いますか?」
西田さんは眉をひそめた。
「うーん、パンクロック、ハードコア、オルタナのどれかだとは思うよ?」
「えっと、メタルは? 入ってないです?」
「要素的にはギターとかは特に入っているけど、それを言えば色々ふえるよ?」
「たしかにそうですね、ハードロックやメタル各種、ブルース、ジャズは要素として入ってるかもしれないけどそれは、まぁ、当たり前ですよね……」
「そうだね、新しい音楽を生み出すアーティストは様々な音楽に影響を受けオリジナルの新しい音楽を生み出しているんだ。 だからジャンル自体は聴く人が勝手につけていると思っていいかもね?」
あのアイドルが言っていた事は、意図は違えど、ジャンルと見方は正しい気がした。
「クイーンやイエスがプログレッシブロックと呼ばれているけど、プログレの意味は"先進的な"という意味なんだ。当時としては様々なジャンルを取り入れる事自体が、凄く画期的だったんだよ」
「そうなんですね……でもクイーンよりはキングクリムゾンとかの方がプログレになりません?」
「もちろんそうだけど、ほら? 聴いている側がジャンルを決めているだろう?」
「確かにそうですね……」
「多分これらのバンドは、プログレをしようとしてるわけじゃないと思うんだ、ただ自分達が始めた新しい音楽が勝手にプログレと呼ばれるようになったんだよ」
「それでクイーン……」
「僕はクイーンはプログレだと思うけど、一部の曲以外は違うと言う人もいる」
「わたしもそうですね……」
「それで、いいんじゃないかな?」
俺が今まで一番足りなかったもの……。
"守・破・離"という言葉が有るけど、俺は20年間好きなジャンルを守り続けた。ただ、そのジャンルは俺の大好きだったアーティストにとっては、その人達が作り出した音に勝手につけられた区切りなのかもしれない。
転生した事によって、俺はひなやかなと1つ新しい音楽へ破る事が出来たと思う。
次のステップ"離"果たして見つけられるのだろうか?
頭の中がぐるぐる渦巻いて行くような感覚で俺は真っ白になっていく。ふと俺のてに暖かい感触を感じた。
「まーちゃん? 大丈夫だよ?」
ひなは、俺の手を握ると優しくそう言った。
そうだな、ひなやかな、その他にも沢山の人が俺たちに賭けてくれているんだ。
その後も浜松、仙台と、自分達の音楽で勝負する事ができた。
♦︎
俺たちは最終日に向けて、パフォーマンスや音のクオリティを研ぎ澄ました。
東京では、今回も同じライブハウス。
「"ハンパテ★"久しぶり! 今日の対バンはライバルになるとおもうよ!」
「ライバルって、どんなバンドなんです?」
「あれは天才だよ。 近いうちギターヒーローになっていると思う……」
「わたしより上手いんですか?」
「いいね、その圧倒的な自信! でも君は言えるだけの実力はあるからね!」
「えへへ……」
「強いて言うなら対照的な凄さだと思う。フレーズの空気感だったり、表現力だったり……」
風祭さんのいる新宿LIFTでは思いがけない相手が居た。
ライブハウスの隅に、しゃがみこんでスマホを弄る女の子がいた。
まさか……。
そう、転生後最大のライバルのギタリスト。
女の子は俺に近づき、抱きつき言った。
「まひる……会いたかったよ!」
◯用語補足
・プログレッシブロック
60年代後半に生まれたジャンル、全盛期は70年代の為、70年代の音楽のイメージが強い。
この時代に色々な派生ジャンルがうまれています。
基本的には5大バンドがメインで、クイーンはあまりプログレの代表ではないけど、知名度的に語られる時は出てくると思います。